クラス全員異世界転移したのに俺だけ遅刻した〜まあ、美少女神官と仲良くなったから別にいいけど〜
大橋 仰
プロローグ
刑事さんは信じてくれない
あるところに、寝ボケまなこで朝食を食べているグウタラ男子高校生がいた。
只今の時刻は8時40分。
今日は土曜日でも日曜日でも、まして祝日でもない。
きっと今頃、彼の同級生たちは教室の机の上に、教科書とノートを広げていることだろう。
この男の名前は
カケルは今日も寝坊してしまった。
「まあ、いつものことだ。気にすることはない」
カケルはそんなことを思いながら、ゆったりと朝食を済ませ、悠々と徒歩で学校に向かった。
カケルは陸上部に所属する高校2年生。
それなら走って学校に行けば良いのに、と思われるかも知れないが、それは出来ない相談というものだ。
なぜなら、彼は短距離選手なのだ。
からっきし根気がないので、長距離走は大の苦手であった。
「俺の専門は100m走なんだ。だから遅刻しても仕方ないや」
そんなことを考えながら、のんびりと通学路を進むカケル。
別に早起きすればいいだけの話なのだが……
「家から学校までの距離が100m以内だったら遅刻しなくて済むのに」
いや、そもそも寝坊するんだから、距離は関係ないはずだ。
カケルが寝坊した原因。それは昨夜遅くまでラノベを読んでいたためだ。
最近では、異世界転生・転移モノのラノベにハマっている。
まあ、ラノベを読んでも読まなくても、たぶん遅刻することに変わりないとは思うのだが。
♢♢♢♢♢
カケルがいつものようにゆっくりと時間をかけて、ようやく学校に到着したと思ったら……
なぜか学校の周りに人だかりが出来ていた。
その中には警官までいるようだ。
カケルが学校の中に入ろうかどうしようかと迷っていたところ……
担任の先生が駆け寄って来た。
「早瀬、無事だったのか!」
カケルの肩をつかんで、乱暴にガシガシと揺らす担任の先生。
「まったく大袈裟だな。俺が遅刻するのはいつものことじゃないか」
カケルが余裕の表情で、そんなことを思っていると——
今度は警察の人がやって来た。
「あなた、早瀬走さんだね? 少しお話をうかがいたいんだけど」
「まったく大袈裟…… え? 俺が遅刻するのはいつものことで…… って、あれ?」
問答無用で、パトカーに乗せられた……
「ちょ、ちょっと! 俺、別に悪いことした覚えありませんけど!?」
カケルの虚しい叫び声が、パトカーの中に響き渡った。
♢♢♢♢♢
所変わって、ここは警察署内の取調室。
刑事さんの話では、今朝、教室にいたクラスのみんなが、一瞬にうちに消えてしまったとのこと。
どうやらカケルは遅刻したおかげで、その騒動に巻き込まれずに済んだらしい。
「何か心当たりはありませんか? 最近、友だちの様子がおかしかったとか、誰かがイジメられていたとか?」
刑事さんがカケルに向けて質問する。
「あ! ひょっとして……」
「心当たりがあるんですか!?」
「それって………… 今流行りの『異世界転移』じゃないですか!?」
「…………もう帰っていいです」
こうして、カケルへの聞き取りはアッサリと終了した。
「なんだよ、刑事さんが聞いたから、答えてやったのに……」
警察の人が車で家まで送ると言ってくれたので、カケルは再びパトカーに乗り込むことになった。
しかし、カケルは家に帰る途中で車を降りた。
カケルには確かめたいことがあったのだ。
時刻は午後2時を回っている。
少しお腹が空いてきたが、ここは我慢だ。
カケルは学校に立ち寄った。
現在、学校への立入は禁止されている様子だが、『忘れ物を取りに来ました。父の形見なんです』というと、特別に中へ入れてくれた。
お前のお父さん、今日も元気に会社へ行ってるだろうが……
自分の教室へと向かうカケル。
教室後方の床には魔法陣らしきものが描かれていた。
教室へと足を踏み入れた途端……
カケルの周囲は真っ白な世界へと変わった。
「ほら、やっぱり。異世界転移じゃないか。まったく、警察の人たちは頭が固いんだから」
満足そうにつぶやいたのはいいのだけれど、本当にそれで良いのか?
しかし、カケルの表情には一切の不安や迷いは見られなかった。
いや、むしろその表情は歓喜に満ち溢れていた。
「クククッ、フッフッフ…… アッハッハッハーーー!!! 俺も異世界に行けるぞ! 俺だけ除け者にしようだなんて、そうは行かないからな!」
そう、カケルは、三度の飯より異世界転移ラノベが好きなマニアだったのだ。
「きっと、向こうの世界についたら、『ようこそ、勇者様!』とか言いながら、美少女神官に迎えられるんだよ! それから、冒険者ギルドに行って、美人のお姉さん騎士や美少女獣耳娘たちとパーティを組むんだ! そんでもって、最終的にはハーレム生活だ! 待ってろよ、異世界! 今、行くからな!」
流石はラノベマニア。早速フラグを立てたようだ。
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