はじめましてマオとユウ 中編④
翌日、俺はクラス担任に言われてマオとユウの二人と組んで遺跡探索をしていた。マオの差し金らしい。どうやらマオは担任すらも手玉にとっているようだ。まー別にいいんだけどさ、もう。俺は一種の悟りの境地とでも言うべきか。そんな感覚でいた。てか、アヴェルの奴が昨日さんざんマオをこき下ろしていたから、いざマオと行動を共すると、想像よりかだいぶましで肩透かしをくらったってのもあるんだけど。
「ちょっとーまだ見つけられないの?てか、私たちより高く翔べるからって調子にのってるんじゃないの?」
さっきから俺とユウはマオの監視のもと昨日イフリートに出会った場所を上空から探していた。うーん。数m下から罵声を浴びながら俺は遺跡全体を見回す。高度は昨日の塔よりも高いのだが、いかんせん広い。それにそもそも俺とユウが見たものがちゃんと地上に上がっているかすら怪しい話で。そう思いながらも、とりあえず探す。てか、似たような感じの奴が多すぎるんだよな。見つけたと思って降りてみたら全然違ったりして。それに分からないこともある。この遺跡郡は上から見るととても不思議なものな感じがしてならなかった。至るところに石壁で仕切られた色んな彫像だったりが飾られたフロアがあったり、石壁で仕切られた迷路のようなフロアがあったり、しかし、そのどれにも屋根がないのである。あの塔ですら中に入るための入り口は見当たらなかった。昔のRPGゲームのような外観、はたまた各ブースで仕切られた物販会場を俯瞰して見ているようなそんな感じ。なんでなんだろ?こっそりユウに聞いてみたが俺の例え自体からピンと来なかったみたいだった。まーいいんだけどさ。しかし、どうやって見つける?空から見た限りではそれらしいものはいくつかあったがどれも違った。うーん。どうするかねー、相変わらずマオは数m下からユウと浮遊しながら俺に罵声を浴びせてきている。その時、大地に異変が起こった。昨日と同様の地鳴り、また何か起こるのか?ゴゴゴという地鳴りと共に昨日と同様大地に変化が始まった。俺は慌ててマオとユウに視線を飛ばす。2人とも驚いてはいるが大丈夫そうだな。遺跡郡に視線を戻す。遺跡郡は鳴動と共に、文字通り、進化し始めた。先ほどまで気になっていた屋根なしの部分にみるみるうちに石造りの屋根が生え、各建物の周りの大地が隆起し、高低差が生まれ、遺跡郡はみるみるうちに遺跡郡から古代都市に進化を遂げた。こりゃもう空から探すなんて無理じゃないのかと思いかけたが、なんてことはなく、塔の横に小高い丘が出現し、見覚えのある社と狛犬、エンとジュだったか?の彫像があるのが見えた。下の2人にもそれは確認できたらしく、俺とユウは互いに目配せし、俺たちはその丘へと向かった。
途中途中で他の生徒たちや学者たちが形を変えた都市の建物に入る様子が見えた。適応能力高いな。早速、変化した建物の調査とは。
俺は二人よりもやや先に社の前に着いた。昨日見た狛犬たちと社。宝玉も飾られている。しかし、地下で見た時のような光は発していなかった。光っていても困るだけなんだけれども。俺は狛犬の片方に近づきなんとなく前足をコンコンとノックする要領で叩いた。やっぱり石だよなー。昨日のは夢だったんだろうか。でも、ユウも見てるしなー。そんなことを考えているとマオとユウもようやく追いついてきた。マオは俺に皮肉を言いながら社と狛犬を注意深く観察した。そして、問題の宝玉を躊躇無く手に取り、太陽にそれをかざしてジロジロと眺めた。
「ねぇ、これがイフリートなのかしら?」
俺たちに質問を投げ掛けるマオ。これ?一瞬マオの言っている意味が分からなかった。俺とユウは互いに顔を見合わせる。はて?そんな俺たちを見て、マオは苛立ったようにこちらに宝玉を向ける。
「これよ、これ。」
俺とユウはつき出された宝玉を観察した。赤く半透明の玉。その中に人らしき影が浮かんでいる。ん?近づいて中の様子を確かめる。玉の中には、確かに昨日見たイフリートがいた。中の彼は頭から胸の辺りまでしか見えないが、必死の形相で左右に向けて力を加えているのが見える。何かに捕らわれているのだろうか。その顔は怒りに満ちていた。俺たちがその宝玉をまじまじと見ていると、麓から鐘の音が鳴り響き、風の魔法によって増幅された声が聞こえ始めた。
「ただちに遺跡に滞在している者は退去してください。繰り返します…」
俺たちは黙ってその指示に従った。
俺は宿屋の自分の部屋で今日あった出来事をアヴェルと話していた。アヴェルは最初ご苦労なこってと笑いながら聞いていたが、イフリートの宝玉の話になると表情が変わった。
「なーそいつは確かに苦しそうだったのか?」
イフリートのことか?苦しそう、うーん。なんか身動き取れなくなって必死に抜け出そうとしてる、そんな感じだったがなんかあるのか?
