第2章 クラスメイトを救い出せ!

委員長 真締聖羅(マジメ セイラ) 編

北の離宮急襲! 前編

 今朝早く、セイレーンのお師匠様が住む村を出発したカケルとセイレーン。

 昼過ぎには、カケルのクラスメイト委員長こと真締マジメ聖羅セイラが幽閉されていると思われる『北の離宮』に辿り着いた。


 ここへ来るまでの道中で考えた作戦通り、まずはセイレーンが、スキル『水成すいせい』を使い、大量の水を城門にぶつけた。



 まるでダムから放流されたかのような激流が、一瞬のうちに城門を破壊した。

 流石、水の聖女と呼ばれるだけのことはある。


 壊れた城門から、カケルがスキル『疾風』と『隠蔽(本当は姑息こそく)』を使い、自分の身を敵にさらすことなく高速で離宮の敷地内へ侵入。


 カケルが敷地内の建物に入った頃合いを見計らって、警備兵陽動のためもう一度スキル『水成』が発動される予定であったが……


「ゴボゴボ………… お、溺れる!」

 カケルはまだ、建物に辿り着いていなかった……


「まったく、セイレーンさんは気が早いんだから…… でも、そんなセイレーンさんも——」

 久しぶりに、以下、省略。



 さて、ビチョビチョになりながらも、カケルは離宮内の建物への侵入に成功した。

 状況を確認するため、慌てて建物の外へと走り出す警備兵たちとすれ違う。

 作戦は成功だ。


「ビチョ濡れになった甲斐があったよ」

 いや、それは関係ない。


 カケルが離宮の建物内に入ったところ、上階から女性と男性が口論している声が聞こえて来た。

 階段を見つけ出し、急いで上階へと向かうカケル。


 2階にたどり着くと、そこには懐かしの——といっても、カケルにとっては一昨日会ったばかりなのだが——メガネをかけた委員長の姿があった。


 万が一の事態も想定していたカケルは、ホッと胸を撫で下ろした。


 さて、改めて委員長の姿をみてみると、カケルの目の前で、なにやら男性兵士2人と揉めているようだ。


 委員長が洗脳されている可能性もある。カケルは念のため、しばらく様子を見ることにした。

 もちろん走りながら。

 立ち止まると透明化が解除されてしまい、兵士たちに見つかってしまうのだから仕方ない。


「どうして部屋から出てはいけないんですか? もう、庭が水浸みずびたしじゃないですか。このままだと、そのうちここも浸水しますよ!」

 委員長が怒りのこもった声で、兵士たちに食ってかかっている。


「ここは2階です。そのようなことはありません!」

 兵士も相当イライラしているようだ。ブチ切れる一歩前みたいな顔をしている。


「どうしてそう言い切れるんですか!? まったく、あなたたちは——」


「いい加減にしろ! ワガママばり言いやがって!怪我をしたくなければ部屋に戻れ!」

 怒り心頭の兵士の本音が爆発した。


 それを見たもう一人の兵士が、冷たい声を漏らした。

「……ああ、もうウンザリだ。こんなワガママな小娘のお守りは、もう沢山だよ……」


『あー…… 委員長は責任感があって、思いやりのあるヤツなんだけど…… 委員長のことをよく知らないヤツは、ちょっと高圧的な物言いをする女だって思うのかも知れないな』

 カケルは心の中でそんな感想を漏らした。


「さっき、溺れかけた男の憐れな声を聞いたってヤツがいたんだ。どうやら侵入者がいるみたいだな」

 先ほどまで激昂していた兵士が、今度は意地の悪そうな顔をして、ニヤリと笑いながらつぶやく。


『誰だよ、そんな憐れな声を出したヤツ』

……お前だ。


「なら尚更、早く逃げないと——」

 声を上げた委員長の言葉を遮るように、もう一人の兵士が言葉を漏らす。


「……なあ、侵入者に殺されたんなら仕方ないよな」


「ちょ、ちょっと、どういうことよ!」

 慌てた様子の委員長が声を上げるが……


「何が勇者だよ、偉そうに! お前のことは6ヶ月前からずっと嫌いだったんだよ! 今ここで殺してやる!」

 先ほど激昂していた兵士が再び声を荒げた。しかし、もう一人の兵士が——


「……まあ、待てよ」

 流石にそれはマズいと思ったのだろうか。

 怒れる同僚を制止した。


「なんだよ! お前、今更何を言って——」


「……なあ、殺す前に楽しもうぜ」

 ニヤリとイヤラシく笑う兵士。


 この言葉を聞いたカケルは……

 激怒した!!!

 身体中の血液が逆流したかのような激しい熱流が、カケルの頭に駆け上った。


「こぉのおぉぉーーー、卑怯者が!!!」

 カケルは雄叫びを上げ、兵士に向かって突進する。

 もちろん姿は消したまま、二人の兵士に怒りの腹パンをぶつける。


 以前にも言ったがもう一度言おう。お前も卑怯者だ。

 だが今回の相手は腐れ外道だ。

 遠慮はいらネエ、やっちまえ!!!



 ——しばらくして。


 カケルは走るのを止め、立ち止まった。

 透明化が解除される。


 カケルの目の前には、ボコボコに殴られて、グッタリと床に横たわっている兵士が二人。


「なあ委員長、コイツらのチン○、もいじゃおうか?」


「え! あ、あなた早瀬君じゃない!? なんでここにいるの!? あっ、それから、そのナントカはもがなくてもいいわ」

 委員長が驚きつつも冷静な答えを返す。


「あんまり時間がないんで一つだけ教えて欲しい——」

 カケルは委員長に問う。

「——委員長は自分の意志でここに来たのか? それと、今、ここから逃げたいと思ってるのか?」


「『教えて欲しいこと』が、一つだけじゃないみたいだけど、いいわ、二つとも答えてあげる。ここには兵士たちに連れて来られた。私は今、逃げたいと思っている。以上よ!」


「流石、委員長だ。簡潔な答えだよ。じゃあ行くぞ!」


 そういうと、カケルは委員長の手を握った。

「ちょ、ちょっと、何するの!?」


「俺の手を離すなよ!」


「流石、早瀬君ね! 言ってることが全然わからないわ!」


「俺と手を繋いで走ると、姿が消えるんだよ!!!」


 カケルと委員長は、セイレーンが待つ離宮の外を目指して走り出した。



 ♢♢♢♢♢



 さて、話は少しさかのぼ


 昨夜、お師匠様ことブユーデンは、カケルの胸に聖紋——正式名称エロいこと禁止聖紋——を刻んだことをセイレーンに告げた。

 聖紋の正式名称を聞いてガッカリするカケル。


 ブユーデンの話を聞いたセイレーンが、

「それでは今後カケル様は、私の身体に触れられないということですか?」

 と、ブユーデンに尋ねる。


「そうだ」


「お師匠様、なんてことをしてくれたんです!!!」

 なぜか怒り出したセイレーン。


「え? セイレーン、お前……」

「え? セイレーンさん、まさか……」

 え? 聖女サマ、ひょっとして……

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