100刀目 閑話 戦えるようになり隊


話は戻って、シェリーとファラのお話です。


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 7階層の攻略が終わり、ベガが屋根の上にいる頃の地下室、真っ白なトレーニングルームにて。



「戦えるように、なりたいんやぞー!」



 シェリーが天正高く、右手を突き上げる。



「ぞーっ」



 真似するようにファラも拳を突き上げた。



「ウチらやって、お荷物じゃあかんのやー!」


「やーっ」



 2人揃ってまた手を上げた。



「というわけで、第……えぇと、何回目やっけ?」


「結構、やってる?」


「あー、そうか……じゃあ、第結構やってる回目! 『戦えるようになり隊』の作戦会議を始めるでーっ」


「わぁぁ」



 シェリーとファラが2人揃って会える時間に、この会議は行われる。


 センス的な理由で戦えないシェリーと、権能的な理由で戦えないファラ。


 7階層ではあっさりと気絶してしまった2人は、何とか攻撃手段を手に入れようとしていた。


 ……といっても、これが初めての試みというわけではない。


 結構やってる回目と言っているだけあって、何度も何度も開催されている会議という名の話し合いであった。



「ウチもファラちゃんも、蒼太ちゃんと2人だけでもダンジョンを攻略できたやん?」


「ん、そう」



 まるでコントの前振りのようにシェリーから投げかけられ、ファラはコクリと頷く。



「攻略できたなら、ゲームでいう経験値的なもんが溜まって、ウチも戦闘センスが上がってるかもしれへんやろ?」


「んん? そう??」



 ──何を言っているのかわからない。


 そんな言葉が裏から聞こえてきそうなぐらい、不思議そうな顔をしつつも、ファラは相槌を返す。


 シェリーは蒼太から『実力者』と呼ばれながら、遠回しに足が遅いことを指摘されるぐらい、こと戦闘に関してはセンスのない存在である。


 いくら1つの階層を攻略したとしても、それでどうにかなる程、簡単な問題ではないと思うのだが。


 ファラはウキウキと準備しているシェリーを覗き込む。



「……大丈夫?」


「いけるいけるー。お姉ちゃんを信じるんやー」


「んぅ」



 シェリーが準備した木製のナイフを見ただけで、ファラは未来が見えた気がした。


 ファラにそういう権能が生えてきたり、覚醒したという事実はないが、未来が安易に想像できるのだ。


 嫌な感じがしたファラはポーチから盾を取り出し、見つからないように注意しつつ、いつでも構えられるように準備する。



「それじゃあ、いくで!」



 掛け声と共に、シェリーが的に向かってナイフを投げた。


 フォームだけは研究しているのか、とても期待のできる美しい動き。


 何も知らない相手ならば、真っ直ぐ飛ぶと断言できる綺麗な動作で、ナイフが投げられた。


 投げられた……と思いきや、何故か手からすっぽ抜け、後ろに待機していたファラが構えていた盾にぶつかる。


 盾によって弾かれた木製のナイフは宙を舞って、軽い音を立てて地面に落ちた。



「……シェリー姉さま?」


「すんません、気のせいでした」



 ジトッとした目でファラが見つめると、シェリーが振り返る勢いで飛び上がり、そのまま土下座する。


 ベガ直伝のジャンピング土下座だ。


 そんなものをすぐに披露できる姉に呆れればいいのか、ため息をつけばいいのかファラにはわからない。


 やれやれと肩を竦めて、ファラは土下座するシェリーの前にしゃがみ込む。



「センスについては、諦めるべき」


「いや、でも」


「匙、投げられてる」


「……やっぱり、そうやろうか」



 ガックリと肩を落とす姉には申し訳ないが、ファラはしっかりと現実を突きつけた。



「まぁ、ウチのこれは今に始まったことやないし、ええとして。ファラちゃんは何か思い付いたん?」


「ん。得意で、殴る」


「……つまり、どういうことや?」



 得意で殴る。


 言葉の意味そのものはわかるが、ファラは権能で攻撃できない。


 それなのにどう攻撃するというのか、シェリーにはまだ理解できないようだ。



「ん、これ」


「これは……ロボットアニメのDVDやな」


「ん」



 ヒントを渡したファラは大きく頷き、渡された側の眉間に皺ができる。


 シェリーはしばらくパッケージと睨めっこしていたが、やがて何かを思いついたのか、ハッと目を見開いた。



「ロボットに殴ってもらうんか!」


「ん、正解」



 《創造》の権能は『直接攻撃する動作』を封じるものであって、間接的な攻撃を阻害するものではない、というのが最近わかってきた。


 盾で殴ることはできないが、防御目的ならば盾を持って攻撃を弾くのも可能。


 意外と抜け道があるのを見るに、まだ試せていないものの、勝算はあるとファラは見込んでいた。



「ファラちゃんは一旦、その方向に進んでええかもしれんな」


「ん、でも、困ったことに、適したコアがない」



 いくら《創造》の権能を持っているとはいえ、その権能の裏を突くアイテムを作ろうとしているのだ。


 生半可な道具では作成できず、今はまだ机上の空論であった。



コア? じゃあ、これとかどうなん?」



 困った様子の妹に、シェリーが手渡してきたのは大きな六角形の宝石だった。



「これは?」


「3階層の扉の守護者ゲートキーパーの女の子がくれた、ロイヤルハニー・クリスタルや。これならエネルギーとして最適やろ?」


「おぉ……すごい、ばっちり」



 ファラの方はシェリーの持っていたアイテムで解決する目処が立ったものの、問題はシェリーである。



「3階層の扉の守護者ゲートキーパーの時、飛んでくる攻撃を迎撃して全部弾けたんやから、いけると思ったんやけどなぁ」


「……何で迎撃、したの?」


「何ってそりゃあ結界で……あぁ、権能を使っただけやから、センスが上がったわけやなかったんか」



 またもシェリーは肩を落とし、今度は膝もついてしまう。


 かなり落ち込んでいるようだったが、ファラはトドメを刺したかったわけではない。



「なら、結界で攻撃、できないの?」


「結界は守るもんやろ?」


「迎撃した時の……結界って、どんなの?」


「どんなんって言われても、フリスビーみたいな小さい結界を幾つも展開してやなー」



 扉の守護者ゲートキーパー戦のように一発勝負で興奮しているわけでもないせいか、時間をかけつつ、普段とは全く違った丸くて小さな結界を展開する。


 結界というにはお粗末で、守るのには全く適していない結界。


 あの時は土壇場で使ったが、粒子の消耗も普通に結界を張るよりも少し多く、自由に動かせる以外は大変な代物。


 見れば見るほど防御手段としては適していないお粗末な結界だった。



「それ、攻撃に使えない?」


「これを? 結界で攻撃なんてどうやるんや?」


「刃物みたいに、薄い結界で、ズバッと」


「あー、こんな感じかいな?」



 ファラの辿々たどたどしい説明を聞きつつ、シェリーは1つのミニ結界を的に飛ばす。


 結界は最も容易く的を切り裂き、シェリーの元に帰ってきた。



「……できたな」


「できた」


「「やったーっ!」」



 ファラの攻撃手段も目処が立ち、シェリーの攻撃手段も雛型が今、実現した。


 2人は揃って大喜びし、第結構やってる回目、『戦えるようになり隊』の作戦会議は成功で終わるのだった。



 ──これがダンジョン攻略に役立つかどうかは、今後の2人の努力次第である。




━━━━━━━━━━━━━━━━━



[後書き]


という感じで、記念するべき100話なのですが、2人も頑張ってますよーという回でした。



☆次回

ほんの少し昔の話の閑話です。

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