第10話「天空兵団(その2)」
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オルナ村に現れた無数のムーンデビルは消失した。
エージェント・フーロコードとその部下二人。そし、空から襲来した謎の騎士団たちの活躍。
更には遅れてやってきた協会メンバー達の援軍もあり、絶体絶命の窮地を脱することが出来たのだ。
「……最高のタイミングね。助けに来てくれるとは思ってもいなかった」
フーロコードは無数の巨大甲冑兵達の中。ひとりだけデザインの異なる甲冑を身に纏う騎士の元へと向かう。
「ハッキリいって助かったわ。帝都のエリートは人助けも早い」
その兜はまるで竜のような風貌。籠手、脚部にも竜らしいトゲトゲとした装飾が目立つ。その姿はまるで空を駆ける竜そのもの。
「ありがとう、【アロナス】。感謝を言葉だけというのは気が引けるけど、今はそれくらい余裕がないの。ごめんなさいね」
「なに、君達を見つけたのは偶然だ。礼もいらん」
甲冑の中からはその見た目イメージ通りの低い声が聞こえる。
「しかしよかったよ。君が無事で」
声からしてそう若くはない。フーロコードと同じ、二十代後半の男性と思われる人物が中にいるのだろう。
「帰ってる途中だった?」
「あぁ。任務を終え、ムーンデビルの報告を受け帰還している最中だった。その途中でそれらしき怪物と君達を見つけたのだ」
「本当に運が良かったのね。神様信じちゃうわ、私」
日頃の行いはやはり良くしておくべきである。フーロコードは自身の努力が報われた事に感動を覚えている。
「え、えっと。フーロコード殿、こちらの方は?」
「む? 見慣れない顔だ。協会の一員ではないな?」
キョウマ、そしてアロナスの両名は見慣れないメンツを前、余所余所しくも視線を向ける。
「それともフーロコードが寄越したという新米か?」
「え、えっとでござるが……」
初対面という事もあって、キョウマの方は緊張しているようだが。
「数日前に雇った用心棒よ。そっちの女の子もね」
フーロコードがフォローを入れた。キョウマはもちろん、エメリヤの紹介もしてくれる。
「むむっ。その上着は王都騎士隊新米の制服か! そちらは帝都の魔法学園の制服……なるほど。どちらも正真正銘の腕利きというわけだ」
「紹介するわ。アロナスよ。帝都騎士隊・
「【アロナス・L・ヴォルトバニングス】だ、よろしく頼む。初対面を甲冑姿のまま失礼する」
アロナス。一騎士隊の隊長は籠手を着けたまま片手を差し出す。
「王都騎士・キョウマ。今はフーロコード殿の用心棒にござる」
その腕はあまりにも大きく、成人男性の片手だろうと掴みきることは出来ない。なのでキョウマは代わりに両手でそのアロナスの手を覆うことにした。
「エメリヤ。よろしく」
それに続いてエメリヤも両手でアロナスの片手を覆った。
「隊長。村の調査を進めましたが……住民らしき人物が見当たりません」
「もっと細かく調査せよ。ムーンデビルなる怪物が隠れている可能性もある。慎重にな」
「イエッサー!」
敬礼と共に騎士兵が村の調査を再開する。
「……妙よね。村に誰一人いないなんて」
「もう遠くに逃げたのかしら?」
フーロコード達が駆け付けた頃には盗賊団が数名と殺された住民らしき人物達しか見当たらなかった。遺体一つ見当たらないとなるとこの村の住民は無事逃げ切ったと考えるべきか。
「あの盗賊団。私達の目の前で急にムーンデビルに変貌した。帝都に現れた個体と同じように」
何故、人間がムーンデビルへと変貌するのだろうか。あれは故意にやっているのか。或いは無理矢理変貌させられているのか。
「あれだけの数。盗賊団は少数だと聞いていたわ。エメリヤの言う通り、村もグルだった……いや、それはないか。でもだとしたら、あれだけの数どこから……?」
「いました! 生存者です!」
最中。騎士兵の一人の声が聞こえる。
「数は!?」
「一人です!」
「すぐに保護するんだ!」
アロナスの指示に従い、騎士兵は村の何処かに隠れていた生存者の保護へと向かった。
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「「……」」
数分後。街の広場に連れて来られたのは若い女だった。格好からして盗賊団だとは思えない。
一体何があったのか。この村で何が起きたのか。
何か知っている情報が一つでもあれば仕入れておきたい。本当なら当事者である盗賊団本人に聞きたかったが、残念ながら彼らは塵となって消えてしまった。
尤も、あの姿でまともに話が通じると思えないが。
「エージェント・フーロコードよ。少し、お話よろしいかしら?」
帝都のエージェント所属のエンブレムを見せ、事情聴取を開始する。
「一体、この村で何が」
「いやぁああああッ!!」
しかし、声をかけた途端、だ。
「いやっ、いやっ……うぷっ……!!」
若い女は急にトチ狂ったように叫び出した。まるで獣のように鳴き続けると思いきや、今度は表情を引きつらせ、苦しみ始める。
“嘔吐”だ。
女は口から異物を吐き出す。人前であろうと、気にする素振りも出来ずに。
「ひっ、ひっ……」
吐き出した後、涙を流しながら震えるのみ。とてもじゃないが話が通じる状況には見えなかった。
「安心した今になって、恐怖が蘇ったでござるか」
「……余程、怖いものを見たのかしら」
「無理もない。あのような怪物、騎士であろうとも臆してしまうのが道理」
正気を保っていられるはずがない。
こうして生きていた事さえも地獄に感じられるようだ。若い女はただひたすらに嗚咽と悲鳴を繰り返すだけでとても喋れる状態ではない。恐怖で完全に壊れてしまっている。
「駄目ね。話にならないわ」
これ以上追求したとしても真面に話が出来るとは思えない。彼女を変に刺激してしまうだけで悪循環が募るだけだ。
「……おっと」
事情聴取を諦めた矢先、通話用の魔導書・テレパシー術の書が光り出す。この村と帝都までの距離なら通話は可能だ。
「こちらフーロコード」
『やぁ僕だよ。そっちはどうだい?』
声の主は帝都の研究施設でムーンデビルの追跡を続けるビアスであった。
「こちらは……」
フーロコードは村での出来事をすべて話した。
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