カム・トゥゲザー

適性とは

イフリートの一件からひと月が経った。その間に何回も国の警察みたいなものに呼ばれたりしたが、話して理解されるとも思わなかったし、俺自身も理解できていなかったのもあって何も話すことはしなかった。アヴェルたちも同様だった。そうしている間に警察の呼び出しも徐々に頻度が減っていった。


俺は今日も今日とて魔術の勉強を受けていた。放課後、俺はシエルさんに呼び出された。教員用のフロアの一室の中央に設置された一点ものであろう豪華な長机に備え付けてある椅子に腰かけてシエルさんを待つ。六畳ほどの狭い一室には前後に本棚が設置されていて、俺は待つ間その背表紙に書かれたタイトルをぼーっと眺めていた。WMT年表、部門別にみるWMT。魔術で簡単クッキング。アルケミストの至高の一品”竿”。魔術体系”土”。オンシュザの愛した属性。明日魔術が途絶えたら。腕輪物語。何かしらの研究レポートの束。ざっくばらんに並んだ本のタイトルを見るだけで面白かった。そうこうしているうちに、引き戸になっている扉が開き、シエルさんが入ってきた。


「ごめんねー。遅くなっちゃって。」


そう言ったシエルさんは参考書程度の大きさの本を数冊抱えていた。それを机の上にドカッと置くと、俺の対面に座って、そのうちの一冊を開きながら話を始めた。


「えっとねー、今日呼んだのは、そろそろあなたにもジョブについても考えてもらおうと思ってね。そうそう。流石ちゃんと勉強してくれてるのね。嬉しいわ。一応最初から説明するけど、この世界できちんと言語化されて体現化されている属性は火、光、土、風、水の5種類なんだけど、これらは互いに共存したり反発したりしてこの世界を形造ってる。ここまではいいわね?」


俺はシエルさんの言葉に時折、相槌を打ちながら、コクリと頷いた。


「この属性たちは、火から時計回りに、火、光、土、風、水と並んで、ちょうど、お星さまの頂点の様になるんだけど、あなたが扱える未確認の属性はその中央に位置する。そしてもう一つ属性はあると言われていて時属性って言うんだけど、これについてはあなたの属性と一緒で言語化されているものが少ないから私自身もうまく説明出来ないんだけど、お星さまの外に位置すると考えられているわ。それでここからが本題なんだけど、このお星さま形からあなたのジョブを考えてほしいのよ。そう、ナイトとかアルケミストとかの話よ。一から行くわね。火属性に特化した生徒が有利と言われているジョブはナイト、ビースター、ハンターの基本本人の肉体をフルに使うジョブね。光はビースター、ナイト、ウィザード。土はウィザード、ガンバイス、あっガンバイスはアルケミストの初級のジョブのことよ。そして、風はガンバイスとプリースト、水はハンター、ナイト、プリースト。ってなるんだけど、あなたの場合、その中央に位置した属性を使えるから正直なんでもなれちゃうのよ。」


シエルさんは持ってきた数冊の本を開いたり閉じたりしながら説明する。俺はその話を聞きながら、イフリートの一件の時間停止のことを思い出していた。あれは時属性の魔法ってことだよな。でも、なんで俺には効かなかったんだろうか、やっぱりよくわからない属性が関係しているんだろうか?


「ちょっと、聞いてる?」


相槌をしなくなった俺に少し非難めいた声を上げるシエルさん。すいませんと軽く謝りながら、俺自身のジョブのことですよね?と切り返す。


「ちゃんと聞いてるならいいんだけど。どうしたい?なんでもなれちゃうんだけど、やっぱりここはあなたの意思を尊重したいし。」


そんなことを言われても俺はてっきり自分のジョブはコンダクターだと思っていた。調律者なんとかっこいい響きか。他のジョブの仲間たちに華麗に指示を出し、戦況を有利に進める。それを聞いたシエルさんは困ったように答える。


「そうよね。やっぱりコンダクターを選ぶわよねー。うん。私も教師としてまだまだだけど、頑張ってみるわ。とりあえず、私の専門のガンバイスからのスタートだけど大丈夫?」


うん?いったい何を言ってるんだろう?正直、シエルさんの言っている意図がつかめなかった。不思議そうにする俺に対してシエルさんは、


「だって、コンダクターになるってことは、オンシュザ魔導士を目指すってことだからね。そのためにはあらゆる系統のジョブをマスターしなくちゃいけないわ。せめて、一つのジョブは完全にマスターしてもらって、他のジョブも上級に届くくらいにはなってもらわないと。だって、何にも分かってないのに全体を調律しようなんて混乱を招くだけよ。きちんとした基礎知識がなきゃ。リーダーなんてジョブは無いんだから。その部門の専門知識の高い人が指揮を執ってその人がリーダーって呼ばれるだけなんだから。」


ごもっとも。それと同時に自分の考えの甘さに思わず乾いた笑いを出してしまった。

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