はじめましてマオとユウ 後編
炎の出所はあの塔の上からだった。向かいながら考える。だいたい俺が行く理由がどこにあるってんだ。異世界まできて俺はなにやってんだか。そんな考えが頭をよぎる。別に俺じゃなくてもいいじゃないか。そう思いながらも身体は勝手に炎の出所へ向かっている。つくづく損な性格である。まったく。俺は自分の性格に辟易しながら塔のてっぺんに着いた。
最初に見た景色はとても異様なものだった。倒れている人影、そして、その背中を踏みつけるように、あるいは生えるように炎を纏った精霊イフリートが立っていた。しかし、そのイフリートは苦しそうである。頭を両手で押さえ、身体全体を揺らしていた。しばらくの間、どうしたものかと眺めていると、イフリートは、グォォ!っと雄たけびを上げると妙にすっきりした顔で周囲を眺め始めた。そして、俺を視認するとなんの予告もなく、こちらに殴りかかってきた。俺は慌てて左肘から手の甲にかけて水の盾をはり最初の一撃を受け止める。しかし、その衝撃はすさまじく若干体が後ろに下がった。イフリートはそれを見逃さず、左のこぶしで俺の脇腹を思いっきり殴ってきた。ぐはっ。一瞬視界が二重、三重になり意識があらぬ方向へ飛んでいきそうになる。俺はぐっとこらえたがイフリートは右のこぶしを俺の顔目掛けて追い打ちをかけようとしているのが分かった。俺は魔力を足に振り絞り、後ろに思いっきり飛ぶ。だが、イフリートはそれすらも予想していたかのように、俺の方向へ空振りした右のこぶしを再び構え突っ込んでくる。ダメだ。避けることも防ぐことも出来そうにない。俺はふざけんなよと叫びながら、両手で水の魔法でバレーボール大の球体を作り出し、それを抱えた状態で頭上に掲げ、突っ込んでくるイフリートの頭に対して思いっきり叩きつけた。イフリートはその勢いで塔の下の地上へと落ちた。イフリートの落ちた場所はえぐれて、そこに周りの土砂が流れ込みイフリートの姿は見えなくなった。その衝撃を受けた塔も若干傾き始めていた。このままでは倒壊の危険すら出てきた。俺は慌てて倒れているマオに近づく。マオを抱きかかえるが動く気配はない。えーっと、これはどっちだ?謎の時間停止?それともマオ自身が重篤なのか?悩んでいると下からドンっという音が聞こえ、イフリートがこちらに上がってきた。土砂に埋もれところどころに土がついているが大してダメージは受けていないようだった。俺はどうしてこんなことをするか大声で聞く。
「はぁ?なぜそれを聞く?お前もあの女の仲間だろう?これだから日本人は。ふざけた技を使いやがって。」
そんな訳の分からない会話を聞いている最中、抱きかかえていたマオに変化が起きた。
「ん?ここは?どうしてあなたが。離しなさい。」
そう言って暴れ始める。おい、本当に大丈夫なんだな?俺は念を押しながらマオを時が動きだしたからなのか、段々と勢いを増して崩れ始めた傾いた塔の上に放り出す。そして、突っ込んできたイフリートの身体を腕をクロスさせ水の魔法の盾をはって受け止める。なんつー衝撃だよ。つーか、ほぼほぼ無抵抗な奴に対してなんでこんなことしてくるんだよ。この混乱した状況に段々と俺はイライラしてきた。イフリートは攻撃の手を緩める様子は全くない。俺がつぶれるまで攻撃をやめないつもりらしい。勘弁してくれよ、俺は相手のこぶしに併せて水の魔法で応戦する。段々とイフリートの動きが鈍くなってきた。疲れてきたんだろう。良かった。会話が出来るかもしれない。そう思った矢先、変なことしているマオが視界に映った。俺とイフリートが交戦する後ろで中空に浮き、足元に青色の魔方陣を発生させ、何かを唱えている。おいおい、いったい何をやらかそうっていうんだ?
「…我、古の契約に従い、…を行使する者なり。汝、我の従者にならん。」
呪文を唱え終わったのだろう。マオはイフリートの方角に向けて大きく右手を突き出した。突き出された右手からは青い光が飛び出し、イフリートを捕らえた。そして、ギュンギュンとうなりながらイフリートは赤い腕輪に変わり、マオの右手首にはまった。俺はマオに近づき、どういうことか尋ねる。マオはしたり顔で、
「私の家系に代々伝わる呪法よ。一番最初に習うけど、本当に使う機会に恵まれるなんて思いもしなかったわ。これがあれば、あなたみたいに信託の騎士だからってちやほやされる奴らにだって負けることは無い…」
言っていたマオだったが、魔法力が尽きたのか足元にあった魔方陣が消え、落下し始めた。慌てて俺はマオを抱きかかえる。
「ちょっと一体どういうつもり?私に情けをかけて。さぞ気分がいいんでしょうね。でも、今に見ていなさいよ。馬鹿にしてきた奴らに目にもの喰らわせてやるんだから。」
俺の胸の中で悪態をつくマオ。さっぱり訳が分からなかった。突然攻めてきたイフリート。そしてそれを捕まえた?マオ。謎の時間停止。誰か会話をしてくれ。俺は別に争いたいわけじゃないのに。俺はマオを抱えながら心の中のモヤモヤが晴れず、イライラしながら宿へ戻った。倒壊してしまった塔の調査は国が管理することになり俺たちは学園に戻ることになった。当然というべきかマオはイフリートとの出来事に対してダンマリを決め込むことにしたようだ。俺自身もそれでいいと思った。とりあえず俺は面倒ごとに関わりたくないその一心だった。
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