第4話 マルゴレッタちゃんと古龍ちゃん1
「お嬢!!しっかりと掴まっててくだせぇよ!!!」
「あぶぶぶぶぶっ。キ、キングちゃん、現場に急行して欲しいとは、い、言ったでちけど、少し加減し、あばばばばばばっ」
森の中を疾風の如く駆けるキングに騎乗するマルゴレッタは風圧で、ぶちゃいくな顔を晒しながら古龍が現れた西の森へと急行していた。
アルディオスに名を連ねる者達は、決っして森の中に部外者が侵入する事を許しはしない。
それが、この世界の魔獣の中でも最強種とされている古龍だとしてもだ。
マルゴレッタは、焦っていた。
うちの者に見つかりでもすれば、万の軍勢でようやっと討伐出来るような最強種ですら、単独で狩ってしまうだろうと。そして、その壮絶な戦いの先で待っているものは巻き込まれた森の命達と古龍の無残な死骸だけ。
"命"に拘る優しきマルゴレッタには許容出来る筈も無かった。
「お嬢、そろそろ古龍の元に接近しそうなんですが、ちと、気になる匂いが……」
「あぼあぁ……。に、匂いがどうかしたでちか?」
その時だった、キングの斜め後方から王冠を被った白い毛並みの狼が、恐ろしい速度で追従しキングの横に並んだ。
「クイーンちゃん!!」
「姫、お出まし頂き感謝致します!豚ァ!!止まりなさい!!」
「誰が、豚じゃい!!犬っころがぁ!!!」
キングとクイーンと呼ばれた白い狼がその場で急停止し、いがみ合う。
急停止した勢いで、騎乗していたマルゴレッタはキングから放り出され、丸まりながらコロコロと転がっていってしまった。
「あばばばばばああああああぁぁぁぁぁぁ!!?」
「あ……。お嬢!?」
「あ……。姫!?」
マルゴレッタころりん♪ころころりん♪♪
そんな、童謡が何処かしら聴こえそうな程に滑稽に転がっていくマルゴレッタ。
回転は激しさを増し、二匹の魔獣が追いつけない程のスピードをつけていく。
「お嬢おおおおぉ!!と、止まってくだせぇぇぇぇぇぇ!!!」
「姫ええええぇぇ!!そ、その、先には古龍がぁぁぁっぁ!!!」
「あばぁああああ、世界が回るでちぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「ま、回ってるのはお嬢でさぁ!!」
「そんな冷静なツッコミしてる場合じゃないでしょ!?馬鹿豚!!」
群生する木々を器用に躱わしながら、森を突っ切る丸ゴレッタ。
やがて、拓けた窪地へとその身をダイブさせ、巨大な物体に激突しそうになる刹那、マルゴレッタの全身にふわりと優しい風が纏わり付きクッションの役割を果たす。
巨大な物体に激突したマルゴレッタは、纏わり付いた風のお陰で怪我をする事も無く、その場に停止する事が出来たのだ。
「あばっ〜〜〜。目が回るでちぃ〜〜」
フラつくマルゴレッタに巨大な物体が語りかける。
「……幼子よ。大事ないか?あんな勢いで吾輩にぶつかれば、その小さな身が粉々に砕けておったぞ……。吾輩の風魔法が間に合って本当に良かった」
「あ、ありがとうございまーー」
感謝の言葉を述べようとするマルゴレッタの眼前には、死の匂を漂わせた古龍が地に倒れ伏していた。
片翼が捥がれ、巨大な体躯に付けられた痛々しい無数の斬り傷から大量の血が流れている。
古龍の無残な姿に、張り裂けそうになる胸を押さえ、歩み寄る幼女。
「その酷いキズ……どうしたんでちか?」
傷付き横たわる古龍は、虚ろな瞳で幼女を見つめる。
「幼子よ……。どうして吾輩のような魔獣に対して、その様な哀しい表情をするのだ……?」
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