第11話「さらに、南へ向かえ。」
オルナ村で起きた事。生存者をみつけた事。その全てをビアスへ報告する。
『なるほどね……随分と大変なことになっていたようだ。ご苦労様、今は生存を喜ぶといい。僕も君たちの生存を大いに喜ぼう』
感心するかのように頷く声が聞こえる。
(コイツっ、他人事のようにべらべらとっ……ケッ!)
『しかし興味深い。コアを破壊されたら塵一つ残らず消える……私が対峙した頃のムーンデビルとは生態が異なるようだね。更には想像以上の数も確認されたと……やれやれ、あの悪魔はどれだけ僕の興味をそそらせてくれるんだい。ゾクゾクが止まらないよ』
「ビアス氏。不謹慎な発言は控えていただきたいのですが」
『え? 僕はそのつもりはなかったのだが』
「貴方の趣味は人前で語るものではないとおっしゃっているのです」
ビアスの発言。これだけの惨事の後に聞くとなれば不快極まりない。現にビアスの話を聞いた複数の騎士達の態度が明らかに悪い。表情は見えないが、不愉快に思っているのは外からでもわかる。
『まぁいいじゃないか。君のように人前で露骨に態度を悪くするよりはマシだと思うよボクは。まぁそれよりもこの連絡だが実は君達に頼みごとがあってね』
「なっ、それよりもって……頼み事?」
フーロコードは首をかしげる。一瞬、図星で変な声が出かけたが。
『別の街でもムーンデビルが現れたと聞いてね。僕とレフシィズは一度そこへ向かって情報を集めるつもりだ。君達はオルナ村の一件が終わったのなら、』
「もしや。貴方達が向かう街以外にも目撃証言が?」
『察しがいいね』
ほっほと笑うビアスの声が魔導書越しに聞こえる。
「少し遠くなるが位置的には君達が近い。場所は発展都市エルターナだ」
『……エルターナ、でございますか』
フーロコードは険しい表情を浮かべる。
「「エルターナとは?」」
キョウマとエメリヤの二人は首を傾げ、隣の竜騎士アロナスへ質問する。
『ふむ。ここから南に”1020km”』
「せんきろっ!?」
『行くとするなら途中の商業都市へ向かい飛行艇に乗る必要がある。君達が使った小型艇では燃料がもたん』
キョウマは驚愕、エメリヤはぽかんと唖然。解説をしてくれたアロナス自身もあまりにも遠い都市の名前を聞いて頭を抱えていた。
「……少しどころではない気がするのですが」
『僕が代わりに行きたいのだけどね、『君は早めにここに戻るべきだ』とレフシィズや要塞の兵士たちがうるさくてね。そこで君達に頼むというわけなのさ。というかもう決定事項っぽいけどね。あと牙竜の翼もそっちを支援してやれってさ』
どうやら帝都の協会側で勝手に話が進んだらしい。これはその報告であった。
『では失礼する。あぁそれと、そちらで保護した避難民をこちらに寄越してくれるかな? 話をしたいのだけど』
「無理です。まともに話が通じないと言いました」
『それだがどうにかする方法があるらしい。任せてはくれまいか?』
「……はぁ」
最初こそ躊躇ったがここに放置するわけにも行かないし、連れていくなら帝都の方が確かに安全ではある。
「妙な事はしないでくださいよ。自白剤なんて使ったら極刑ものですからね」
『君は僕の事を何だと思ってるんだい?』
「日頃の行いを良くしろと言ったのですよ。では」
魔導書の機動を停止、直後フーロコードは頭を痛めていた。大きな溜息が自然と聞こえてくる。
「……クソがぁっ! コッチが何でもイエスというと思って勝手に話を進めやがって!! いや、別にいいんだけどコッチはさ! 少なくとも返事を待つだろ普通はよぉお……人の優しさ利用して好き勝手やってんじゃねぇぞクソッ! 私が優しくてそんなに嬉しいかクソがぁああッ!!」
魔導書を地面に叩きつけた。相当ご立腹である。
「「ひぃいいい……」」
キョウマとエメリヤは互いに抱き合いながら震えていた。
隊長アロナスも馬鹿正直に感情をあらわにするフーロコードを前にやれやれと首を横に振っていた。他の騎士兵たちも「またか……」と言わんばかりに黙り込んでいる。
「……となると小型艇は協会と避難民の移動に使った方がいいわね。私達はどうやって途中の街へ行くか……ここに乗り物の一つでもあるといいのだけど」
『いや、それよりも早い方法がある』
アロナスは片手をあげ、フーロコードに一つ提案する。
「……あぁ、なんとなくわかった。確かに早いと言えば早いけど、さ」
「「??」」
フーロコードは察したようだが一体どのような方法なのか。
キョウマとエメリヤの二人は首をかしげていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
-----数分後。オルナ村を離れ、その上空。
「おおおーーーーっ!!」
飛んでいる。
キョウマ、エメリヤ。そしてフーロコードは“空を飛んでいる”。
『生身で“空に浮く”のは恐ろしいとは思いますが、どうですか?』
「否! むしろ、鳥のようで愉快!」
『ははっ。これは物珍しい』
彼等は今、
背中にはジェットがあるので乗せられない。抱っこの形で運ぶことになる。お腹を支えられたままキョウマは目を輝かせていた。
『そんなに怖いかい? 大丈夫だよ、落ちはしないさ』
「……っ」
エメリヤは震えてこそいるが、理由は高所じゃない。
帽子だ。帽子が飛んでいかないかが不安なのだ。帽子が外れれば半魔族であることがバレるからだ。そうなれば騎士隊からどのような目で見られるか。
エメリヤは頭から手を離さず、ずっと震え続けるばかりである。
「一緒に仕事をする際はこうして楽させてもらってたけど……全く、協会も人使いが荒いわね。絶対ボーナス要請してやる」
『もう数分も経たずに到着するぞ』
フーロコードも隊長であるアロナスに運んでもらう。
「いざっ! 次の街へっ!」
「……ったく。ピクニックじゃないっての」
空飛ぶ甲冑を使っての大移動。一同は生身の空の旅を満喫していた。
「……本当によぉ~。何が何だか知らねぇがヨォ~」
そんな天空の騎士達を追う影が地上で一つ。
「分かるまで行ってやろうじゃねぇの……!」
荒野を駆けるバギー。その車両が向かう場所も同じく飛空艇のある商業街だ。
「そうだよなぁ! カルフィナァア!」
「あぁ……≪雷帝≫の旅路! その眼に焼き付けよ!!」
----また一つ。
波乱の予感が一同に忍びつつあった。
~第二部 完~
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