第10話「天空兵団(その1)」
ムーンデビルは他にもいた。
一体? 二体? 否、そんな誤差レベルの問題じゃ済まされない。
四方八方。見渡す限り宇宙の悪魔。手の指はおろか足の指を使っても足りないレベルの数。その場で数えるにも時間がかかる。
「……ねぇ、この数どういうこと?」
「何が何やらよ!!」
盗賊団の面々がムーンデビルへと姿を変えていった。報告によれば、盗賊団はこれだけの大人数ではないと言われている。エメリヤが言うに、この村の人口でも足さない限りは無理な数だ。
目の前に現れたムーンデビルは本当に村の住民達なのか。確認を取ろうにも姿を変えてしまった悪魔を元の姿に戻すことは不可能。
「魑魅魍魎!百鬼夜行とのはこのこと!?」
絶体絶命。渓谷の入り口で待機させている協会のメンバー達の援軍はおそらく間に合わない。これだけの包囲網、どうやって逃げ切ればいいものか。
いや、不可能だ。逃げ道がない。退路はもう用意されていない。
(まずいわね……なんとか二人だけでも逃げる方法は……無理か……!?)
必死に探る。せめてキョウマとエメリヤだけでも逃がす方法はないか。悪足掻きをしてでもこの包囲網を突破する方がベストなのか。
「万事休す?」「一巻の終わりじゃないの?」
「縁起でもない事言うなッ!!」
せめて優しい言葉の一つでもかけてやりたかったのに二人のこの返事。フーロコードのヤケクソな怒鳴り声が村全体に響いた。
「くるっ……!」
その叫び声がムーンデビルを刺激したのかどうかは分からない。
キョウマが警告する。フーロコード達を見つめていたムーンデビル達が一斉に咆哮をあげる。
「本当にこれまでなの……!?」
まさしく一巻の終わり。一同は息を呑んだ。
「こうなったら! 一か八か」
『標的ッ! ムーンデビルッ!!』
フーロコードが特攻を試みようとしたその時。
『下にいる奴らに当てるなよ……撃てぇえええッ!!』
更に上空。オルナ村へ響き渡る号令。
「この声はッ……この”音”はッ!?」
空気を裂くような音。
超高速で何かが接近している。ムーンデビル達の咆哮の中、勢いよく迫りくる何かの気配をフーロコードは感じ取る。
「あれはッ……!?」
空から降り注ぐのは----“
数十発以上のそれは炎を放ちながらムーンデビル目掛けて突っ込んでくる。まるでジェット機。現代の技術ではそうそう見かけることはない兵器“ミサイル”だ。
『『『〓〓〓~~~~ッ!?!?!?』』』
ムーンデビルに命中するとミサイルは大爆発。空を飛んでいたムーンデビル達は爆撃に飲み込まれ、もがき苦しみながら地上へと落ちてくる。
「援軍……?」
「アロナス隊ねっ!?」
エメリヤの困惑を、フーロコードの歓喜が塗りつぶす。
「アロナス隊がやった! アロナス隊がやってくれたのね!」
「アロナス隊?」
彼女が言うその部隊は何なのか。
キョウマとエメリヤは二人して、ムーンデビル達がいなくなった空。見映えの良くなった青空を眺める。
「彼らは騎士よ」
----騎士だ。
----巨大な甲冑を身に纏った集団が空に集う。
そうだ空だ。騎士が空にいる。
背中には巨大なバックパックのような何か。そこからはかなりの量の炎が噴き出され、その大柄な肉体全てを浮き上がらせている。その姿はまるで“人型のジェット機”である。
『トドメをさす! 報告通り胸を狙え……突撃ィイイーーッ!!』
騎士隊が一斉に空から急降下。
背中のバックアップから噴き出すジェット。その姿はまさしく人型兵器そのものだ。
「二人とも反撃再開よ! これだけの援軍なら余裕だわ!」
「なにがなんだかではあるが承知!」「わかった」
あの騎士隊が何なのか。ゆっくり喋るにはまだ状況を打破出来ていない。まずは見事なまでの一転攻勢をムーンデビル達にお見舞いしてやろう。
「恐怖させられた分、今度はアンタらが恐怖する番なのよッ!!」
反撃開始。援軍の騎士隊と共に一同の反撃が開始された。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
----同時刻。渓谷の隅。
盗賊団が本拠地としているアジトは洞窟にある。空からでも死角となっている地点、入り組んだ場所にあるそれはそう易々と発見されることはない。
「おいおいおいおい」「えぇえええ……」
ルーガ、カルフィナの二人はアジトの前に佇んでいる。
「「アジト……なくなってる……?」」
二人にとっての家であるはずのアジトの入り口。
しかしそれは……大量のガレキによって埋め立てられている。
「何がどうなってんだ、こりゃ!? さっきまでは普通に出入り出来たってのに……きれいさっぱり無くなりやがった!?」
アジトの入り口を塞ぐガレキをつついてみる。ハリボテでも幻覚でも何でもない。綺麗ビッシリとアジトの入り口は塞がれていた。
「今日中にでも場所を変えるつもりだった……?」
「アジトを破棄するなら、昨日のうちでも連絡を寄越すはずだぜ?」
近いうちに活動拠点を変えるという話はあった。だが移動の際には全ての部下にその日程を伝えるはずなのである。
「この付近にエージェントが来てた。あれほどの対策班が来ないと踏んでいたからビビって出発を早めたか?」
手首をそっと顎に置き探偵らしい仕草でルーガは考える。
「それとも、あの姿……もしや、あの商人、」
「……ッ!!」
盗賊団のボスとその同志たち。彼等が一斉にムーンデビルという謎の怪物に姿を変えた事を思い出す。
目から光線を放つ謎の能力、あの変貌。ルーガはそれに対し、思い当たる節があったようだ。
「ルーガ……!」
最中カルフィナは怯えながら、ルーガの服の裾を引っ張り始める。
「どうしたよ。俺は今、ちょっとばかり推理で忙し、」
何かに気づいたのか。一応言い分だけ聞いてみようと、ルーガは真後ろにいたカルフィナの方へ振り替える。
『〓〓〓〓?』
怪物だ。
一匹の白い悪魔が、アジトの入り口にいた二人を見るなり首をかしげている。
「「でたァアアアーーーーーッ!?!?!?」」
『〓〓〓〓ッ!!!』
村に現れた謎の怪物を前、ルーガとカルフィナは恐怖のあまり発狂。
その叫び声があまりにも騒音だったのか。耳もないはずのムーンデビルも驚いたかのように発狂しだす。閉じられていた赤い瞳を広げながら。
『〓〓ッ! 〓〓〓〓ッッ!!』
光線。人間一人の身なんて容易く引き裂いてしまう赤いレーザーを放ってきた。
「カルフィナぁあ、危ねぇええぞォオオ!!」
ルーガは慌ててカルフィナの体を押し倒す。
「きゃっ!?」「うぐっ……!?」
間一髪だった。赤い光線はルーガの肩を掠っただけで大したダメージにはならなかった。標的を外した光線はそのまま真後ろのアジトへ。
「「うごぉおおおッ……!?」」
吹っ飛ばす。より粉微塵に。
アジトだったその場所は修復不可能なレベルに壊滅する羽目になった。
「おいおいおいおいおいおい、マジで何がどうなんてんだよォオオ……!!」
あの攻撃。避けて居なかったどんな目にあっていたか。両手どころか、上半身下半身まで真っ二つになるのなんて想像するだけでも恐ろしい。
「やべぇよ、やべぇって……! こいつぁ、一巻の終わりってやつじゃ、」
あまりの恐怖。女の子の前で見せる姿ではないと思いながらも、ルーガは素直に恐怖を吐露する。
「----めるな」
「え?」
その最中。微かに魔力の奔流を感じる。ビリっと肌を刺激するこの感覚。気が付けばあたり一帯に“赤い電流”が奔っている。
「イジメるな……!!」
ルーガの目の前には……さっきまで“いつものテンション”を失い、怯えていたはずのカルフィナ。魔力と思われる赤いイナズマが漏れて、あたりに散らせている。
「おいカルフィナ! お前っ、そいつはまさかっ、」
「-----ルー君をいじめるなァアアアーーーッ!!」
瞬間、発射!
カルフィナの片目。赤い瞳から放たれたイナズマの光線は帝都の魔術兵器以上の威力でムーンデビル相手に牙をむく。
『!!!』
回避するどころか、防御すらも意味を成さない巨大な光線。
全力全開の最大出力。カルフィナの必殺技、≪
「ぬぉおおおーーーーッ!?」
あたり一面が吹っ飛びかける。ルーガは慌ててしゃがみこみ姿勢固定!
光線が放たれた跡には巨大なクレーター跡。ムーンデビルという怪物がいた形跡は塵一つ残らず消え去っていた。
「な、なんとかなった……?」
「はぁ、はぁ……ッ!」
赤い電流が体から消え去ると、カルフィナはどっと腰を下ろす。
「こわかったよぉ~~……!!」
涙目。無我夢中だったのか。カルフィナはムーンデビルを打破した喜びと同時、自身たちの無事を心から喜んでいるようだった。
「……よ~くやったくれたぜカルフィナ。あぁ、マジでよくやった。命の恩人だよ。お前は本当に」
カルフィナの背中をそっと摩ったあと、ルーガは近くの崖へと寄っていく。
「さてと、だ……アジトはねぇが倉庫は残ってるな?」
崖を下った先、そこには別に洞窟の入り口がある。
「盗賊団の倉庫の場所は身内以外誰にも言わねぇ。本拠地を変えるのなら、倉庫も吹っ飛ばすはずだ……ってことはよぉ」
盗んだもの。それ以外にも資材や武器などを隠してある保管庫だそうだ。アジトが消えているのにも関わらず、その倉庫は残ったまま。
「アジトをやったのは仲間じゃねぇ! 別の誰かってわけだ……怪しい奴に心当たりがあるとしたら……!」
ムーンデビル。そして、商人と言う単語。
「アイツしかっ、思い当たらねぇってことじゃねぇかよォオ……!!」
ルーガは盗賊団壊滅の黒幕の正体を掴んでいるようだった。
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