幕間 王女と宰相のじいさん①

「あの変態転移者は、まだ見つからないのですか!」


 ここは王宮にある王女の部屋。

 王女がイライラした様子で叫び声を上げる。


「申し訳ありませんですわい。只今、全力で捜索しておりますゆえ」

 そう答えたのは、宰相のじいさん。


「聞くところによるとあの変態は、こともあろうにこの街から勝手に逃げた『神官』セイレーンを助けたそうではありませんか!」

 どうやら王女の中では、カケルが変態であることが確定事項のようだ。

 まあ、パンティを盗んで逃げたのだから仕方ないか……


「報告によりますと、『聖女』セイレーンを追っていた兵士たちは、姿の見えない何者かに、カンチョー…… もとい、肛門への攻撃を受けたと申しておりました。あの変態転移者の仕業に間違いありませんですわい」


「ちょっとじい。『聖女』じゃなくて『神官』でしょ? 『聖女』なんて肩書きは、この世に存在しないのですから」


「これは失礼いたしましたわい。姫様は『神官』セイレーンのことがお嫌いでしたな」


「あの小娘、本当に目障りだったわ。パーティでわたくしがバカな男どもにチヤホヤされていても、あの小娘が登場するや否や、男どもはみんなあの小娘の方へ行くんですから。まったく、顔以外取り柄のない女って、本当に嫌ね」

 その言葉、そっくりそのまま王女にお返ししたい。


「まあまあ、いくらセイレーンが美しいと言えども、姫様の美貌にはかないますまいて」


「もう、爺ったら見え透いたお世辞を言って。でも…… もっと言ってもよろしくてよ!」


 ひとつため息をついたじいさん。


「話を戻しますが…… あの変態転移者は、西へ向かっている途中でセイレーンと出会ったとのこと。ですので、ヤツが向かっているのはやはり……」


「爺、みなまで言わないでくださいまし! あの変態が向かったのは西の方角。そう、ニッシーノ国との国境地帯に配置した9人の仲間に会いに行くつもりですわ!」


「ご慧眼けいがん、感服致しますわい。あの男、ニッシーノ国との戦争を止めるつもりでしょう。仲間の勇者たちも、散々戦争に反対しておりましたからな」


「まったく、変態のくせに生意気ですわ。そう言えば、国境付近に配置した男の勇者どもも、皆、本当にイヤラシかったですわね…… って、あっ!」


「どうされました、姫様?」


「あの変態が、国境まで行ったら……」


「行ったら?」


「わ、わたくしのパンティが、他のイヤラシイ男性勇者どもに、さらされてしまうではありませんか! あの変態、きっと大勢の男たちで、わたくしのパンティをもてあそぶつもりなのですわ!」


「……はあ、まあどうでしょうか」


「爺! 急いで西の国境へ向け、捜索隊を送りなさい!」


「すでに送っておりますので、もうしばらく——」


「もっとよ! もっと送りなさい!」

「かしこまりました。それが姫様、いえ、未来の女王陛下のお言葉とあらば!」


 こうして帝国の兵士の多くが、カケル捜索のため西へ向けて送られることになった。


 しかし、このときカケルとセイレーンは、北の離宮にいる委員長救出のため、北の方角へ向かい旅立っていた。


 王女の判断ミスのおかげで、北への移動が容易になったことを、このときカケルとセイレーンはまだ知らなかった。


 ナイスアシストだよ。王女サマ、ザマァ!

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