第7話 神様からのギフトからの~最低な私
それは、20年前に誰に知らせるわけでもなくひっそりと始めたヤフーブログ。
『くずれのブログ』
ボクサーくずれ、夢に挫折したくずれたような人生・・・自虐的な意味を込めて、自分のハンドルネームを“くずれ”にした。
そして主に自分の体験談を上げていた。
誰とも交流するつもりもなかったので、自分から積極的に他のプログにコメントをしにいくでもなく、友達も作らず日記みたいな感じでひっそりと上げていた。
するとある日、私のブログにコメントが・・・
「くずれ、懐かしいな。俺、誰だかわかるか?」
ボクシング記事も上げていたので、私の事を知っている人が読めば私が誰だかわかる内容だった。
え?誰だろう?あの人かな?
数人の候補がいたけれど、その誰でもなかった。
な、なんと驚いた事にIさんだった!
私は嬉しくて嬉しくて嫁さんに話したかった。
すげーーーー!あの憧れのIさんやで!こんな事ある?って。
でも、嫁に話す事はできなかった。何故なら、嫁にブログをしていることがバレてはいけない内容も含まれていたからだ。
おまけに、Iさんがコメントをくれる前に、ある1人の女性がコメントをくれていた。その女性は私と同年代の主婦で、私の話を面白いと言ってくれてコメントのやり取りを頻繁にしていた。
別に好きとかは言ってないんだけれど、その女性のあるコメントで、少し・・いや、もうちょっとかな?(笑)
意識するようになっていた。
そのコメントとは・・・
「私、くずれって名前嫌だな・・。だって、くずれさんは、全然くずれてないもん!」
最後の「もん!」にズキューーーン!と・・・結婚していながら最低な男である。とにかく、その3人でわちゃわちゃコメントのやり合いをして遊んでいた。
そうそう、あんなに硬派だとばかり思っていたIさんが無類の下ネタ好きなのには驚いた。だって、現役時代に話していたIさんとのギャップが有りすぎだったからだ。
私自身、下ネタが嫌い・・いや、むしろ大好きか。(笑)
あんなに雲の上のような存在だったIさん。そのIさんが私の書く話を非常に面白がってくれた。
「くずれ、早く続き書いてくれよ。続きが気になって仕事になんないよ。」
な~んてコメントしてくれる。自分が憧れていた人、雲の上と思っていた人に、自分の与太話を楽しみにしてもらえる。
もぅ~何なんこの幸せな時間は!
神様って、たまにこういうギフトをくれるから、人は生きていけるんだなって思う。
そして、そんな2人の脱線しすぎる下ネタトークを女性が諫めるというのが続いていた。でも、諸行無常とでも言うのだろうか。そんな幸せな時間は永遠に続かなかった・・・
ある日、そのわちゃわちゃが嫁に見つかってしまった。そして、離婚騒動にまで発展。
えっ、体の浮気一切してないのに?ウソでしょ?
なんとか離婚を回避することを条件にある事を受け入れた。それは、スマホからガラケーに機種変する事。iPhoneが出始めた当初にスマホを持っていた私。
まさかのスマホからガラケーに機種変するという鯉の滝登り的な逆行。docomoの店員さんから「本当にいいんですか?」と、何度か確認される始末。
「いいんです。一思いにやっちゃって下さい。」
少しカッコつけて言っていた自分が滑稽に思えた。
そういう経緯があったせいか、妻は伝説のIさんに対して・・・
「伝説かなんか知らんけど、何なんコイツ!」
コイツって・・・
自分が蒔いた種とはいえ、すごく悲しかった・・・
こりゃ妻の目の黒いうちはIさんに会えないな・・・
Iさんとは、その後もたまに電話で話はしていた。けれど、やっぱり実際に会って話してみたかった。それに、バカ話ばかりしていて、肝心のもつれた糸の話をIさんとはしていなかった。
・・・・という経緯がIさんとはあった。
なので、Iさんに会えるという事には特別な思いがあった。
「山ちゃん、俺、Iさんに電話かけてみるわ。」
ラインでやり取りするより、実際に私が話をした方が早いと思い、電話をかけてみた。数コール呼び出し音が鳴ったけれどIさんは電話にでなかった。
「なんかIさん、仕事が忙しいみたいで、OB会にも最近顔出さなくなったんすよね~。」
「そっか・・・」
もしかしたらIさんと会えるかな?って思ってただけに少し淋しかった・・・
と、そんな感傷的な気持ちになっていた時、私のガラケーが鳴った。
Iさんからだった。
「おーーーー!絶坊主!ひっさし振りだなーーーー!」
Iさんは、いつも静かな朴訥とした口調で話をする。でも、“ー”の多さ、“ひっさし”っていう物言いで、Iさんの嬉しいという感情が痛いほど伝わってきた。
「絶坊主、いつまでこっちにいるの?」
「明日までいます!」
「そうか、じゃあ今晩は泊まるの?」
「はい、山ちゃん家に泊まる予定です。」
「そうか、じゃあ俺もそっち行こうかな?」
「えっ!Iさん、仕事大丈夫なんすか?」
「絶坊主に会いたいからさ~。」
もう・・嬉しいって言葉じゃたんないくらい感激してしまった。と同時に、Sさんが大変な時にこんな感情になっている罪悪感もあった・・・
Iさんからの電話を切った後、山ちゃんに言った。
「なんか、Iさん来てくれて嬉しいんだけど、Sさんが危篤なのに複雑やわ・・・」
すると、山ちゃんが。
「いいと思いますよ。これも全部、Sさんが引き合わせてくれたんじゃないですか?悪く考えることないっすよ!」
単純な私は山ちゃんのそんな言葉で納得した。
“27年間もつれた糸”
やっと・・・やっと・・幸せな結末に結び直すご褒美の時間が始まろうとしていた。
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