第2話
私が4歳の春。
赤ちゃんが産まれることになった。
母が苦しむ様子を見て、心配になった。
迎えにきてくれた父方の叔母夫婦の車に私と母は乗せてもらい、病院へ行った。
母は車の中でも苦しそうで、私は覚えている限りの記憶で叔母に病院の場所を伝えていた。
母は苦しそうにしながら、私に言った。
「うるさい。お前の声を聞いてるとイライラする。黙ってろ」
ただ母の役に立ちたかったのに、それが母の役にも立っておらず、しかも叔父と叔母の目の前で罵倒されたことがただただ恥ずかしく、私は口を閉じて俯いた。
俯く瞬間に目に入った叔母の心配そうに無言で私を見ている目が忘れられない。
弟はその日の夜中に生まれ、父に再び病院に連れてこられ、私は弟を見せてもらった。
可愛いなぁ、私の弟。
それが弟の第一印象だった。
弟と母が帰ってきて、私は有頂天だった。
家に赤ちゃんがくる!私の弟が来る。
何か役に立ちたい!
家でプラスチックの大きな赤ん坊用のベビーバスが床に置かれ、温かいお湯を父が用意していた。
ベビーバスに気持ちよさそうに浮かんでいる弟。
私は弟が可愛くて可愛くて、ベビーバスに浮かぶ弟を触っていると、ベビーバスの中に木の葉のような茶色いものが沈んでいるのが見えた。
「葉っぱがおちてる」
手のひらを沈めてそれを掬うと、それは弟がお風呂に入ってつい気持ちよくて出てしまったものだった。
「こいつ、葉っぱとか言ってうんこ拾ってるよ!」
母が大笑いして、私を笑う。
母が笑うときはたいてい誰かが失敗した時だった。
その後、弟はホカホカになって風呂から上がり、白い産衣を着せてもらい、布団に寝かされた。弟が呼吸をしている様子さえ可愛くて愛おしかった。
私が弟にべったり張り付いて、弟のほっぺをそっと触った時
「触るな!お前は触るな!」
なぜだか今もわからないけれど、母に弟に触るのを禁止され、それから私は弟に気軽に近づけなくなった。
それからは朝起きると母に
「どっか遊びに行きな!弟に触るんじゃない!忙しいんだから外で遊んでこい」
と私は母に邪険にされ、家に居ると不愉快そうなオーラ全開にされて、いづらい日々になった。
しかし家の前の公園で遊んでいると、弟より少し大きなよちよち歩きながら、お母さんと遊びに来ている男の子がいた。
小さな子供が大好きで、そんな子供にさわれなかった私は吸い寄せられるようにその子に近づいていった。
「可愛い!お名前はなんていうの?」
色が白くて、ぽっちゃりした男の子は私を見ると嬉しそうに笑った。そしてプラスチックの黄色いスコップを持ちながら、よちよちとこちらに歩いてくる。
「ノブくんよ」
ノブくんのお母さんは笑顔で、優しく私に答えてくれた。
「ノブくん、こんにちは」
そのあとお昼までずっとノブくんと遊んだ。
ノブくんのお母さんはずっと私とノブくんの遊ぶ様子を何も言わずに笑顔で見守ってくれて、私は本当にノブくんが可愛くて可愛くて、お昼の時間のチャイムが団地中に流れた時、後ろ髪を引かれる思いでおばさんに尋ねた。
「ノブくん、明日も来ますか?可愛いからまたノブくんに会いたい」
「ありがとう。ノブくんがまたお姉ちゃんと遊びたいみたいだから、また明日も来るね」
こうして私の毎日はノブくんという可愛い男の子に彩られる毎日になった。
毒親みさこ @tasyrya
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