第0話 女神様のお願い
目の前の少女は、整った顔つきをしている。黒い大きな瞳に、艶やかな口唇、綺麗な目鼻立ち。それに加えて白髪に黒い縞模様が付いた髪を持っている。服装は日本神話の神様のような服装をしている。年齢は十六歳くらいだろうか。
なんかハイテンションな少女だが、亮は声に感情を乗せることなく目の前の少女に話しかける。
「君は誰だい?」
「………もうちょっと驚いてくれても良いんじゃない?」
少女は反応の薄い亮を不満そうに睨む。
「で、君は誰だい?」
「むぅ、もっと。こう、驚きを表してくれると……。まぁいいや」
不服そうだが少女は話を変える。するとどこからか現れたソファに座る。亮にも向かいに座る様に手で誘うのでそれに従って向かいに出てきたソファに座る。
「さて、私の名前はネイロ。君達からの概念からすると、神様に当たるよ」
「神様……」
「おお、疑ってるね」
「うん」
亮は即答で答える。ネイロはニコッと笑って。
「ふふん。でも、この体から滲み出る神様のオーラを感じるかな?」
「まぁいいよ。別に君が神様でもそうじゃなくても、どうでもいい。よくわかんないことが出来るおかしな何かという事しか分からないからね」
「おかしなって、女の子に対して酷いね~。ま、別にいいか、じゃあ本題だ」
肩をすくめ、やれやれと息を吐いて、ネイロは話を続ける。
「君に頼みたいことがあるんだ」
「頼みごと?」
「そ、頼みごと。ちなみに、拒否権はないよ」
「それは、頼み事って言わないよ」
ネイロは強制的にいうことを聞かせようとする。呆れた視線を向けながら亮は内容を聞いておく。
「頼み事っていうのは?」
「私は、他の世界で神様をやっているんだけどね。そこにはもうすぐに勇者が召喚されるんだ」
「ゲームみたいだな。勇者様が働いてくれるなら、俺は別に必要ない気がするんだが」
「ま、ゲームみたいな世界っていうのは否定しないが。召喚した勇者について問題があるんだよ」
「問題?」
勇者をどうやって召喚するのかは知らないが、少なくとも選定とかは、するものなのではないのだろうか。そう思い首を傾げる。
「選定とかはできないんだよ。召喚の術は、素質のある人間を強制的にこちら側に引きずり込むってもの。どこのだれを召喚するかはその術式に潜ませたモノの選定次第」
「潜ませたものって?」
「さぁ? それを知りたきゃ、自分で調べる事だね」
「不親切だね」
亮はいつの間にか、出されていたお茶を自然と口に入れる。優し味だ。茶柱もたっている。神様の効果だろうか?
「頼みっていうのは?」
「召喚される子達は、君達みたいに戦場を練りまわって、修羅場を潜り抜けてきた猛者じゃない。平和な時代を生きていた、ただの少年少女達なんだよ」
「……それで?」
多少、不快感を表しながら、話を続けるように訊く。
「君達に頼みたいのは、その子達を守って欲しい。勇者の守護者をしてほしい」
「……自分の不始末を他人に拭わせる気かい?」
たはは、と困ったように笑って誤魔化そうとするネイロ。亮は視線で誤魔化しを許さない様に睨む。
「おお、怖い」
「怖いじゃ、済まなくさせてやろうか?」
「ははは、本当に殺されそうだ」
亮から発される尋常じゃない殺気を、ネイロは余裕の表情で受け止めている。そこから目の前の少女が堅気ではないと思われる。亮は殺気を納めて、話を続ける。
「報酬は?」
「やる気になったのかい?」
「そうじゃない。やらせるからには、何か見返りがあっても良いんじゃないのかって思ったからだ。それにこれは強制なんだろ」
「なるほど。だったら魅惑的な報酬を提示しよう」
そう言って、手を叩いて報酬を提示する。
「先ず、その世界について説明しようか。その世界はゲームみたいにスキル、レベル、能力値を見ることが出来る。別にそれが全てってわけじゃないけど、ゲームみたいにそれらが高くなると強い事になる。それでスキルにはね、コモンスキルと固有スキルがあるんだ。コモンスキルはその人の努力の結果、与えられたり習得できたりするモノなんだ。次に固有スキルは、その人に宿るモノ。それが元から発現してたり、後から発現したりして、その人の力になったりするんだ」
「で?」
「君達には偉人が持っていた固有スキルを差し上げよう」
