126刀目 ルール1をクリアせよ
9階層。
そこは1階層を彷彿とさせる草原階層となっており、ダンジョンの時間稼ぎ後から出て来た階層なので、何かギミックがあるであろうことは予測できる階層。
ルールはシンプルなものが2つだけで、蒼太達の目的に沿っている『3匹の竜を討伐せよ』というものも含まれている。
そう、ダンジョンがこちらに合わせて来ているのだ。
8階層の足止めの階層もあり、これがまぐれや気のせいには見えず、蒼太は顔を顰めた。
(とはいえ、変化が起きるのはたぶん……1つ目のルールが終わってからか、その途中だろうしなぁ)
勘である《潜深》は何の情報も得ておらず、少なくとも嫌なことが起きるのは今すぐではない。
それに、2つ目のルールが気になろうとも、竜を討伐しなくてはいけないのは変わらないのだ。
──シェリーやファラよりも、余力を残して早く倒そう。
そう決意した蒼太の足は急いで目的の場所へと走った。
考えながらも中央の気配を追って草原を走っていると、大きな亀裂が見えた。
地面が割れてできたもの、というよりかは、ベガの《転移》による裂け目に近いものを感じる。
まるで別の空間同士をくっつけたような亀裂。
「……まぁ、大丈夫でしょ」
罠かとも思ったが、この先に待っている存在の気配がそれを否定しているような気がする。
蒼太は背後の視線がついて来ているのを確認してから、意を決して亀裂の中へと飛び込んだ。
真っ暗な穴の中を落ちていくと、薄らと感じていた強敵の気配が大きくなっていく。
最終地点まで落ちると、そこは草原から一変、紫色の雲が広がる草ひとつ生えていない不毛の大地が広がっていた。
「さて、ここに竜がいるはずだけど」
『キュルルルルルル』
蒼太の呼びかけのような声に反応して現れたのは、黒の竜であった。
鱗と同じ色の雷を身に纏い、黄色い眼光が蒼太の体を貫く。
タンペッタのように長い体ではなく、まるで西洋のドラゴンを彷彿とさせる姿。
黒の体に瞳と同じ黄色のラインが走っていて、デザインしてという点で見れば『カッコいいドラゴン』だ。
だが、この竜が見掛け倒しでない限り、強敵である事は明白。
(とはいえ、どうしたものか……なっ!?)
一瞬、ほんの少しの間だけ思考を巡らせている間に、竜は蒼太をロックオンし、大きく口を開く。
『ギュァアアアッ!!』
と、同時に放たれる白い稲妻の
蒼太はブレスを放たれる前に《幻想》の権能を使って自分の分身を生み出した。
蒼太が移動したと思わせる事で
相手が幻想に囚われている間に、一気に喉元へと接近する。
そのまま首を一太刀しようとした瞬間──寸のところで龍の黄色い目と蒼太の青い目が交差した。
《幻想》が解けた。そう直感した蒼太は舌打ちする。
切る姿勢から回避へ。前転で受け身を取りながら竜の喉元から足へと退避する。
ほんの少し、逃げ遅れた髪の毛が薙ぎ払われたブレスによって犠牲になったが、抉られた大地ほどではない。
いくら権能があるとはいえ、無防備に受けたら一溜まりもないであろう一撃。
(でも、雷を纏わないのであれば、こっちの手札は減ってない)
ルールで縛られている訳でも、近付きにくい相手でもないのだ。
──相手が切れるのならば、切る。
蒼太の目から青い光が迸った。
竜の尻尾が叩きつけられるのを横回転で躱し、刀をくるりと一回転。
「まずはその邪魔な……尻尾!」
斬、と尻尾を跳ね飛ばし、返す刀で胴を真っ二つにしようとする。
しかし、竜もそこまで馬鹿ではないらしく、空を飛んで回避し、上からブレスを放った。
「《切開》」
蒼太はブレスを迎撃するために粒子を刀に纏わせて、雷のブレスを切り開く。
ブレスは真っ二つにされて、一直線に竜を切る。
「ガッ」
「《幻想》」
だが、致命傷まではいかず、竜の牙を数本もっていくだけに終った。
蒼太と竜がにらみ合う。
竜は変わらず、雷を口から漏らしているのに対して、蒼太は何故か青い光を纏わず、刀も鞘に納めたまま。
殺意を持っている相手がほぼ棒立ちになっている、違和感。
しかし、竜はその感覚を無視してブレスを放つ準備をした。
……相手が最初の方にしてきた『分身のようなもの』は、何だったのか?
それを考えられなかった時点で、この戦闘の勝敗は決まってしまっていた。
(やっぱり、1階層のアイツが例外か)
蒼太は《幻想》の権能を解いて、隠していた姿を表す。
竜が蒼太だと思って攻撃した存在は幻であり、本物の蒼太が姿を現したのは竜の首の後ろ。
竜の命を刈り取る刀が首に向かって振り下ろされた。
竜は抵抗することも叫ぶことも許されずに絶命する。
蒼太はそのまま
「外は特に変化はなし……か」
亀裂の外は入る前と同じ青空が広がっていた。
暫く前に進みながら、空を観察するが、特におかしな変化はない。
どうやら目標の『早く倒す』は達成できたようだ。
(後は、消耗だけど……この感じだと、問題なさそうかな?)
慣れていない粒子の確認を目を閉じて行い、減ってないと判断した蒼太はまた、足を動かす。
粒子の消費を避けるために、蒼太は権能を使わないように意識する。
それでも8階層まで取り込んできた
7階層のイレギュラーな
さらにここから《潜深》の権能を使えば身体能力が上がるのだから、ベガから『本格的に人間を卒業しているっすね』と言われても反論できなかった。
そんなことを思い出していると、蒼太の頭の中に声が響く。
【蒼太、ちょっと急いだほうがいいかもしれない。前、見てごらん】
言われるがままに《潜深》を使って身体能力を引き上げる。
見えなかったはずの彼方まで見えるようになった目で捉えたのは、
「まさか……本当に来るのか」
記憶に蘇る空色の竜。
蒼太の手足をボロボロにし、一歩間違えたら全滅していた空色の竜が、記憶の中の空を……そして、目の前の空を我が物顔で泳ぐ奴が姿を現す。
距離があるせいなのか、それともあの時よりも本当に小さいのか。
その姿は1階層の時よりも小さくて一瞬、
あれは間違い無く、蒼太が切り開いた竜そのものだと。
「もう草原に顕現しているのに、嵐も起こさずに虎視眈々としてるみたいだけど……いや、まさかね」
【まさかって言うけどさ、ダンジョンの中ではありえないことはありえないんだよ?】
「それもそうだ。じゃあさ……《潜深》、いける?」
【あぁ、君が望むならどこまでも】
権能が発動し、蒼太の体が淡く光る。
「──たぶん、竜の狙いは各個撃破だから……飛ばすよ」
【オッケー、かっ飛ぶよー】
呑気な声が頭に響くのと同時に、蒼太は青い光となって草原を駆け抜けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます