幕間 王女と宰相のじいさん⑥

じい、爺はいますか!?」


 ここは王宮にある、爺こと宰相のじいさんの部屋。

 王女がイライラした様子で、じいさんの部屋に駆け込んできた。


「こ、これは姫様! お呼びいただければ、姫様のお部屋に参りますものを……」

 驚いた様子で、じいさんが応える。


「のろまな爺を待っている暇などありません! たった今、わたくしのところに情報が入りました。あの変態転移者たちの情報です!」


「ひょっとして、あの者どもが、学研都市オリコサーンに現れたというものですか?」


「ええ、そうですけど。あら? どうして爺はそんなに驚いているのかしら?」


「い、いえ、その…… 国内の治安に関する情報は、まずはこの爺めに届くようになっておりまして……」


「フン! わたくしに忠誠を誓うものが、爺以外にもたくさんいるということですわ!」


「は、ははあー! お見それ致しましたわい」


 あーあ。どうやら王女サマに取り入ろうとする連中が、じいさんの言うことを聞かなくなってきたみたいだな。



「そんなことより…… 変態転移者の仲間に成り下がった神官セイレーンが、オリコサーンの街で発見されたそうではありませんか!」


「はい、そのようで。私も今、その情報を掴んだばかりで……」


「ふーん。爺は本当にのろまのようね。まあ、いいわ。これでやっと、黒幕を見つけることが出来たんだから」


「……と、言いますと?」


「まったく、爺は頭の回転ものろまなようね……」


「も、申し訳ございません。この愚かな爺めに、姫様の卓越したご見識を披露していただきますよう……」


「もう、まったく爺は口が上手いんだから! 別に、もっと言ってもいいんですのよ!!!」


「……はあ」


「わたくし、今はっきりとわかったのです。わたくしが、どうしてこれまで、あの変態転移者ごときに遅れをとっていたのか、ということが」

「……と言いますと?」



「変態転移者の背後には、学研都市オリコサーンの賢者どもが控えていたのです!」


「…………確かにオリコサーンの街には、国王陛下に意見を上奏することが許されている賢者が何人もおりますが……」


「オリコサーンの賢者たちが、あの変態に入れ知恵していたのです! そうに違いありませんわ! それなら、この聡明で思慮深いわたくしが、あの変態にしてやられるのも仕方のないことですわね」


「……………………」


「なぜ、黙っているのですか?」


「い、いえ、姫様のご慧眼があまりにも凄すぎて……」


「ええ、きっとそうだろうと思っていましたわ! それでは爺、さっそく学研都市オリコサーンに住む賢者たちを全員捕らえなさい。王都にある牢獄へ身柄を移すのです」


「なっ!!! ……………………いえ、承りました。国軍はすべて西の国境に向け出払っておりますので、近衛兵を使ってただちに捕縛に向かわせます……」


「爺にしては迅速な判断ですわね。とてもよろしくてよ。さあ、これでもう、わたくしがあの変態に遅れをとることはありませんわ! 見ていなさい、変態転移者め! もうすぐわたくしの足元にひざまづくことになるのよ!!! あはははははは」


 このときのじいさんの顔は…… 覚悟を決めた男の顔だった。

 このじいさん、なにやら腹をくくったように見える。


 ひょっとして、謀反でも起こすつもりなのか?

 じいさんの今後の動向に注目しよう。



 それにしても、オリコサーンの賢者さんたちからすると、本当に迷惑な話だ。

 でも、頭のいい人たちなんだから、王女サマに捕まる前に、きっとどこかへ逃走してくれることだろう。



 こうしてこののち、王女はこの国の頭脳を失うことになる。

 王女サマ、ザマァ!

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