大発見

「勇者様たちがこの世界へ来られて1ヶ月ぐらい過ぎた頃、王宮で勇者様たちを歓迎する晩餐会が催されました。私も招待を受けましたので、その際、皆様にお会いしたのです。皆様のお名前までは覚えていないのですが……」

 セイレーンは会話を再開した。


「ちなみに、俺のクラスメイトたちがこの世界に来てから、どれぐらい時間が経っているんですか?」

「だいたい半年ぐらいでしょうか」


 カケルは6時間遅刻してこの世界にやって来た。

 しかし、先にこの世界にやって来たクラスメイトたちは、ここで6ヶ月過ごしているらしい。

 やはり、日本とこの世界では、時間の流れが異なるようだ。



「皆様、とても立派な方のような印象を受けました。帝国の民を哀れみ、力なき民を救いたいと話しておられましたよ?」


「…………それ、絶対洗脳されてると思います。アイツらがそんなこと言う訳ないですから……」


「え? そうなのですか?」

「そりゃあ、中には正義感のかたまりみたいなヤツもいますけど…… でも、そういうヤツは、ほんの一握りです。じゃあ…… 戦場に行った9人はスっごく洗脳されてて、残りの連中はチョコっと洗脳されてるのかな?」

 洗脳にスっごくとか、チョコっととかあるのだろうか?


「ああー、もうわかんないや。ちょっと洗脳の話は置いておきましょうか。それで、セイレーンさんは全員と話したんですか?」


「はい、18人全員とお話しました!」


「え?」

「はい?」


「俺のクラスメイトは19人いて、この地図にも19人の名前が書いてあるんですけど?」


「あああーーー!!! 本当だ! これは…… これは大発見です!!!」


 この聖女サマ、本当に大丈夫なのか?

 聖女サマのポンコツっぷりを見て、カケルは不安にならないのだろうか?


『……ポンコツ聖女さん、カワイイ』

 ハイハイ……



 セイレーンがカケルのクラスメイトたちと出会ったのは、今から約5ヶ月前。

 その当時、クラスメイトたちはまだ全員、王宮の中にいた。

 その人数は18人。


 手元の地図には、1週間ほど前にニッシーノ国との国境に向かった9人の名前が、ちゃんと配置場所に記されている。

 おそらく比較的最近、この地図に名前が記入されたと思われる。

 記載されている人数は全部で19人。


 では、セイレーンが出会わなかった一人というのは、いったい誰なのだろう?


 念のため、カケルは確認してみた。

「5ヶ月前に、セイレーンさんが俺のクラスメイトに会ったとき、たまたま一人だけ体調が悪くて欠席したとか、そんなことはなかったんですか?」


「国王は『異世界から迎えた18人の勇者』と、はっきり言っていました。間違いありません」


「じゃあ、セイレーンさんが出会った勇者たちの、男女比なんて覚えてますか?」


「はい。男性9人、女性9人でした」

「なら…… 女子が一人足りないか……」


「あの、カケル様…… また話があっちこっちに行ってしまい申し訳ないのですが……」


「いえいえ、こういうのは、話をしているうちに思い出したり気づいたりすることもありますので、全然申し訳ないことなんてないですよ!」


「まあ…… カケル様は——」

 長くなりそうなので、もう、ここから省略。



 話の本題に戻ったセイレーンが口を開く。

真締マジメ聖羅セイラ様がおられるという『北の離宮』ですが…… 実は今から5年ほど前に、罪を犯した皇族の方をこの離宮に軟禁していたと聞いたことがあります」


「なるほど…… ちょっと高級な牢獄って感じで使ってたんですね」


「はい。その皇族の方はもうお亡くなりになったのですが、脱走などを防ぐための設備などは、まだ残っているかも知れません」


「そうですか…… なら、委員長がそこに軟禁されている可能性もあるってことですね。ちなみに委員長はメガネをかけてるんですが…… あっ、この世界にメガネってありますか?」

「はい。この世界にもメガネはあります。それから、私がお会いした勇者様の中に、メガネをかけている方はおられませんでした」


 ならば、クラスメイトが転移して1ヶ月以内に、なんらかの事情があって、委員長だけ北の離宮に移されたということか。


「ひょっとして、委員長が何か重大な秘密を知ってしまったとか……」

「あるいは、委員長様にだけ、精神干渉系のスキルが効かなかったとか……」


 カケルとセイレーンは見つめ合い、そして頷いた。


 二人はまず、委員長こと真締マジメ聖羅セイラの救出に向かうことにした。

 どうやら委員長が、この事件の鍵を握っているようだ。

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