謁見の間 後編
どうやらこの世界には、スキルはあっても魔法というものは存在しないようだ。
仕方ない。カケルは『賞罰』の項目に目を向けた。
『賞 : 市内陸上大会 100m優勝、県陸上大会100m2位』
「ちゃんと陸上の記録が書いてあるんだな。感心するよ」
次に『罰』の項目を見てみると——
『罰 : 遅刻の常習犯』
「なんだよコレ…… ホントにこの世界にはプライバシーとかないみたいだな……」
「おい、そこの人。『ちこく』とは何だ?」
先ほどの面倒くさそうな表情から、不審者を見るような顔つきに変わった国王が、カケルに尋ねた。
「遅刻は遅刻ですけど…… ひょっとして、この世界には遅刻する人いないんですか? 真面目な人が多いんだな」
「『
カケルの呼び方が『そこの人』から『キサマ』に変わった。
周囲の空気が険悪になる。
「いや、そんな大層なモンじゃないですよ。なんていうか、朝、起きるのが苦手な人っていうか——」
「その者を捕らえよ!!!」
カケルの話が終わる前に、国王が叫んだ。
「ちょっと! 人の話は最後まで聞けよ!」
カケルはダッシュで逃げた。
「き、消えたぞ!」
「え?」
立ち止まるカケル。
「あそこにいるぞ!」
「ヤバイ!」
またダッシュ!
「また消えたぞ!?」
「あれ? なんだこれ?」
これを何回か繰り返すうち、カケルは気づいた。
どうやら、カケルは走っている時、周囲から姿が見えなくなるようだ。
「コ、コイツ、プライベートスキル持ちだぞ!」
家臣の誰かが大声で叫んだ。
プライベートスキルってなんだろう?
ちょっと余裕が出来てきたカケルは、走りながらステータス画面を再度確認した。
すると、ステータス画面の一番下に、こう書かれていた。
プライベートスキル : 『
「なんだよ『
確かに、カケルは遅刻したときコソコソと先生に見つからないよう教室に入り、サッと自分の席に座って、『もう随分前からここにいますよ』というオーラを放つのが得意だった。本当は大遅刻しているくせに。
「おい、極悪人が何か言っているぞ!」
王様が慌てた様子で口を開く。
どうやら王様の中では、カケルが相当ヤバイ人間であると認識されたようだ。
「聞き取れませなんだが…… おそらく『隠蔽』に似たスキルを使っていると思いますぞ!」
魔導士風のおじいさんの言葉を聞いたとき、カケルは思った。
『おじいさん、ナイス』と。
どうやらプライベートスキルは他人には見えないようだ。
それなら、今後誰かにプライベートスキルの名称を聞かれた際には、『フッ、俺のスキルは“潜伏”だよ』と答えることにした。
そんなことを考えながら、走る、姿が消える、立ち止まって休憩、姿が見える、このサイクルを繰り返していたところ——
「ええい、キリがない! 容赦はいらん! 殺せ!」
国王が叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ! なんで遅刻しただけで殺されるんだよ!」
思わず叫んでしまったカケル。
兵士が槍を振り回しながら部屋の中を捜索し始めた。
「クソッ、ただでやられてやるもんか!」
カケルは走りながら兵士の槍を奪う。すると——
「なに? 槍が消えたぞ!」
驚きの声を上げる兵士。
どうやら、カケルが手に持った物も、周囲から見えなくなるようだ。
「陛下! どうやらその者の『潜伏』スキルは長時間使用が出来ないようですぞ!」
魔導士風のおじいさんが叫ぶ。
惜しい。魔導士風のおじいさん実に惜しい。カケルの『
「ええい、近衛兵団を呼べ。数で応戦せよ。その者を逃がすな!」
これはちょっと、マズイことになってきた。
部屋中兵士で溢れたら、走るスペースがなくなってしまうではないか。
カケルは『謁見の間』から逃げ出すことにした。でもその前に——
「うわぁっ!」
王様のお尻に槍を突き刺した。もちろん刃物が付いてない方でだ。
カケルはそこまで極悪人ではないのだ。
「痛っっっあああ! コイツ、なんてことしやがるんだ!」
まったく、口の悪い王様だ。
「フン。俺はヤラレっぱなしで逃げるような、
カケルは力強く叫んだ。もちろん姿を隠した状態で。
自分が思っているほど、肝は大きくないのだろう……
でも、そろそろ本気で体力的にヤバそうなので、
——パリン!
槍で窓を突いてガラスを割った。
「おい、逃げたぞ! 極悪人が窓の外へ逃げたぞ! 追え!」
国王が悲痛な表情で叫んだ。
だが実際は、窓から外へ逃げたと見せかけて、カケルは出口へと向かってダッシュしたのだった。
幸いにして、出口の扉は開けっぱなしだったので、サッサと部屋から出て行くことに成功した。
カケルはこういう小ズルイことを考えるのが得意なのだ。
誰が名付けたのかは知らないが、カケルのプライベートスキルの名称を『
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