舞の扱いはお手のもの 前編

 カケルたち一行は、学研都市オリコサーンを脱出した後、先ほど食事休憩をとったチイキ・サイハケーン村の近くにある炭焼き小屋で、一夜を過ごすことにした。

 蹴人曰く、オリコサーンからの逃走ルートも事前に考えていたとのこと。

 蹴人、侮るべからず……


「まずは、委員長とみんなに改めて謝ろうと——」

 口を開いた蹴人しゅうとの言葉をさえぎり、カケルが、

「その話はもういいと思うんだ」

 と、つぶやいた。


「まず、委員長は怒っていない。それから、どうやらお前は洗脳されてないみたいだな。だから洗脳されてる振りしてゴメンね、とか言うんだろ? 農山さんもお前と同じく洗脳されてなかったんだけど、みんな快く許してくれたんだ。だから蹴人も許してもらえるさ。以上。じゃあ、次の話に移ろうぜ」


「待ってくれよカケル。それじゃあ、あまりにも……」


「あのな、俺、クラスメイトを救出するの、蹴人で5人目なんだ。毎回同じ話ばっかり聞いてると、飽きるんだよ」

 これはひょっとして、カケルなりの配慮なのか?


「なあ、みんなもそれでいいだろう?」


 カケルの問いかけに、笑顔でうなずく級友たち。


「そうかい…… じゃあ、みんな…… ありがとう!」

 そう言って、蹴人も笑顔を返した。



 それから、カケルたちは委員長を中心に、これまでの経緯を蹴人に話した。


 さて、次はいよいよ蹴人が話をする番だ。


「じゃあ、スキルについて説明するよ。まず、僕以外のサッカー部員たちのスキルなんだけど、基本的に物を蹴る能力が向上するものが多かったんだ。対人スキルじゃないし、気の毒なんだけど、はっきり言ってハズレスキルだと思う」


 確かに。硬いものを蹴ったら痛そうだし、物を掴んで投げた方が早そうだな。


「でも僕はディフェンスの司令塔だったんだ。オフサイドトラップをよく仕掛けていたものさ」


 そう、蹴人は、トラップの魔術士と呼ばれていたのだ。


「だから僕は幸運にも、罠に関係するスキルをもらえたみたいなんだ。『罠猟わなりょう』って言うんだけどね。大きな穴を作り出すことが出来るんだ。掘った大穴の上は、薄い板状の土で覆われるんだよ。とても優れたスキルなのさ」

 柔らかいものしか蹴れないスキルと比べれば、確かに便利なスキルだと思う。


「それで、チイキ・サイハケーン村が獣害で困っていると聞いた僕は、あの村に行こうと思った訳さ。僕のスキルが重宝されると思ったんだよ。でも、あの村へ行った本当の理由は他にあるんだ」


 蹴人の話を聞いた舞が——

「わかった! 村中の女の子の前に罠を仕掛けて、『フッ、俺は愛の狩人さ』って、言いたかったんだな!」


「相変わらず、舞は何を言ってるのかサッパリわからないけど、でもなんだか舞らしくていいと思うよ。さて、僕があの村へ行った本当の理由だけど——」


 流石、ご近所さん。舞の扱いが本当に上手い。


「——あの村の近くに、学研都市オリコサーンがあったからなんだ。あの街は知識の集積地と呼ばれているんだよ。だから僕は帝国のエラい人に、獣害で困っているチイキ・サイハケーン村の支援に行くって言って、元いた街から出ることにしたんだ。実はちょっと賄賂を渡して、今でも僕は東の街にいることにしてもらっているんだけどね。チイキ・サイハケーン村に『出張中』っていう扱いなのさ、ふふ」

 ……蹴人は本当に高校生なのか?


