似た者同士
「だっておかしいと思いませんか!? 勇者様というは魔王と戦うために異世界から召喚された方。それを他国との戦争に利用するなんて!」
プリプリした様子で、聖女セイレーンはカケルに向かって言葉を放った。
「セイレーンさんってば、怒った顔も、またカワイイな」
カケルは心の中でつぶやいた…… つもりだったが、心の声が思い切り外に漏れていた。
「カワイイだなんて、そんな……」
頬を染めて恥ずかしがるセイレーン。
「し、しまった、興奮して、思わず……」
カケルも顔を赤らめる。
なんだか初々しいぞ、二人とも。
「えっと…… そう! まったくその通りですとも! 勇者とは魔王と戦うために存在するのであって…… って、ええっっっ! この世界にも魔王がいるんですか!?」
大丈夫なのか、このラノベバカは? そんなこと異世界転移もののラノベでは常識ではないか。
どうやらカケルは、美少女から好意を向けられるという人生初の快挙の前に、舞い上がってしまっているようだ。
カケルは頭の中で、これまでの情報を整理した。
この世界には魔王がいる。
カケルたちは、魔王と戦うために勇者として、この国の王女によって召喚されたらしい。
カケルだけ遅刻してしまったけれど……
セイレーンの話によると、今のところ魔王が攻めてくる兆しはまったくないとのことだった。
どうやら、今すぐ魔王と戦う必要はないようだ。
なら、魔王のことは、当面考えなくてもいいだろう。
問題は、王女が悪知恵を働かせ、カケルたちを他国との戦争の道具として利用しようとしているところにある。
厄介なのは、どうやらクラスメイトたちは、スキルを使って洗脳されていると思われることだ。
『みんなを助けてやりたいのは山々なんだけど…… そんな厄介ごとに関わったら、俺まで洗脳されちゃうじゃないか。それで、俺まで戦場で戦わされるのか? これは…… うん、きっと関わらない方が良いだろう。うん、そうに違いない』
カケルは自己防衛本能の高い男だった。
別名、チキン野郎とも言う。
「カケル様、どうかしましたか?」
セイレーンが、純粋無垢な眼差しをカケルに向けて尋ねる。
「あっ、すみません。ちょっと考えごとをしていて」
慌ててカケルがごまかしの言葉を口にすると——
「考えごとというと…… まさか!!!」
大きく両目を見開き、信じられない、といった表情を浮かべるセイレーン。
「いや、違うんです! べ、別に仲間を見捨てるとか、そういうことじゃ——」
「まさか、もう次の攻撃目標をお考えだったとは! 流石、カケル様! このセイレーン、心から尊敬いたします!!!」
この美少女が、人の話をあんまり聞かない人で本当に良かったなと、カケルに言ってやりたいものだ。
「アハハ…… えっと、流石はセイレーンさん。俺の考えに気づくとは……」
口ではそう言いながら、『これはちょっとマズイことになってきた』と、内心焦り始めたカケル。
「あの、カケル様。実はお願いがあるのですが……」
モジモジした様子で、セイレーンが口を開く。
「なんですか?」
「カケル様のご友人探しの旅に、私も同行させていただけないでしょうか?」
「え?」
「私も帝国のやり方に憤りを感じていました。非力な私ですが、カケル様と共に、ご友人の勇者様たちを見つけ出し、一刻も早く皆さまを助け出したいのです。そして、私もカケル様と共に、帝国の野望を打ち砕きたいと願っております」
「……ということは、俺と一緒に旅をしてくれるんですか?」
「……お嫌でしょうか?」
「ヒィヤッッッハアアアァァァーーーーーー!!! 俺はなんてツイてるんだあああーーー!!!」
「あの、カケル様。どうされたの——」
「やってやりましょう! ええ、そうですとも! 二人で力を合わせてやってやりましょうとも!!! 俺たちはきっと、二人でひとりなんです!!!」
なにのぼせ上がってるんだか、この男は。
そんな暑苦しいこと言ってたら、女の子はヒクと思うが…… あれ?
「はい! やってやりましょう! 私も全力でやってやりますからね!!! 」
…………ひょっとするとこの二人、似た者同士なのか?
こうして、カケルは聖女サマからの好意と引き換えに、自分の身の安全をいとも簡単にどこかへ投げ捨ててしまったのであった。
まあ、気持ちはわかるのだが……
本当に大丈夫なのか?
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