「わかんねーんだけど、なんかそれに似た話を最近聞いた気がするんだよなー。」
コンコン。申し訳なさそうな弱々しいノックの音。俺は返事をして扉を開ける。そこにはユウがいた。ユウは部屋の中を見てアヴェルがいるのに気づくと更に申し訳なさそうな表情をした。大丈夫、大丈夫とユウをなだめて部屋に招き入れる。若干、躊躇する様子を見せたユウだったが黙って俺に従った。俺は改めて、どうしたのか尋ねる。しばらく黙っていたユウだったが覚悟を決めた表情で、話し始めた。
「………あの…実はマオがいなくなって……」
俺とアヴェルは顔を見合わせた。聞けばあの後、マオはあろうことかあの宝玉を麓で待っていた兵士たちに渡すことなく宿屋まで持ち帰ってきてしまったらしい。そして、部屋で宝玉に色々試したりしてたみたいなんだが、火の属性を宝玉に纏わせた瞬間、宝玉が光り始めマオを包み込んで消えてしまったらしい。普通に考えて遺跡にあったものを遺跡の関係者でもないやつが勝手に持ち帰るなんてあってはならないだろうに。俺はマオの行動を責めた。アヴェルはそんな風に言う俺に向かって、
「お前さー、普通はとか、常識的にとかって言葉は相手を受け入れるためなら使ってもいいと思うけど、相手を否定する時は使わないほーがいいぜ。普通とか常識なんてもんは人によって変わるもんだからさ。それよりも、思い出したぞ。玉の中に人が捕えられてるって話。人じゃねーけど、最近、隣の国で見つかって問題になってるやつ。密猟グループが編み出した魔法で魔物たちを玉に封じ込めるやつだ。奴らはそれを使って違法に魔物たちを狩ってるって話だ。」
うん?それが今の話となんの関係があるんだ?俺はあまりピンとこなかった。第一、俺とユウが見た最初の時点でイフリートは宝玉だった訳で。それだと最初から捕らわれていたことにならないか?よく分からんぞ。訳が分からなくなってしまった俺に対してアヴェルは説明を始めた。
「えーとな、多分、お前らが最初に見た宝玉ってのは光玉って言って精霊界と人間界の接合点みたいなもんで、なんて説明したら分かりやすいかな、うーん、とりあえずワープ地点のワープそのものなんだよ。イフリートは関係ない。あー、昨日使っただろ?五芒星のワープ装置あれだ。あれの精霊界と人間界版。」
うーん。なんとなくは分かった。それで?
「んで、そっからイフリートが出てきた訳だ。それでお前らとひと悶着あった。問題はその後。お前らが地上に戻ったからイフリートも遺跡を地上に上げてお前らを追いかけようとした。その途中で何者かによって捕えられた。」
うーん。だから、遺跡は中途半端に浮上し、イフリートはあんな状態になった。いや、おかしくないか?それだったら遺跡が翌日浮上を再開したこと、イフリートが社に戻ってることの説明がつかないんじゃないのか?俺は素朴な質問をぶつける。
「そこなんだよなー。でも、捕らわれてたってのがどうしても俺は引っ掛かるんだよなー。」
一瞬光の筋が俺たちをまたいだように見えた。そして音が消えた。ん?どうした?話している途中だったアヴェルは話すことを辞め、固まっていた。ユウに視線を飛ばす。ユウも同様に固まっている。は?おい、まさか?俺は慌てて部屋の窓を開け下の様子を伺う。街中にいる人々は固まってしまっていた。時が止まっている?辺りを見回す。遺跡の方角に炎の煌めきが見えた。それは次第に大きくなっていく。俺はマオに違いないと思い、炎の方角へ向けて思いっきり飛んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます