仕方なく部屋を出る

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」


シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ


 朝になった。俺にとっての朝とは、午前の7時ではない。午後の2時だ。引きこもり生活故に俺は昼夜逆転の生活を送っていた。その為、俺の起床時間は午前の7時なんて健康的で早い時間帯ではなく、午後の2時になっている。午後の2時が俺にとっての起床時間であり、朝だった。


 昨日の衝撃的な光景により、俺は一睡もできなかった。とにかく、悶々としていた。それも無理はない。思春期という、性欲と体力を持て余している年代にも関わらず、俺は外界との接触を絶っていた。当然のように、女の子との接点なんてない……。


 モニター画面の中にしか、女の子なんていなかったのだ。性欲において、俺は飢えた獣みたいなものだったのである。約二年ぶりに見た、生身の女の子。それも相手はあの学園一の北欧美少女であるアリサだった。それも俺は彼女の生着替えを見てしまった……。


 くそっ……後、ちょっとで先っぽまで見えたのになぁ。


 それでも、俺にとっては強すぎる刺激だった。そんな俺にとってやる事は一つだった。

 

 ゴミを見るような目で見下された事など知った事ではなかった……。あのアリサに見下されるなんて、俺にとっては最高のご褒美だ。俺にはもはやプライドなんてものは微塵もなかったのだ……。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ」


 シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ


「うっ!」


 ドビュッ!


 ティッシュに白い液が飛び掛かる。何度目の射精かわからないが、大量の精液がティッシュに出された。ベッドの周囲には使用済みのティッシュが無数に転がっていた。俺は昨日みたアリサの生着替えをオカズに、一睡もせずに一晩中、自慰行為(オナニー)に耽っていた。


 あんな刺激的な光景を見ておいて、我慢ができるわけがなかった。


「ふう……少しは落ち着いたか」


 俺は溜息を吐く。しかし驚いた……まさか、あのアリサが隣の部屋に引っ越してくるなんて、世の中には嘘のような本当の話もあるもんだ……。

 

 とても信じられないような出来事も、次第に受け止められるようになってきた。


 コンコンコン!


「ん?」


 ノックの音が聞こえてきた。


「真治君……」


 親父の声だった。


「なんだよ? 親父……」


「一応、君もこれから家族になるんだ……。一つ屋根の下で暮らすのに、新しい家族と一つも顔を合わせないわけにもいかないだろう」


 昨日、穴越しにあのアリサとは顔を合わせたが……まあいい、そんな事は親父は知らないだろうし、あの状態では顔を合わせたとはとても言えないだろう。ゴミを見るような目で見下されただけなのだから。


「出て来て、顔を合わせなさい」


「……くっ」


 なぜ、俺がそんな事をしなければならないんだ。引きこもりである俺が部屋から出たら負けなのに。必要最小限、部屋から出たくないんだ……。


「今日はおいしいお寿司も取っているんだ、だから……」


「ふざけるな! 誰が部屋から出るかよ!」


 俺は父親に反抗してみせた。


「そういう事言うなら、今日の食事は届けないよ」


「ふ、ふざけんな! 親父! 俺が餓死しちまうじゃねぇか!」


 俺は部屋からは出ないが、食事だけは持ってこいという、我ながら身勝手な要求をする。


「我儘言うなら……そのまま部屋に閉じこもってなさい」


 父親の足音が響く。くっ……本当に生きやがった。毎日一回、父が届ける食事だけが俺の栄養源だというのに。


 引きこもり生活をしているが故に、食事は朝昼晩、三回取るなんて規則正しい事はしない。基本的には夜の一食のみだ。腹が減るが、父親も働いている都合上、仕方がない。


 しばらく、俺は我慢した。時間は過ぎていく、そのうちに夜になった。しかし、夜になっても父がいつものように、俺に食事を届けてくる気配がない。


 ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。


「腹減った……」


 腹の音が盛大に鳴った、丸一日何も食べていないのだ。当然のように、腹が減る。我慢にも限界があった。


仕方ない……。


ガチャリ。俺はドアの鍵を開け、トイレ以外では滅多に出ない、部屋の外へと出ていったのである。


そして、普段は行かないリビングへと向かう。廊下もリビングは綺麗だった。汚い俺の部屋とは対照的に、随分と綺麗になってきた。新しい家族を迎える上で、父が掃除をしたのだろう。開かずの部屋となっていた俺の部屋の掃除はできなかったが。


「あっ……」


 そこで、俺は当然のように顔を合わせてしまう。これから新しい家族となる、義母と義妹――アリサと。


 顔を合わせたくなくても、合わせざるを得なかったのだ。


 二年振りの他人との接触に、俺の背筋に異常なまでの緊張が走るのであった。

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