124刀目 9階層攻略へ
49日と23時間30分。
この8階層に来て、過ごした時間だ。
今日もホテルのタイムは刻一刻と時間が進んでおり、そろそろ攻略条件を達成するであろう事はこの場にいる全員が感じていた。
(振り返れば、中々長かったなぁ)
後半では他の候補者である
合流当初はそこまでできなかったコントロールも、今では『候補者にも負けていない』とベガからお墨付きをもらった。
それなので、蒼太の方はシェリー達の言葉を実行する準備ができている。
(……でも、シェリーとファラはどうだろう?)
蒼太はこっそりと視線を琴座三姉妹の妹2人へと向ける。
戦闘のセンスがなくて、まともに武器が振るえないシェリー。
そもそも権能によって攻撃できないファラ。
たった数十日でどうこうできるとはとても思えないが、蒼太は首を横に振る。
──できると2人は言ったのだ。信じなくてどうする?
蒼太が出した結論はこれだった。
「さて、そろそろ時間やけど……次の攻略のことでわからへん事はないよな?」
シェリーがぐるりと周囲を見渡して、確認してくる。
次、9階層の攻略は蒼太とシェリー、ファラが主に攻略することになっている。
もしもがあったり、理由があっての参戦が認められているのは、ベガのみ。
カプリコ達保護派の候補者3人はリラの護衛をお願いしているので、候補者組は全員見学だ。
「……3人とも、本当に大丈夫なんすか? 分断の階層はそういう前提の難易度になっているからクリアできただけで、次の階層とは難易度が全く違うっすよ?」
不安そうに口を開いたのはベガだ。
今まで妹を守らねば、と必死だったベガはやはり、心配な気持ちが抑えられないらしい。
最後の方の言葉が弱々しくて殆ど声になっていなかったのを見るに、本人も不要な心配なのは理解しているのだろう。
頭では理解していても、感情が追いつかない。
今のベガの姿は、そんな風に蒼太には映っていた。
「ベガ、こういう時は信じてあげましょうよ」
「姉様は冷静っすね」
「……今、この場で1番足手纏いになるのは私でしょうから」
ベガの視線から逃れたリラは自嘲するような笑みを浮かべ、蒼太達ダンジョン攻略3人組に「頑張ってくださいね」とエールを送る。
「
「はい、天秤座さんの守りは、任せてください」
ピスケが魚のキグルミの両
「そうねぇ……3人のお手並み、後ろからじっくりと拝見させてもらうわ〜」
いつものように女性らしい品のある所作で手を口元に当てるカプリコ。
この候補者達ならば、今回はリラを守ってくれる。
そう思うぐらいには蒼太との信頼関係が構築できている候補者3人に心配は不要だ。
残るのは現在、妹達と無言の睨めっこをしているベガの納得だけである。
「……あぁもう! 良いっすよ、ちゃんと大人しく後ろで見てるっすから、その目はやめてほしいっす!」
シェリーとファラの視線に負けたベガが叫ぶ。
両手を挙げて「やったー」とガッツポーズする妹2人。
「でも、危なくなったら介入するっすから覚えとくっすよ!」
まるで捨て台詞のようなセリフを吐き出しつつも、ベガはダンジョンの攻略を了承する。
──そして、タイミングが良いことに、タイマーの残り時間が0へ。
タイマーから光が放たれ、空高く伸びていく。
それと同時に襲いかかるのは軽い揺れ。
立てないほどでもない地震のような揺れに踏ん張っていると、タイマーがあった地面から
「……来たね、次の階層への
「ん、行こう」
蒼太の言葉に、ファラが頷く。
現地人1人に、候補者が4人。従者は3人。
そんな珍妙な攻略パーティは
☆★☆
扉を潜った先は、草原であった。
どこか1階層に似ていて、しかし崖や湖は存在しない別の草原。
1階層を1番乗りで攻略していた蒼太達の脳裏に、青い影がチラつく。
「……ん、《地図》を使う」
そんな中でもファラは権能を使い、9階層の地図とルールを表示した。
「やっぱりその権能は便利ねぇ。迷わず、恐れなく進めるのは魅力的過ぎるわ」
ファラの権能に感嘆したのはカプリコだ。
どこに扉があるのか、そもそも隠されているのか?
どんなルールがあって、何が禁じられていたり、封じられているのか?
候補者にはその不安が付き纏い、攻略のスピードを上げられない枷となる。
未知への恐怖を感じるからこそ、候補者は何も知らない候補者に攻略させたがるのだ。
『無知』はそれが無謀であろうとも、前へと進めさせてくれる燃料となると、自覚している故に。
「ん。ルール、出た。お誂え……むき?」
ファラがそう言って首を傾げつつも、地図を全員が見やすいように前に出す。
【ルール:①3匹の竜を討伐せよ
ルール:②復讐するモノを迎え撃て】
どことなく、嫌な予感がする文章に蒼太の目が細くなる。
とはいえ、ルールの1つ目は3匹の竜の討伐だ。
ファラがちょうど良いと言ったのは恐らく、こちらも攻略するのが3人だからだろう。
──だが、しかしである。
「丁度いいって、もしかして3人別れて攻略するつもりなの?」
「そっちの方が早いやろうからなー。ファラちゃんの案、ウチは賛成やで」
恐る恐る聞いた蒼太の質問に、シェリーはからからと笑った。
どうやら本当にやるつもりのようである。
どこからその自信が出てくるのかはわからないが、2人の様子を見るに、自信過剰でも無謀でもなさそうだ。
(信じるって決めたんだから、最後まで貫くべきか)
最悪が起きそうであれば、起きる前に蒼太が敵を倒して、駆け付ければ良い。
それが無理だとしても、本当に不味くなったら──あの姉妹の長女が放っておくとは思えないし、痛い目に遭うぐらいだろう。
「2人がそういうなら、良いよ。真ん中、僕がもらうから」
地図にある魔物の位置は左右と中央の3匹。
蒼太は迷う事なく1番気配が大きく、厄介そうな相手を選んだ。
「わかった。じゃ、ファラは右側にいるから、右」
「ウチは残りの左やな」
恐らくベガ辺りは蒼太が真ん中を選んだ理由を察してそうだが、1番気付かれたくない2人には勘付かれていないようだ。
こっそりと安堵の息を漏らし、蒼太はリラ達の方へと視線を向けた。
「それじゃ、僕達はダンジョンの攻略を始めるから、カプリコさん達、リラをよろしくお願いします」
「ええ、よろしくされたわ」
「後は……リラは心配しないで、大船に乗ったつもりでいてね」
「ちゃんと船が泥でできてないか、確認してくださいね」
「それはもちろん」
カプリコとリラ、それぞれとやりとりした蒼太は今度こそ中心地の方へと向く。
「健闘を祈ってるっすよ」
「任せてよ」
ベガの言葉に蒼太が返事し、シェリーが「頑張ってくるわー」と、ファラも「ん、やる」とやる気を示す。
3人は竜がいるであろう場所へ、それぞれ走り出したのであった。
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[後書き]
お気づきの方は気づかれてるかもしれませんが、あらすじ通り、申し訳ございませんが、本日の投稿で毎日の投稿から切り替えさせていただきます。
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