第1章 美少女神官 聖女セイレーン
謁見の間 前編
真っ白な空間から抜け出した。
カケルは地面に目をやった。
大きな魔法陣がある。
やはり異世界に召喚されたようだ。
しかし…… カケルの周囲には誰もいなかった。
「ここは『おお、召喚は成功したぞ!』とか、『ようこそ勇者様!』とか言うシーンじゃないのか?」
呑気にひとり言をつぶやくカケル。
本当にカケルの周りには誰もいない。
仕方ないので、人を探して歩くことにした。
「まったく、不用心だな。泥棒にでも入られたら、どうするつもりなんだか」
他人の心配をしている場合ではないのだが……
歩きながら周囲を見渡してみる。
どうやらここはお城の中のようだ。
やっとの事でメイドさんのような女性を見つけたので、カケルが、
「すいませーーん!」
と、声をかけたところ、
「ふ、不審者がいる!」
と、大声で叫ばれたうえ、逃げられた。
「なんだよ不審者って。まったく失礼な人だな」
カケルがそんなことを考えていると、向こうの方からやって来た兵士のような人たちに取り囲まれてしまった。
「おい、お前! いったいどこから入って来たんだ!?」
と、兵士に聞かれたので、
「なんか気がついたら、魔法陣の上にいたんですけど」
と、答えたカケル。すると——
「そんなバカな? お前、いや、あなたは異世界から来たと言うのか、いや、言うのですか?」
どうやら兵士は混乱しているようだ。
周りにいた他の兵士たちも、困惑した様子で口々につぶやく。
「なんで今頃? ありえない。コイツ、嘘をついてるんじゃないのか?」
「では、どうやってこんな王宮の奥深くまで入り込んだと言うのだ?」
「お前たち待て。この方の服装をよく見てみろ。勇者様方の服装と同じじゃないか?」
カケルは他のクラスメイトと同様、学生服を着ている。そんなことより——
勇者様? 今、勇者様と言いましたね?
「俺の友だちも、先にここへ来てると思うんですが。ひょっとしてその『勇者』っていうのは、俺の友だちのことでしょうか?」
「し、しばし待たれよ!」
兵士のうちの一人がどこかへ走って行った。
しばらくして。
カケルは国王がいるという部屋へ連れて行かれた。
♢♢♢♢♢
ここは『謁見の間』というらしい。
カケルの目の前にいるのは、この国の王と王女だそうだ。
両脇には10人程度の警備兵が、物々しい様子でカケルを見つめている。
国王は偉そうに、高級そうな椅子に座ってふんぞり返っている。
その隣に立つ王女は……
ゴクリ…… カケルの喉が鳴った。
そう、超絶美少女なのだ。
年の頃はカケルと同じぐらい。微笑みを浮かべた表情がとてもキュートだ。
流石は異世界。これほどの美少女を、カケルは見たことがなかった。
「よくぞ来て…… くれたのか? 勇者? でいいのか? えっと…… まあ、歓迎するぞ、そこの人」
国王が口を開いたが…… 本当に歓迎する気あるのか?
「お会いできて嬉しいです、えっと…… そこの方」
王女は若干困った様子を見せながらも、極上の笑顔をカケルに向けた。
この王女様、ひょっとして俺に気があるのか、と恋愛経験ゼロのカケルは思ったのだが……
おそらく、それはないだろう。
ただ、カケルの心を一瞬にして
「では勇者…… じゃなくて…… えっと、そこの人のステータスを確認させてもらおう。『ステータスオープン』!」
国王がそう言ったものの、カケルには自分のステータスが表示されない。
「あの…… 俺には何にも見えないんですけど?」
「それはじゃな——」
兵士たちの最前列にいたおじいさんが口を開いた。黒いローブを着た『これぞ魔導士』という格好をしている。
「——お主も『ステータスオープン』と唱えればいいのじゃよ」
「そういうことか。じゃあ、失礼して。『ステータスオープン』! うわ、なんか俺、カッコいい!」
カケルがそう唱えたところ、目の前に自分のステータス画面のようなものが表示され、国王をはじめ周囲にいる家臣の人たちの前にも、ステータス画面が浮かび上がってきた。
どうやら『ステータスオープン』と唱えると、自分だけでなく他人のステータスまで見ることが出来るようだ。
「この世界って、個人情報とかの概念はないのかな? まあいいや。それじゃあ、俺も自分のステータスを確認しますか」
まず一番最初に書かれていたのは——
スキル『疾風』
「スッゲー! 俺、スキルが使えるのか。しかも『疾風』って、なんかカッコいいぞ」
次に書かれているのは、スキル『疾風』の説明だった。
『効果 : 本来の能力の3倍の速度で走ることが出来る』
「3倍ってなんだよ? 俺の100m走のタイムが約10.5秒として、2倍なら5.25秒? 3倍ならえっと…… まあ、とにかく100mぐらいなら一瞬で走ることが出来るってことか」
カケルの計算能力は小学生並みであった。考えることを諦めたカケル。しかしその表情からは満足した様子が溢れ出ていた。
カケルのスキルを見た国王はじめ、周囲の家臣たちからざわめきが起こった。
「これはアタリスキルのようですな」
「3倍の速度とは素晴らしい!」
「ひょっとして、称号は『黒い彗星』なのでは!?」
カラー的な部分に関しては、若干日本と違いがあるようだ。
スキルの次に書かれているのは『賞罰』であった。
なんだか、履歴書のようだ。
「すいません。魔法について記載されてないんですけど? ひょっとしてバグですか?」
カケルが口を開いたが、
「何を言っておる。この世界に魔法などというものは存在しない」
と、魔導士風のおじいさんにアッサリ否定された。
じゃあ、なんで魔導士風のローブなんか着てるんだよ、とツッコもうと思ったカケルであったが、やめたみたいだ。
「魔法が存在ない世界か…… それはちょっと期待ハズレだな。どうせなら俺、魔法が使える世界に転移したかったな」
「おい、ちょっとうるさいぞ、そこの人」
王様に怒られた。
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