はじめましてマオとユウ 中編②
隆起し始めたのは、俺とユウが立っていた五芒星の描かれた地面だけではなかった。行き先が真上のエスカレーターに乗った感覚で空へと昇る視界。眼下に次々と隆起する大地が見える。いや、大地というのはちょっと違うのか。遺跡が地面から生えているのだ。少し違う気もするが、古代遺跡の発掘を真上から撮影して早送りしたようなそんな景色が眼下に広がっていた。しばらくしてズンという音ともに隆起は止まった。俺とユウの立っている五芒星と社は塔のてっぺんに変わり、下では山の麓の町の近くまで伸びた遺跡群が姿を現していた。俺に抱きつくのが、すっかりデフォルトになってしまったユウはそのまま腰を抜かしてしまっていた。俺はユウをゆっくりと立たせて周りを見させる。
「………。」
ユウは沈黙のまま感嘆の表情を上げていた。その様子を眺めつつ、俺も下の遺跡群を眺める。うーん。これはやっぱり俺のせいだよなー。もともと地中にあった遺跡が姿を現す理由。どう考えてもさっきのやつだよなー。俺は頭を掻きながら周りに注意を向けた。何かが迫ってくるような違和感は感じなかった。あれ?おかしいな。普通の異世界ものだったらこのままイフリートが現れてバトル展開に突入するんじゃないのか?まぁ、俺自身そんなの期待してないから別に構わないんだけど。なんだか変な感覚、もしかしたらこれが狐につままれた感覚というやつか。
「離れろや、ボケがー。」
背中に激しい痛み。そして俺の視界は地面に変わった。落ちてる?俺は慌てて浮遊し、塔のてっぺんに戻った。そこにはアヴェルがユウの両肩に手をかけ、大丈夫か?とか、なんか変な事されたのか?だの俺への冤罪を並べ立てていた。こいつ一体なんなんだよ。てか、息を切らしながら喋ってるお前のが大概だろ。さっき落下してる最中に見えた塔の外周部に設けられた螺旋階段を上ってきたのだろう。ここ普通のビルだったら何階なんだよ相当だぞ。ユウを庇うように俺の前に立ったアヴェルは下界の遺跡の一部を指す。そこには、ほかの生徒たちが集まっている。そういや遺跡が上がってくる前に集まってるのが見えたな。聞けば、俺とユウが抱き合って五芒星に戻ってきたのをあそこから見かけてあの揺れる環境の中走ってきたらしい。抱き合ってたってなんだよそりゃ。まったくこいつは。その後、本当にイフリートとの戦い、戦いっと言っていいのかも疑問だが、そんなことはなかったかのように平和だった。なんだったんだろ、あれ。まー平和と言っても、遺跡が浮上したことにより、俺らの課外は一時中断され、俺らは麓の街の宿屋に缶詰めにされることになったわけで。浮上の際、現場にいた俺たち生徒一団は担任から聞き取り調査みたいなものを受けたが、俺はなんとなく面倒だったので地中であった出来事を多少ぼかして話した。まーユウが喋ったらしょうがないんだけども。俺自身がよく分かってないことを根掘り葉掘り聞かれるのはダルいなー。はーあ。俺は用意された個室のベッドに横になりため息をつく。しばらくしてドアが開いた。その先にはアヴェルがいた。ノックぐらいしろよなとも思ったが寮でも基本こんな感じなので大して怒る気にもなれなかった。入ってきたアヴェルは寝ている俺に構わずベッドに座った。
「おい、ふかふかじゃねーか。このベッド。俺らの部屋と大違いだ。まったく。」
来て早々に部屋についての文句を俺に言ってくる。俺が知るか。
「そういや何があったんだ?実際。」
アヴェルはひとしきり文句を言った後、さらりと切り出した。うーん。何があったかか。とりあえず俺はイフリートの一件を話した。
「イフリートねー。」
アヴェルは半信半疑というような表情でこちらを見る。
「だってよ、もし、それが原因で遺跡が現れたんなら肝心のイフリートも出てこなきゃおかしくね?」
それな。そこなんだよなー。ユウはイフリートが喋ってること自体理解出来てなかったみたいだし、そもそもイフリートなのかも怪しくなってくるんだよなー。まー魔導書に書かれてた挿し絵と一緒だったからそうなんだろうけど。てか、なんで俺いきなり殴られそうになったかも謎だしな。
「日本人だからだろう?」
アヴェルはこともなげに言う。だから、日本人だったらなんで殴られなきゃなんないんだよ。そう言う俺に対してアヴェルは笑いかけながら話す。
「そうだな。みんながお前みたいにその人自身を見られるなら世界はもっと平和かもな。まーいいじゃねーか、とりあえずなんも無いみたいだし、遺跡は地上に出て研究者も大喜び。万々歳じゃねーか。それより、昨日話してたサーカス見に行こうぜ。そのために来たんだよ。」
俺はアヴェルに連れられて街の中央広場へ向かった。
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