102刀目 閑話 三姉妹と交わる前の事
[前書き]
☆リィブラ(リラ)の口調
話口調と心の中の声の口調が違っていますが、仕様です。
読みにくいなど、あるかもしれませんので先に前書きにで失礼します。
☆スラファト
琴座三姉妹の三女、ファラのフルネーム。
☆ベガ
トゲトゲしてる頃。ハリネズミガール。
☆バルゴ
乙女座。閑話で出てくるシスター服姿の女性。
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──それはまだ、メイン演目である『親友』の途中だった頃。
特に仲違いもしていなかった乙女座と天秤座は、星空が綺麗なテラス席に座り、楽しそうにお茶会をしていた。
話が盛り上がったのは偶然、リィブラ達の前を通りかかったボロボロの女の子3人を見てから。
ある意味有名な三姉妹を知らないという、世間知らずな天秤座の発言からだった。
「リラってば……琴座三姉妹を知らないの?」
青い目を丸くさせた女性、乙女座のバルゴが紅茶を片手に小首を傾げる。
「あぁ、君以外の星の民はよく思い出せなくてね。それだけ君に夢中だったのかもしれない」
どこか歯に浮くような、男装の麗人らしい仕草を見せるスーツ姿の女、天秤座のリィブラが微笑む。
周りの女性から注目を集める彼女は、10人中9人が『カッコいい』と口を揃えて溜息を漏らすぐらい、男役が様になっていた。
「冗談は流すとしても……リラってば、まだ記憶の混濁があるのね」
「ははは、すまないね。いつも迷惑ばかりかけてしまって」
「
「【徳の覚醒】か。私の覚醒は罪でもあり得るんだが」
「あなた
「……そうか」
舞台からそのまま飛び出して来たような仕草を見せていたリィブラが一瞬、悲しげな顔を浮かべる。
リィブラにはバルゴが嬉しそうに話す『昔』の記憶がない。
思い出せないのではなく、ないのだ。
思い出しているように見せているのも、後から聞いた話を必死に調べてイメージして、補填しているだけの紛い物。
いつまで彼女を騙せるのか。騙していることを話した時、彼女は自分を受け入れてくれるのだろうか。
騙している罪悪感と、それでも唯一の友達の親友でありたい自己都合に板挟み。
内心を押し隠したリィブラの顔は、本人も気がつかない影を作り出す。
憂いを帯びた笑みは周りで様子を伺っている女性に息を呑ませる程、様になっていた。
「ところで、不勉強な私にその琴座三姉妹とやらを教えて欲しいんだが、いいかい?」
「えぇ。といっても、私も直接は知らないんだけど……」
琴座三姉妹。
諜報、医療、生産とそれぞれ特化した権能を持っており、攻撃的ではない星の民でありながらも、積極的に最終試験に参加する猛者。
三姉妹の長女は様々な意味で有名人であり、『管理者目前までいった者』や『最初期の記憶を持っている星の民』、『トリックスター』など様々な呼び名を持っているが……
「1番よく呼ばれているのが『候補者殺し』ね」
「候補者殺し? そんなもの、試験に参加すれば多かれ少なかれやってしまうだろう。なぜそんな異名が1番よく呼ばれているんだ?」
「彼女に狙われた候補者は『必ず殺される』からよ」
「それはそれは……とんでもない話だね」
親しい友人や眷属と食べていたと思ったら、胸から刃物が生えていた。
現地人と交渉しに行ったはずなのに、気がついたら入れ替わっていて、絞殺された。
いつの間にか嵌め殺され、知らぬ間に情報が筒抜けだった、罠にかけたと思いきや罠に嵌ったのは此方だった……等々。
「どんな手段も
「ふぅん、そうなのか。勉強になったよ、ありがとう」
「全然。これぐらいなら誰でも知ってるもの。いつでも頼ってちょうだい」
「ああ、頼りにさせてもらうよ」
そんな会話をしながらも、リィブラの興味はとんでもない演技力を秘めた長女の方へと向かっていた。
バルゴとは適当な所で話し終え、リィブラはギラギラとしたあの目を探す。
あっちへプラプラ、こっちへウロウロと彷徨っていると、ふと、猫っぽい赤い瞳を見つけた。
(確か……三姉妹の内の1人、三女のスラファトさん、でしたっけ)
机の前でカラフルな液体を混ぜ合わせ、チャプチャプと揺らせば七色に輝く。
赤と青の液体を混ぜたはずのに、何故か透き通った緑色になったり。
黄色の液体に粉を入れてクルクルと混ぜ、電球のような光を放ったり。
まるで手品のような不思議な景色に、リィブラは隣に座ってじっと見つめていた。
「……何?」
「あぁ、いや、すまない。邪魔をするつもりはなかったんだ」
「ん……その話し方、嘘っぽい。好きじゃ、ない」
「そ、そうか……そう言われるのは初めてだよ」
「……」
ぷい、とそっぽを向いて液体を混ぜる作業に戻るスラファトは、どんな言葉で声をかけても反応してくれない。
まるで、リィブラのことなんて見えていないかのように、スラファトは無反応だ。
女性にチヤホヤされることはあっても、無視されたことはなかったリィブラは困ったように眉を下げる。
(……話し方が嘘っぽいと言ってましたし、演技を見抜いてるぞって言いたいんでしょうか)
ぐるりと見渡してみても、周りにはリィブラとスラファト以外には誰もいない。
リィブラは悩んだ末に、絶対に管理者様や自室以外では使っていない口調を解禁することを決めた。
「私も貴女に嘘をつきたくて、あの口調ではなかったのですが……これで良いですかね?」
「ん。そっちの方が、似合ってる」
「あはは……それは、困りましたね」
苦笑するリィブラはじっとスラファトの作業を眺めている。
スラファトもそれ以降、話しかけられないので黙々と作業を続行した。
薬品の調合を無言で行う存在と、眺める存在がいる中、背後の空間が裂かれるように開かれる。
「ファラちゃーん! 迎えにきたっすよー」
裂け目から現れたのはリィブラが探していた存在だった。
ギラギラとした何もかもを刈り取る目とは違った、優しい光を帯びた綺麗な桃色の瞳。
まさか『候補者殺し』と呼ばれるような存在が見せる瞳とは思えず、リィブラは唖然とスラファトに抱きついた存在を見ていた。
「んで、アンタは何っすか?」
「あ、あぁ、すまない。別に君達に敵対しようとか思ってないんだ。ちょっと興味があっただけで」
「ふぅん。まぁ、アンタ、
「いや、そこまで言うつもりはないが」
「ハッ。その演技っぽい言動、やめた方がいいっすよ。アンタに似合ってねぇっすから」
そう吐き捨てて、ベガはスラファトの手を握り、裂け目の中へ消えてしまう。
残されたリィブラは頬を指で掻き、椅子に座ったまま肩を落とした。
「いやはや、困ったね。初対面の相手に2人連続で見抜かれてしまうとは」
結局、長女からコツを盗もうと思ったのに、2人からダメ出しされただけで終わってしまった。
一言話しただけで演技だ何だと言われることなんて初めてだったので、今までの動きに自信があったリィブラはため息を漏らす。
(しかし不思議ですね……私の親友の為の演技が否定されたというのに、笑みが浮かんでしまうとは)
落ち込む心と、笑ってしまう顔。
どちらが本当の自分なのか、困惑しつつもひとつだけわかったことがある。
「次に会った時は、嘘っぽいやら演技っぽいとは言わせませんから……」
それはリィブラという存在は、負けず嫌いなところがあるということ、ただそれだけである。
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[後書き]
☆次回、4章がぬるっと始まります。
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