第12話 マルゴレッタちゃんとアルディオス家の人々2
屋敷の客間にて、革張りの豪奢なソファに腰掛ける二人の男と、黙々とワゴンに置かれたティーセットに紅茶を注ぐ赤髪のメイドの姿があった。
金髪の美丈夫ローゼンは、対面に座る筋骨隆々の野性味溢れる厳つい顔をした男に対して和かに告げる。
「ジャレッド兄さん。もう、用件は済んだだろ?とっとと帰ってくれないかい?」
「あのなぁ……お前が情報を集めて来いって言うから、俺は方々駆けずり回って情報を仕入れてお前のとこに来てやったってのに、用が済んだから帰れって非道くねぇか?」
赤髪のメイド、アイカがジャレッドと呼ばれた男に、熱々の香り立つ紅茶を冷めた目つきで勧める。
「コレを三秒で飲み干せ。そして失せろ。いや、寧ろ死ね」
「ふざけるな。俺はマルゴレッタに会うまでは断固として此処を動かんぞ!!」
「……燃やされたいのか?脳筋魔導王」
「何だぁ?あの時の決着を今、此処で着けて欲しいのか?変態放火魔」
アイカ、ジャレッドから異常な魔力が漏れ出し、客間全体に二人の殺意が満たされていく。
睨み合う強者。張り詰めた緊張の糸が、ブチリと切れそうになる刹那、ローゼンが大きな溜め息を吐いた。
「二人共、此処にはマルゴレッタがいるんだ。今、あの子を刺激する様な真似はしないで欲しいね」
マルゴレッタというワードに、二人の殺意が霧散する。
「チッ……。お嬢様のお陰で命拾いしたな」
「お前がだろ?」
「「あ"あっ!?」」
再び睨み合う二人に、ローゼンは飽きれた表情でこめかみを押さえると、扉を開く音と共に天使の声が室内に響いた。
「あばっ〜〜〜〜!!お客様はジャレッド叔父ちゃんでちか!?」
嬉しそうにトテトテとジャレッドの元に駆け寄る幼女。
ジャレッドは厳つい顔をこれでもかと蕩けさせ、駆け寄ったマルゴレッタを軽々と抱き抱える。
「おぉ、マルゴレッタ。一年見ないうちに一段と可愛くなったなぁ!!将来、お前の婿になる奴が羨ましいぜ!!がっははははは!!」
「えへへへっ。そんな事ないでちよ〜。ジャレッド叔父ちゃんも元気そうで、わたち嬉しいでち!」
もじもじと恥ずかしそうな素振りで照れるマルゴレッタと、久しぶりに会う可愛い姪っ子の成長に心底嬉しそうな表情を見せるジャレッド。
そんな仲睦まじい二人に対し、拳を握り締め、ブルブルと体を震わせるローゼンとアイカ。
「あんな野獣に、僕の可愛い天使が抱き抱えられている事実に殺意を覚えるよ……」
「同感だ……。ぺロリア……もう少し引き伸ばせなかったのか?後、一分もあれば、奴の存在を無かった事にしてやれたのに……」
アイカの視線の先には、額にじっとりと汗をかいたナイトカイン、そして丸々と太った眼鏡メイドが気味の悪い笑顔で佇んでいた。
「デュフフフフ。アイカ氏。出来ない事は簡単に言うものじゃない。それに、ジャレッドはオリヴィエ様が認めた数少ない客人。粗相を犯せば、私もお前もオリヴィエ様に殺される」
「使えん奴め……」
「……デュフフフフ。お互い様」
互いに牽制し嫌味を言い合う二人を尻目に、ローゼンは親指の爪を食みながらマルゴレッタとジャレッドの会話を苛立たしく見詰める。
「ジャレッド叔父ちゃん、また、世界中を旅してたんでちよね?今度はどんな所に行ったんでちか?聞かせて欲しいでち!」
「ん〜。そうだなぁ。今回も色々な所に行ったが、一番印象に残ったのはコレだな!」
ジャレッドは腰に携えた革製のポーチに手を突っ込むと、小さな硝子製の小瓶を取り出す。
その小瓶の中には七色に変化を繰り返す、光り輝く砂が詰められていた。
「あばば〜〜!とっても綺麗でち〜」
神秘的に変化する輝く七色の砂に、うっとりと見惚れる乙女な幼女。
「此処から遥か東方に”シャカーン砂漠"って呼ばれる朽ちた遺跡と黄色い砂しかねぇ馬鹿みたいに広い場所があるんだが、十年に一度だけの夜にシャカーン砂漠の一部分だけが七色の砂に変化する場所があるんだ。しかも、毎回発生する場所が違っててな。探し出すのに骨が折れたぜ」
「あば〜。ジャレッド叔父ちゃんお疲れ様でちね〜。でも、ただの砂がどうして七色に光り輝くんでちかね?」
「"精霊残滓"ってヤツだな。様々な精霊達の魔力の残滓が砂に付着して色を着けんだよ。まぁ何故、あんなシャカーン砂漠に精霊達が集まるのかは解らんがな。世界の七不思議ってやつだ!がっははははは!!」
ジャレッドはマルゴレッタの金髪をワシャワシャと撫でながら破顔する。
「すげぇんだぜ。辺りは闇一色なのによ、其処だけ砂上が七色に変化を繰り返し、キラキラと光の帯を浮かび上がるらせるんだ。十年後。お前がもう少し大人になった時に、あの幻想的な世界をお前にも必ず見せてやからな!今は、その小瓶の中にある小さな世界で我慢してくれ!!」
ゴツゴツした大きな手から手渡される小さな世界。
マルゴレッタは戸惑いながらもソレを受け取った。
「わたちにくれるんでちか?ジャレッド叔父ちゃんの大切な物じゃ……」
「がっはははは。お前の土産にと思って持ってきたんだぞ。俺手製のその小瓶は魔力を封じ込める特性を持っていてな、小瓶を破壊するか封を切らん限りは、精霊達の魔力残滓が霧散する事無く永久的に、その七色の輝きを保ち続ける!大切にしてくれよ。マルゴレッタ」
その時だった。幼女が起こした何気ない行動に客室にいた者達、全てに電流が走り修羅場が訪れようとしていた。
「ジャレッド叔父ちゃん、ありがとうなんでちよ~。大好きでち。――ちゅっ♡」
ジャレッドの頰に天使の口づけが行われると、屋敷中に様々な者達の阿鼻叫喚が響き渡った――
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