聖女サマはポンコツ

 日本から転移してきた高校2年生の早瀬ハヤセカケルと、水の聖女こと美少女神官セイレーンは、カケルのクラスメイトを救い出し、帝国の野望を打ち砕くため、これから一緒に旅をすることになった。


 ここは帝国の王宮から、馬車で3時間ほどの距離にある街道沿いの小高い丘の上。


 二人はまず、当面の作戦行動について話し合うことにした。


「とりあえず、この地図を見て欲しいんですけど」

 そう言って、カケルは王女の部屋からくすねてきた地図を広げた。


「まあ! もう地図を入手しているなんて。流石はカケル様です!」


 王女の部屋からくすねてきたことは黙っておこう。

 そう心に誓うカケルであった。


 二人で地図を見たところ——


 王女と宰相のジイさんが話していた、これから戦争を仕掛けようとしているニッシーノ国との国境付近には、確かにカケルのクラスメイトたちの名前が記載されていた。


 記載されていたのだが——


「すべての勇者様が、ニッシーノ国との国境付近に配置させられている訳ではないようですね」

「そうみたいですね」


 ちなみに、カケルのクラスは一般的な『普通科』ではなく、『スポーツ科』である。

 一クラスの人数は、普通科が40人であるのに対し、スポーツ科は20人しかいない。


 つまり、この地図には遅刻したカケルを除く、19人のクラスメイト——女子10人、男子9人——の名前が記されているのだ。


 国境付近に名前が記されているのは9人。


「名前だけ見ても、性別はわかりませんよね。ここにいる9人のうち、8人が男子です。ウチのクラスの男子は単純なヤツが多いんで、コロッと洗脳されちゃったのかな……」


「その次に多くの勇者様が配置させられているのが、北の国境付近ですね。ここには5人おられるようですが」


「帝国は、北隣の国とも戦争するつもりなんでしょうか?」

 カケルはこの世界に転移してきたばかりなので、周辺の地理などサッパリわからない。


「いいえ。帝国領の北側には、魔王の領地が広がっているのです」


 セイレーンの言葉を聞いたカケルは、

「なるほど」

 と、声を上げ、そして——


「一応、魔王の侵入に備えているって感じなんですかね」

「はい、そう思います」

 魔王というワードが出てきて若干ビビったカケルであったが、なんとか冷静さを装い話を続ける。


「ここにいる5人は全員女子です。うーん…… ここにはしっかり者が集まっているような印象を受けます」


「しっかり者ですか…… それなら、この5人は洗脳されているのではなく、自分たちの意志で北に行ったのかも知れませんね。勇者の本来の目的は、魔王と戦うことですから」


『やっぱり、いずれは魔王と戦うのか…… でも、クラスメイト全員を助け出せば、アイツらがきっとなんとかしてくれるだろう。よし、出来るだけ早く、みんなを帝国の魔の手から救出するぞ!』

 よこしまな動機ではあるが、クラスメイト救出への意欲を、心の中で一層高めたカケルであった。

 流石、プライベートスキル『姑息こそく』の持ち主だけのことはある。



 残りの5人は、一人ずつ帝国内の街や村に配置されている。


 配置されているのだが——


「一人だけ離宮に配置されていますね」

 セイレーンが地図上の一点を指し示した。


「へぇー。委員長がいる場所は離宮なんですか」

「イインチョ?」


「あっ、ニックネームみたいなものです。真締マジメ聖羅セイラのことを、みんなは委員長って呼ぶんです」


 一通り、地図とそこに記載されている人名を確認した二人。


「地図を見て、何かわかったこととか、ありますか?」

 カケルがセイレーンにたすねると、彼女は真面目な顔をして、


「……ひょっとすると、洗脳されているのはニッシーノ国との国境に行かされた9人だけなのかも知れませんね」

 と、つぶやいた。そして——


「私がお顔を拝見して、『これはちょっとおかしい』と思ったのは、1週間ほど前に、ニッシーノ国へ遠征された9人だけですから。王宮からパレードみたいな感じで、それはもう華々しく、戦場に向け出陣されたんです」

 どうやらクラスメイトたちは、国民の戦意高揚のために利用されたようだ。


「そのときに見た、勇者様たちの顔と言ったら…… 言い方は悪いのですが、ちょっと不気味でした」


「でも、アイツらの顔は、もともと不気味だからなぁ…… あ、いえ、なんでもありません」

 自分の顔のことは棚に上げてつぶやいたカケル。


「えっと、顔の善し悪しを言っているのではなく…… そう! 以前お会いした際に見たお顔とは、全然違っていたのです!」


「え? セイレーンさんは、以前にも俺のクラスメイトたちに会ってるんですか?」

「はい!」

 また、真面目な顔をして答えるセイレーン。

 でも、そういう情報は、早めに教えておいて欲しかったんですが……


「えっと…… セイレーンさんが知っている、俺のクラスメイトたち…… この世界で言うところの勇者たちの情報を、すべて教えてもらえますか?」


「そうですよね…… そういう情報は先にお話するべきですよね…… 申し訳ありません」

 セイレーンはしょんぼりした様子でつぶやき、話を続ける。


「私、話をするとき、あっちこっちに話題が飛んで、内容が支離滅裂になってしまうとよく言われて…… 『その話、前にも聞いたよ』とか、『その話、初耳だよ』と言われるのは日常茶飯事でして……」

 この聖女サマ、やっぱりちょっとポンコツなのだろうか?


「い、いえいえ、と、とてもわかりやすいお話ですよ! それに、あっちの話とこっちの話を組み合わせるのって、なんかパズルみたいで楽しいですよ!」


「まあ…… カケル様は、本当にお優しいんですね」

 嬉しそうに微笑むセイレーン。


『こ、これは、ひょっとして、俺のこと——』

 以下、省略。サッサと話を進めよう。

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