第3話 27年振りの再会
数メートル先に、携帯を握っている精悍で目付きの鋭い男がこちらを見ていた。昔の淡い面影。
「おーーー!山ちゃん!」
「お久し振りです!絶坊主さん!」
そう言いながら2人ガッチリと力強く握手した。お久し振りというにはあまりにも時間が経ちすぎていた。
後輩ボクサーの山ちゃん。
数年前にFacebookで繋がって以来、電話ではちょこちょこ話していた。でも、実際に再会するのは実に27年振り。私より4歳年下の46歳。今は車屋の社長をしているとの事だった。
山ちゃんとの出会いは強烈でよく覚えていた。
「お願いしまーーーすっ!」
ある日、いつものようにジムに入った私。
そこには、角生えてんかと思うほどの鬼ゾリ君が見学用の椅子に座っていた。目付きが異常に鋭く、中々の存在感を醸し出していた。
おおーーー!気合い入っとんなーー!でも、入門してどれくらい持つかな?
同じように、いかにも不良みたいな子が入門しても、スパーリングで一口ゲロ吐く、もしくは顔面しこたまどつかれて鼻血が尋常じゃないくらい出て辞めていく人間をたくさん見てきた。
かくいう私は絶対プロボクサーになる!という確固たる信念があったので、どんなに鼻血が出ようとも、絶対に自分から背を向ける事はなかった。そのせいか非常に珍しいけれども、練習生の段階で鼻は潰れていた。お陰でプロの選手に根性を誉められ可愛がって頂いた。
果たして山ちゃんは・・・
私と同じように根性を見せて、プロの選手たちに可愛いがられていた。
後に山ちゃんと話すようになって、16歳で退路を断って絶対にプロボクサーになる!という決意で1人上京してきたという事がわかった。
私自身も16歳で家を出されてある施設に預けられていた。17歳の頃、お気に入りのホステスさんの前でカッコつけて飲み屋で元プロボクサーにケンカを売り、ぶっ飛ばされた。その元ボクサーに諭され、爛れた夜遊びを辞めて本格的にプロを目指したのが17歳。
だからか山ちゃんには強いシンパシーを感じていた。
山ちゃんと出会った時、私は既にプロだったので山ちゃんと拳を交える事はなかった。そのかわりと言っちゃあ何だけれど、主に更衣室にあるシャワールームで私の武勇伝的下ネタでよく笑ってくれた。
「自分結構コブシさんの話覚えてるんすよ!チン○にタイガーバーム塗った話とか、コンドームに鮮血が出た話とか!」
あれから27年・・・
立派に成長したものだ・・と、親心にも似た感情を抱いていた。
「あ、絶坊主さん、荷物持ちます!」
「え、いいよいいよ!」
「まぁまぁまぁ!」
そう言って山ちゃんは私のキャリーバッグを持ってくれた。
私は後輩などに対して偉そうに荷物を持たしたり、使いっ走りをさせるのが大嫌いだった。16歳の頃、一番下っ端からスタートしたから理不尽な年上からの要求がとても嫌だった。
だから、そんな思いを同じように後輩たちに抱かせたくないという思いからだった。でも、何か山ちゃんだったら甘えられるから不思議だ。
“タテヨコ不変の人間”
タテ・・・・いくら時間が経って、自分の地位が上がって偉くなったとしても。
ヨコ・・・・自分の回りにいる人間。特に立場の弱い店員さんなど。
いくら時が経って、自分の地位が当時より上がったり、立場の弱い人間に対しても何ら変わらない人間。
私が常に目指している人間像。また、こういう人間は信用がおけるという判断基準にしている。
山ちゃんは年商1億を売り上げているやり手の社長。使っている人間もいる立場。なのに、あの頃と変わらず私みたいな先輩を立ててくれる。
本当に立派になったものだ・・・
少し歩いて、山ちゃんが車を止めてある駐車場に行った。
「スゲーな!流石、社長やな!」
でっかいベンツのSUVが山ちゃんの車だった。
「そんなことないっすよ!自分なんか全然大したことないっすよ!」
「それをベンツ乗ってる人間が言うと、スゲー嫌みに聞こえるんよな。」
2人あの頃と同じように笑い合った。
“しばらく会わなくても、再会したときには昨日の続きのように話ができる相手”
スピリチュアルカウンセラーの江原啓之さんが親友の定義として言っていた言葉。
ただ単に、私の方が山ちゃんより4年早くこの世に生を受けただけ。
友達のような感覚。
山ちゃんとはそんな感じだった。
そして、神様からの贈り物のような私の生涯記憶に刻まれる2日間が始まった・・・
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