王女の部屋 前編
王宮前の広場では、大勢の兵士がカケルの身柄を確保しようと走りまわっていた。
だが、カケルはまだ王宮内にいる。
人目を避けて逃げ回り、とりあえず誰もいない部屋へ逃げ込むことにしたのだ。
走っていると『
それから『疾走』スキルのおかげで、いつもより3倍速く走れる。
これだけ見ると、とても良いスキルの組み合わせのように見えるのだが……
「つ、疲れた…… ちょっと休憩したい」
そう、体力が続かないのだ。
「こんなことなら、長距離走の練習もしとけばよかった……」
都合のいいことをつぶやくカケル。
根気のないカケルにとって、長距離走は大の苦手であった。
だからカケルはただ今、休憩中なのだ。
逃げ込んだ部屋は、カケルが通う高校の一般的な教室ぐらいの広さがあった。
これなら、もし部屋の主が入って来ても、部屋の中を走り回って自分の姿を隠すことが出来る。
部屋にはとても豪華なベッドがあったので、とにかく寝っ転がって体を休めることにした。
しばらくベッドの上でゴロゴロしたカケル。
少し体力が回復したようだ。
ベッドからとても良い匂いがしたので鼻の下を伸ばしていたのだが、この件について多くを語ることは控えよう。
さて、体力が回復したカケルは、周囲を物色…… いや、調査を始めた。
室内にあった机の上に目をやると……
なにやら文字の書かれた地図がある。
「あれ? 初めて見る文字なのに、なぜか読めるぞ」
そういえば、先ほど国王たちと会話していたときも、カケルは日本語を話しているにもかかわらず、普通にやり取りが出来ていた。
「フッ、どうやら俺には自動翻訳機能のようなものが備わっているようだな」
流石、夜遅くまで異世界ものラノベを読んでいるだけのことはある。
この不思議な現象を、カケルはアッサリと受け入れた。
そして異世界の文字の解読を進めて行く。
「なになに…… 『マジメ セイラ』? あっ、これってウチのクラスの学級委員長の名前じゃないか!」
地図上には委員長の他にも、クラスメイトたちの名前が書き込まれていた。
「やっぱりアイツら、ちゃんとこの世界に来てたんだな。てことは…… この地図に名前が書き込まれた場所に、名前の主がいるってことか。よし、この地図を頼りに、みんなに会いに行こう」
そう言うと、カケルは地図を折り畳んでズボンのポケットに入れた。
ただ、カケルの頭の中には少々疑問が残ることになった。
クラスメイト全員の姿が突然消えたのは、午前8時半頃だと警察の人が言っていた。
カケルが教室に行ったのは午後2時半頃。
6時間遅れで、カケルはこの世界にやって来たはずなのだ。
「たぶん、日本の時間の流れ方と、この世界の時間の流れ方は違うんだ。この世界では、みんながここに来てから、結構な時間が経ってるんだろう」
流石、ラノベ好きのカケル。
この難問を、いとも簡単に解明してしまった。
ただ、本当に合っているのか、それはわからないが。
「まあ、よくわからないことを考えてもしょうがない。よし、ここは気持ちを切り替えて、次の作業に移ることにしよう」
そうつぶやいて、次なる獲物を探して物色…… いや、調査を再開する。
「おっと、お金っぽいもの発見!」
見たことのない硬貨の入った巾着袋を見つけた。
「さっき殺されかけたんだ。これはその慰謝料だな」
そう言って、当たり前のように巾着袋をまた自分のポケットにしまうカケル。
でも…… それで本当にいいのか?
もしここが日本なら、本当に『犯罪者』になってしまうぞ?
「えーっと、机の周りはあらかた探し終わったから、次は——」
そう言うと、カケルはなぜか衣装ケースに向かって歩き出した。
そんなところを探す必要があるのだろうか?
「こ、これは!」
カケルが手にしたもの。それは………… パパパ、パンティだった!!!
「やはり、この部屋の主は女性のようだな!」
……その情報、本当に必要なのか?
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