第3話 マルゴレッタちゃんと命の価値

「どうして、そこまでして他人の命に拘るんでさぁ」


 この森に侵入した者の末路は残酷だ。

 森には危険な魔獣が蔓延り、死神達が目を覆いたくなる残虐な行為で、侵入者の命を刈り取っていくのだから。

 心優しき幼女にとって、それは見過ごす事の出来ない事柄だった。


「……生きる為に、命を頂く事は仕方の無い事でち。だけど、この森はそれ以外の事で、余りにも命が簡単に奪われ過ぎてるでち……。それって、とても悲しい事だとは思わないでちか?」


 マルゴレッタの言葉はキングには理解出来なかった。

 彼が獣だから理解出来なかった訳ではない。


「わたちは、神様なんかじゃないから全員って訳にはいかないでちけど、わたちの目の前で誰かの命が理不尽に散っていくなら、どうにかして救って上げたいんでち……。それが、わたちの大切な家族達を付け狙う悪い人達であってもでち。てか、うちの家族はみんな過剰防衛すぎるでち!」


 侵入者に対してエゲツない行為を働く家族を思い出し、ぷりぷりと憤慨するマルゴレッタ。


「……お嬢はやっぱり不思議なお人でさぁ」


「えへへっ。そ、そうでちか?」


「褒めてねぇですぜ……。ま、まぁ、いいでさぁ。ところでお嬢、今日もパトロールってヤツをするんで?」


 マルゴレッタは、伏せたままのキングにおずおずと跨り勇ましいポーズをとった。


「当然でち!! 森の平和は、わたち達にかかっているでち!! キング隊員、行くでち!!」


 その時だった、森の奥から小さな物体が物凄い勢いで、マルゴレッタ達に近付く。


「ん? あれ、ミニウーリちゃんでちね。何だか凄い焦ってる感じがするでち」


 大人の手の平サイズのウーリボウが、マルゴレッタ達の前で急停止すると、焦った様子で何かを訴えかけてきた。

 キングはミニウーリの鳴き声に、相槌を打つと驚愕の声を上げる。


「何ぃ!? ソレはホンマかぃ!?」


「ウリーーーーーィ!! ウリウリィ! ウリリーーーーィ!!」


「キングちゃん、ミニウーリーちゃんは何て言ってるんでち?」


「……犬っころ共が縄張りにしてる西の森に、どうやら侵入者が現れたらしいでさぁ」


「う〜〜。昨日、来たばかりなのにまたでちか?」


 キングの粒らな瞳が、嶮しくなる。


「いや、今回は人間達じゃねぇです。……古龍が現れやした」


「あばぁっ!?」


 マルゴレッタは素っ頓狂な声を上げると、白目を剥きながら騎乗したキングから落ちていった――

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