図書館戦闘 前編②

閉館時間になり、俺は寮で読むことにした一冊の魔導書を片手に図書館外のベンチに腰かけてソフィを待っていた。図書館は寮と修練場をつなぐちょうど真ん中あたりにあるので目の前の道には修練帰りの生徒たちの姿もちらほら見受けられた。その中には見知った顔もあり、時折手を振ったりしていたがそのうちの二人がこちらに近づいてきた。マオとユウである。まあ用がありそうなのはマオだけっぽかったが。ユウはマオの後ろにいて少し申し訳なさそうにこちらを見ている。


「あら。信託の騎士様はこんなところで油を売って。さぞ余裕なのでしょうね。」


マオはいつもの調子よろしく悪態をついてくる。なんだかなー。こいつは。俺はそんなマオを軽くいなしつつ、調子はどうだと聞いてみる。ユウに。


「はっ、他人の調子を気にするなんて、相当余裕なのね。これを見てみなさい。」


マオは聞いてもいないのに自分の右腕のリングをこちらに見せてくる。イフリートを封じ込めたのやつである。マオはそれをあの一件以来、ことあるごとにそれを自慢してきていた。カーシングスピリットガイストだったか、マオとユウの家系に代々伝わる古代の呪法。代々受け継がれるカースピリング。それを使って精霊と心を通わせることが出来るようになる呪法らしいが、少なくともマオたちのひい爺さんくらいからただの一種の通過儀礼みたいな、一族なら誰でも覚えているが実際使ったことはないくらいのレベル。カースピリング自体はその代の一番魔力の高い者がつけるしきたりらしいが10代のマオがつけている時点でお察しだろう。要するに形骸化してしまった古い慣習そのものだったわけだが、それが今実際に現実に通用する事態になった。なんの因果か。しかもそれを使えるようにちゃんと修練に励んでいたマオ。周りからは呆れられていただろうに。もちろん本人に言うことはないが、素直に俺はそんなマオを尊敬した。まあこいつの言い分自体はあんまり理解できないけども。


マオはギャーギャーと説明を続けている。どうやら、修練場でイフリートの具現化に成功したらしい。本来、精霊自身がこちらの世界に具現化することは稀らしい。その理由は、高位であればあるほどマナの量が膨大で存在するだけで世界のマナのバランスが崩れてしまい、こちらの世界と精霊界に悪影響が及ぶため。だから、術者のマナを使用して精霊を召喚するのが一般的らしい。具現化するには相当な鍛錬が必要だったろうに。しかし、いよいよ訳が分からなくなってくる。じゃあ、あの時のイフリートは何だったんだ?俺がマオにイフリート本人に聞くように頼んだが、イフリートからは答える気はないと言われたらしい。もっと言えば、可能であればすぐにでも俺をどうにかしたいらしい。それもあって、マオは私のおかげで俺はイフリートとひと悶着起きないで済んでると恩を着せにかかってくる始末。もう勝手にしてくれ。ひとしきり喋ったマオは満足したようにユウを引き連れて寮への道へ消えた。


それを見計らったかのようにソフィが後ろから声をかけてきた。


「お待たせー。なんか大変そうだったねー。」


ひょうひょうと話すソフィに俺はジト目を向ける。こいつ一部始終見てたな。助け舟位出してくれよ。


「まーまー。とりあえず、まだ残ってる先輩いるから、売店にでも飲み物かなんか買いに行こー。労いを込めてなんか奢るよー。」


俺はそれを聞きながら、売店のメニューで一番高い飲み物は何だったか考えるのだった。まぁ流石に本気で頼む気はないけど。

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