「僕はオリコサーンの街でスキルについて学びたかったんだ。僕がスキルについて学びたいと思った理由は2つ。一つは、精神干渉系のスキルを学んで、みんなの洗脳を解除したかったんだけど…… これはどうやらカケルたちに先を越されたみたいだね。万病に効くと言われているボロモーケ温泉が、まさか精神干渉系のスキル効果まで打ち消してくれるとは、驚きだよ」


 両手をちょっと上げて、お手上げのポーズを見せる蹴人。

 同じことをカケルがやったら、かなり滑稽に見えると思う。

 蹴人は何をやっても爽やかに見えるのだ。


「僕がスキルについて学びたいと思ったもう一つの理由。それは、召喚スキルを学んで、日本に帰る方法を探すことなんだ」


「「「「 えええっっっ!!! 」」」」


 同級生女子4人が一斉に声を上げた。

 でも最近この世界に来たばかりのカケルは、あまり興味がないようだ。


「そ、それで何かわかったの?」


 女子たちを代表するかのように、委員長がみんなが最も言いたいであろうひと言を代弁した。


「うん。こっちの方はいろいろとわかったことがるんだ。あのね、『召喚』スキルは、異世界から人を『召喚』出来るだけじゃなく、異世界へ『送還』することも出来るんだよ」


 なんと! スキルの名前は『召喚』だが、スキルの効果は『召喚』と『送還』がセットになっているとは。

 でも、それならスキル名を『召喚・送還』にすればいいのに。

 まあ、きっとスキルを作ったこの世界の神様的な人が、『それだとちょっと、スキル名が長いよね』とか思ったのだろう、よく知らないけど。


 さて、蹴人の話はまだ続く。

「でも、日本に帰るためにはスキル『召喚』を持っている人を探すしかないんだけど……」


「え? あの腹黒王女は、スキル『召喚』を持ってるだろ?」

 カケルが『なに言ってんだ、お前』と言いたげな顔で口を開く。


「やっぱりそうか…… 王女は『自然に魔法陣が光って、あなたたちがやって来た』って言ってたけど…… 僕も『知識の塔』でいろいろ調べた結果、王女が嘘をついていると思うようになったんだ」


「俺は王女と宰相のじいさんが話しているのを小耳に挟んだだけなんだけど…… あっ、そうだ。委員長は直接王女のステータス画面を見て確認したんだろ?」


「ええ。王女のスキルは『召喚』だったわ。でも、時間がなかったからスキルの説明までは見ていないのよ」


 委員長の発言を聞いた蹴人が驚きの声を上げる。

「え? それがわかったのって、僕たちがこの世界に召喚されて、謁見の間でみんなのスキルを見たあのときだよね? あの短時間で、そんなことまで確認するなんて……」


「委員長はそれだけじゃないんだぜ。クラス全員のスキルも、ちゃんと記憶してるんだから!」


「も、もう、早瀬君ったら! そういうのは、言わなくてもいいわよ……」

 委員長は、やっぱり照れ屋さんのようだ。


「そ、そんなことより…… 王女が私たちを日本に『送還』するはずないから、他にスキル『召喚』を使える人を探した方がいいのかしら?」

 慌てて話題を変える委員長。


「それが、過去の歴史を調べると、帝国では王族以外にスキル『召喚』を持っていた人はいないみたいなんだ」

 蹴人が情報を捕捉すると、


「国王はスキルを持っていなかったわよ」

 すかさず次の情報を追加する委員長。


「え? そんなことも知ってるんだ」

 蹴人は尊敬の眼差しを委員長に向けているように見える。


「委員長はそれ以外にも——」


「ああ、もう、早瀬君ったら! 自分で言うからそれ以上言わなくてもいい!」

 恥ずかしそうに声を上げる委員長。

 やっぱり委員長は褒められるのが苦手なようだ。


「と、とにかく、日本へ帰る方法を考えるのは一旦、置いておきましょう。じゃあ、それ以外で私が知っている情報を伝えるわね」

 頬を染めた委員長が、次の話を始めるようだ。

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