図書館戦闘 前編①
ジョブ目標をコンダクターに据えた俺はシエルさんからガンバイスの基礎を習いつつ、自分の出来る範囲で他のジョブについても調べるようになった。学校、寮、図書館をグルグルして休日も図書館にこもりっきり。アヴェルからは付き合い悪くなったと文句を言われていたが、俺にとって女神からのギフトは俺に謎のやる気を起こさせていた。最早、ぼんやりとしか思い出せない前の世界の学生時代ではありえないくらい学習意欲が高まっていた。目標と自身の理解度。そりゃそうだわな。目標も何もない状態で、ただ年数が経ったからという理由で次のステップに進まされて。やる気が起きないのは仕組みのせいだったんだな。そんなことを考えたりもしつつ、少しずつ色々なことを吸収していった。
シエルさんからジョブの説明を受けてからひと月が経った。いつものように俺は理解出来る者がほとんどおらず、閑散としたオンシュザ高位魔導録が収められた書棚群のスペースに設置されたテーブルで勉強をしていた。シエルさんの元々のジョブであるガンバイスは所謂、鍛冶屋といったところだった。他のジョブの剣だったり、盾、杖、ありとあらゆるものを生成したり改造したり。上級ジョブであるアルケミストになれば宝玉すらも精製できるらしい。もちろんシエルさんは1級アルケミストの資格まで取って教職に就いたとのこと。最初に本格的に習ったジョブがこれだったのが良かったのか。全体を把握するにはうってつけであり、俺自身とても学んでいて楽しかった。これも俺の謎のやる気の一翼を担ってくれていた。楽しいなんて昔じゃ考えられなかったな。まぁいいや。とりあえず、魔導録に書かれていた内容をメモしながらこれと混ぜたらこれになるんだからそこにこっちの元素を持ってきてとか色々考えていると、
「おっ、今日も励んでるねー。感心感心。」
声を掛けられ振り返るとそこには数冊の分厚い本を抱えたソフィがいた。魔法で浮かせればいいのに。挨拶を交わしながらそんな風にイジッてみる。それを聞いたソフィは小さい口を更に小さくすぼめて、
「ターの魔法力の量が異常なだけだからね。一般人がこんなんに毎回魔法使ってたら一日もつわけないじゃん。そういうの
文句を言ってくる。悪い悪い。そう言ってお互い笑いあった。これくらいの冗談を言い合うくらいには打ち解けていた。俺は下のフロア中央にある司書席上部に設置された大時計(円筒状に造られたこの建物ならではと言うべきか。司書席のある下のフロアから見ると、司書席の天板部分から細長いちょっとおしゃれな棒がグルグル回っているように見えるだけだが、上から見るとちょうど建物の壁が時計の台の縁になり、司書席から出た棒が時計の針になって見える。最初上から見たとき、えらく感動したものだ。)を覗き込む。普段声をかけてくる時間よりもだいぶ早い時間だった。どうかしたのか?俺はソフィに聞く。それを待ってましたとばかりにソフィは口を開く。
「実はねー。どうしても頼みたいことがあってさー。」
同時に持っていた本をテーブルに置き、お願いしますと手を合わせて俺を拝むようなしぐさをした。俺はやれやれといった気持ちでそれでどうしたんだと聞く。それを聞いたソフィは嬉しそうに、
「さすがター。話がわかるー。実は地下の書庫。…うん。一般生徒は立ち入り禁止のとこ。あそこで、先週ぐらいから変な物音がするって問題になっててさー。…うん?ちゃんと先生には言ってるって。そしたら先生はほっとけって言ってさ。…いやそれが問題大ありだよ。先輩たちがそれなら自分たちで調査しましょうって張り切っちゃって。…」
適当に相槌を返しながらソフィの話を聞く。どうやらここの地下書庫で問題が起きてるらしい。問題と言っても物音程度。教師もさして気にしていないようだが、しびれを切らした図書委員たちが自ら解決しようとしているらしい。いいんじゃないか?調べるって言ったって普段出入りしてるところだろ?何の問題があるんだか。俺はさっぱりだった。そして、その調査は有志メンバーを募り、明日閉館時間を過ぎた頃に行われるらしい。え?俺、引率の先生よろしく、ついてこいってこと?流石にちょっとめんどいぞ。俺は思わず文句を言う。
「違うよー。本当に調査しても大丈夫か私とターで下見するんだよ。大勢で行ってなんかあったら困るから。」
は?いつ?
「今日。とりあえず、ターはいつも閉館時間までいるから大丈夫だと思うけど。逃げないでねー。」
そう言ってソフィはテーブルに置いた本を抱えると逃げるようにその場から消えた。別にいいんだけどさ。行く図書委員のメンツ、先輩ばかりなんだから任せりゃいいじゃねーか。なんであいつがそれを悩まなきゃいけないんだよ。そしてそのとばっちりを受ける俺。なんだかなー。
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