第13話 マルゴレッタちゃんとアルディオス家の人々3

「「「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"っっ!!!」」」


 マルゴレッタの取った行動に、阿鼻叫喚のアルディオス家の面々。

 それに対して、ジャレッドは野獣の如き歓喜の咆哮を上げ、幼女を力の限り強く抱き締めた。


「ぐびゅ!?ジャ、ジャレッド叔父ちゃん……く、苦しい」

「うぉぉおぉおおおおおおおお!!お前は本当に可愛い奴だなぁ!!もう、あの変態と親子の縁を切って、俺の娘になってくれ!!」


 ガタリとソファーから立ち上がるローゼン。


「僕のマルゴレッタを汚した挙句、親子の縁を切れなんて……頭の中に蛆でも湧いてるのかな?ジャレッド兄さん。僕が頭の中をブチまけて診て上げるよ……」


 血の涙を流し薄ら笑いを浮かべるローゼンの手から数本の荊が産み出され、ソレが絡み合いながら剣の形を成していく。


「ケ、ケダモノの分際で、お嬢様の唇を賜るなんて……。ふふっ……。私は、もう我慢ならんぞ。燃やしてやる……。お前の肉体も魂も何もかも燃やし尽くして灰にしてやる……」


 右手で赤い髪を掻き毟り、左手で顔半分を覆い被せるアイカ。覆い被せた手の指の隙間から黒い焔がユラユラと燻り始めると、ぺロリアは太った体をカタカタと小刻みにカラクリ音を鳴らしながら不気味に嗤った。


「デュフフフフ。アイカ氏。あの筋肉ダルマの罰は私が下す。中身をくり抜いて、私の人形コレクションにするから、燃やすのは絶対駄目……」


 尋常ならざるドス黒いオーラを漂わせる三者に、ナイトカインは先程から滲み出る汗の質が変わった事に気付く。


「しっかりしろ吾輩……。マルゴレッタ様をお護りすると誓ったのだ……。頑張れ〜〜。頑張れ〜〜吾輩……」


 異質な力を持つ者達の激突の予感に、ナイトカインはガタガタと震える両の脚に爪を突き立て、己を奮い立たせた。


「あばばっ!?み、みんなどうしたんでちか?パパ!?目から血が出てるでちよ!!そ、それに、この部屋……何だか凄く魔力が淀んでる気がするでち」


「がはははは!お前のお礼のキスがコイツ等の嫉妬心に火を点けたみたいだな!いい大人がみっともねぇ。お前等、溺愛するのも過保護すぎるのも結構だがよ。近い将来必ず、マルゴレッタに煙たがられるぜ!少しは距離感ってのを学んだ方がいいんじゃねぇか?」


 ジャレッドの煽りに三人の魔力が更に高まっていく。


「「「ぶっ殺す!!」」」


「おうおう!変態元勇者に元魔王四天王のポンコツ二人が相手なら不足はねぇ!かかって来いや!!魔導の極みってヤツを披露してやるぜ!!!」


 一触即発。

 正にその言葉道理、触れれば弾けてしまうような状況に幼女は戸惑い眉を顰め、瞳に涙を溜め暗い表情を見せた。


「……また、ケンカするんでちか?ケンカは"めっ!"なんでちよ……」


 マルゴレッタの憂いの言葉と表情に、部屋の者達全ての時が止まり、そして思う。


『憂う表情のマルゴレッタも可愛い!!』と――


 その時だった。

 残念な思考を持った者達の耳に、客室の厚い両開きの扉を蹴破る音と共に怒声が響き渡る。


「お前等、どんだけ馬鹿騒ぎするにゃ!!就寝中のオリヴィエ様が起きちゃって大変にゃぞ!!」


 白髪の褐色肌、際どいデザインのエロメイド服を着た猫耳、猫尻尾のメイドが白い眉を吊り上げ捲し立てる。


「オリヴィエ様、激おこにゃ!!あの方の寝起きの悪さは最恐最悪にゃの知ってるにゃろ!?今日、お側仕えしてるシロネはガグブルにゃ!壊されちゃうにゃ!!アイカ!ぺロリア!あと、勇者も早くオリヴィエ様の所に来るにゃ!!」


 自らをシロネと名乗る獣人メイドは、素早く両手と尻尾で三人の腕を無理矢理掴み、部屋から連れ出そうとするとマルゴレッタに向けて笑顔をみせた。


「マルちゃんは森で遊んで来て欲しいにゃ〜。この屋敷は暫く✖✖チョメチョメな時間になっちゃうのにゃ……。マルちゃんには、まだ綺麗なままでいて欲しいのにゃ……」


 ポカンと口を開ける幼女は、シロネに疑問を投げ掛ける。


「シロネちゃん……。✖✖な時間ってなんでちか?」


「フッ……。乙女なシロネの口からは言えない事にゃ……。どうしても知りたいなら、そこの筋肉ダルマに聞くといいにゃよ……」


 儚げな表情で部屋から去ろうとするシロネと、諦めた表情で引き摺られるアイカとぺロリア。しかし、ローゼンだけが頑な抵抗を続けた。


「待ってくれ!シロネ!僕は今日、マルゴレッタと空の散歩を楽しむ予定なんだ!!は、離してくれ!!」


「諦めろにゃ!竿がいなきゃ始まらないにゃろ!?シロネ達がガッツリ、サポートしてやるから搾り取られろにゃ!!」


「い、嫌じゃ無いけどイヤだあああああああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 遠ざかるローゼンの絶叫に、唖然と立ち尽くす残された三人。

 マルゴレッタは薄々、感付きながらも好奇心からかジャレッドのズボンの端をクイクイと引っ張る。


「ジャレッド叔父ちゃん。✖✖な時間ってなんでちか?」


「んー。スケベな事でもすんだろ?」


 ど直球な解答に顔を真っ赤にしながらも溜息を吐くマルゴレッタ。


「ジャレッド叔父ちゃん。ナイトちゃん。お外に遊びにいこっかでち……」


 聡い幼女である。

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