「偉人? それって、織田信長とか徳川家康とかか?」
「そうだよ。歴史に名を残したであろう、偉人たちの力を君にあげよう」
「どういう力なんだ?」
「さぁ? それは貰ってからの、お・た・の・し・み!」
ネイロはパチッとウインクする。教える気は無いようだ。
亮はあからさまに顔を顰めて、話を続ける。
「他にもあるのか?」
「あるよ。君達に対して、他の神様から祝福をもらえる。加えて、私からは君の願いを二つ叶えてあげる」
「願い?」
「そう願い」
亮は顎に手を当て考え込む。
「……なんでもいいのか?」
「そういう訳じゃない。願いの数を増やしたりするのはなし。後は、世界のバランスを壊すような願いを、叶えたりは出来ない」
「……成るほど」
また、顎に手を当て考える。今度は少し長く時間を取って考えている。
「じゃあ、桜川優夢をあっちの世界に連れていくことは?」
「……少し、無理かな?」
「………」
どうして? と目で問いかける。
「今、その子は元居た世界にはいないんだ。君が行く世界に先に行ってしまった。いや、勇者の召喚魔法にかかってしまって飛ばされてしまった」
「………」
亮は深い溜息を吐く。流石の亮も、ネイロ達の様な神様の事情に何も言えないようだ。
「そもそも、連れていくことは出来ないし。連れて行って、どうにかなるの?」
「………」
目を逸らす亮。どうやらそこまでは、一瞬で頭が回らなかったようだ。
「………」
更に、亮は顎に手を当て、考える。
「じゃあ、俺、俺が守る予定の勇者、そして桜川優夢に絶対に裏切らない仲間を付けてくれ。それとその二人に、幸運を与えてくれ」
「うん? 君にはいいの?」
「別にいい」
「願いを叶えるぶん、君は不幸に見舞われるよ」
「それでもいいさ。その分、成長できそうだしね」
「呑気なものだね」
呆れたように笑うネイロ。実際、自ら進んで厄介事に巻き込まれようなど正気ではない。しかしネイロはそれでもいいかと、微笑して他の話に入る。
「で、私からは他にも渡すものがあるよ」
「お得だな」
「仕事を頼むのはこっちだしね。見返り位は大きくしないといけないと思って」
ネイロは割と義理堅い性格をしているのかもしれない。
「君のステータスを隠蔽する能力もあげよう。少なくとも最初の頃に見えることは無いだろう」
「目立たなくなるのは、助かるかな。ありがとう」
「他に質問とかはある?」
「……さっきから、君達って言っていたけど、俺以外にもこういうのを頼むつもりなの?」
「ああ、君の他にも五十三人。性格とかなら君の方が知ってんじゃない?」
「なるほど、超能力者たちか」
「うん。君達を会いやすくするつもりだから。そのつもりでいてね」
仲間が出来やすくなれば取れる選択の幅は広がるだろうが、だが性格に問題があるならどうなのだろう、と頭を抱える。
「苦労してるのかい?」
「正確にはしてた、かな?」
「そうかい」
そこから少し話をして、その場を閉めて、転生をすることになった。
「もうここに来れないかもしれないよ。それでもいいの?」
「別にいいさ。また会えそうだしね」
「はは、傲慢だなぁ~。ま、頑張る事だね」
そう言って亮の足元に幾何学模様が広がる。そのまま亮を飲み込んでいく。亮の意識は徐々に沈んでいく。亮の意識が消えそうになると、ネイロの声が聞こえてくる。
「じゃあ、君にまた会えるように祈ってるよ。君の第二の人生に幸がある事を期待するよ」
それを聞いて、亮の意識が途絶えた。
* * *
どこかの世界。その大陸の地方、ミゼール地方と呼ばれる地方の国の一つ、ガイネア王国。その王都にあるスラム街に一人の少年が苦しそうにしていた。
「ふぅ、ふぅ、あああ、ああ!ぐぅぅ!」
ビクビクして頭を抱えてのた打ち回っている。
「ああ、あああ!あっ!」
そのうち何かが止まったのか、いきなり体を起き上がらせる。
「ああ?ここは、どこだ?」
痛みは止まったが、体の不快感は止まってないのか少し震えている。少年は辺りを見回しながら、見慣れているが、真新しいような不思議な感覚がある周囲の景色を、不思議そうに首を傾げて見ていた。
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