舞の扱いはお手のもの 後編

「私は謁見の間で、その場にいた家臣たちのスキルも見たのよ」


 そう言って、委員長が説明を加えたところ——


 蹴人しゅうとが注目したのは、もちろん宰相のじいさんのスキル『国威こくい』である。


「僕が調べた限りでは、帝国の歴史上過去に2人だけ、スキル『国威』を持っている人物がいたみたいなんだ」

 蹴人は本当にいろいろ調べていたみたいだな。頭が下がるよ。

 蹴人が話したスキル『国威』の内容とは次の通り。


『国威』は精神干渉系のスキルであり、このスキルの影響を受けた者は、国家の忠実なしもべとなる。


 一度に大勢の人物に対し影響を及ぼすことが出来るが、その反面、一回に与えられる影響力は薄い。


 1日に何度スキルを使用しても、スキル1回分の影響力しか与えられない。だが、毎日スキルを使い続けると、約3ヶ月で完全な国家のしもべになる。


 以上、蹴人から得た情報を鑑みると、カケルの同級生たちが3ヶ月もの間、王宮に住まわされていた理由がよくわかる。



 さて、蹴人の話を聞いたみんなの反応は——


「まあ、『国威』って言うぐらいから、みんなを国家のしもべに仕立て上げたのはあのジジイかな、とは思ってたけど、これで確定って訳ね」

 力強く発言する委員長。


「うん。委員長が見たっていう、ステータス画面の話を聞いたとき思ったの。精神干渉系のスキルを使ったのは、たぶんスキル『国威』持ちの、あの薄ギタネエ格好したクソジジイだろうなって。でも、これで確定だね」

 ミサオさんは、相当ご立腹のようだ。


「お、おう。俺も思っていたさ。えっと…… あのじいさんの薄ギタネエ、コクイのステータス画面を見た委員長は、なんかスッゲー、アレな感じだって」


「ア、アタシも、もちろん気づいてたさ! なんとかじいさんのスキルなんとかが、国家のなにかを作る、なんたらだって」


 ため息混じりに育栄イクエが口を開く。

「……一応ツッコんでおくわね。バカ1号と2号はわかってなかっただろ。ハイ、終わり。ねえ、ツッコむ担当はお当番制にしない? 私は今ツッコんだから、次は誰か代わってよ」

 一応、気を使ってツッコんだ育栄。


「みんな、仲良しになったんだね。なんだかちょっと羨ましいよ」

 どこまでもおおらかな蹴人だった。



「これで、だいたい僕が持ってる情報は伝えたかな」

 そう言った蹴人に向かって、


「あの、ちょっといいかな」

 育栄がつぶやいた。


「なんだい?」


「私はプライベートスキル『清廉せいれん』を持っているんだけど——」

 育栄はこのスキルのおかげで、宰相のじいさんのスキル『国威』の影響を受けずに済んだと思われる。

「——塔山君も、似たようなプライベートスキルを持ってるの?」


「あっ、そうだ。まだ僕のプライベートスキルの話をしてなかったね。結論から言うと、僕も農山さんと同じ『清廉』を持っているんだ。みんなに黙ってたことは本当に——」


「ああ、もう! 蹴人は面倒くさいヤツだぜ。お詫びはもう聞き飽きたって言っただろ? それより、お前のプライベートスキルは、『中華の達人チェンさん』じゃないのか?」


「え? 誰なの、その人」

 やっぱりそういう反応になるよな。


「ハイハイ。おバカな話は終わり」

 委員長もカケルの扱いが上手くなってきたようだ。


 委員長は改めて、蹴人に尋ねる。

「育栄の実家は神社なの。だから『清廉』が与えられたのかなって言ってるんだけど…… プライベートスキルについての情報はないの?」


「うーん…… 実は、プライベートスキルは持っていることじたいが珍しいようで、調べたんだけど、あまりよくわからなかったんだ。でも…… そういうことなら、僕の祖父の家がお寺なんで、それがプライベートスキルに影響したのかな?」


「え? お前のじいちゃんは中華料理の店だって、さっき舞が言ってたぞ?」

 カケルがそう言うと——


「そうだよ? 蹴人んのじいちゃんは、中華料理屋のチェンさんだよ?」


「舞、無理してカケルのネタに乗っからなくてもいいんだよ? 舞は舞のままで十分面白いんだから」

 という蹴人の発言に対し、

「わかった! これからは独自路線で頑張るよ!」

 と、嬉しそうに応える舞。


「さあ、話を整理するよ——」

 まったく舞のボケに動じる様子がない蹴人が話を続ける。

「——僕の父方の祖父がお寺の住職で、母方の祖父が中華料理店の店長なんだ。もちろん名前はチェンさんじゃないからね?」

 カケルと舞のボケに乗ってくれる、心優しい蹴人であった。


「ということは…… 2等親の親族が聖職者の場合、プライベートスキル『清廉』を持ってる人がいる可能性があるのね……」

 思案顔の委員長がつぶやいた。

 きっと、他のクラスメイトたちの家族構成なんかを考えているのだろう。


「『清廉』と言えば、聖女セイレーンさんはどこへ行ったのかな?」

 何気なく蹴人がつぶやいたところ、カケルが、


「あれ? トイレ…… いや、お花摘みに行かれたと思ってたんだけど…… そう言えば、なかなか帰って来ないな」

 と、言って周囲を見回して見たところ……


「あああっっっ!!! セイレーンさん、そんなところで何してるんですか!?」


 よく見ると、セイレーンは炭焼き小屋の片隅で、体育座りをしてイジイジしていた。


 そうか…… 入場門のところで大ボケをかましてしまったことを、まだ気にしてたんだ……

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