はじめましてマオとユウ 前編

「ちょっと一体どういうつもり?私に情けをかけて。さぞ気分がいいんでしょうね。」


課外授業3日目。俺は、中空から魔法力が尽き、落下しそうになったマオを抱きかかえていた。俺はとてもイライラしていた。時は課外授業1日目に遡る。


俺とアヴェルはシエルさんの勧めで前大会出場者のいるクラスに交ざり課外授業に参加していた。優秀な生徒のみを集めたのか人数は俺たちのクラスの半分の量だった。朝一番に、俺はクラスの担任から軽く生徒たちに紹介をしてもらったが、誰も興味がないのか反応は薄かった。と言っても、今日の課外の内容が個別の迷宮探索だったのでそれが原因かもしれなかった。


俺たちが来ているイフリート遺跡は標高2000mと言われるイフリート山の山腹にある小さな社のことで、しかも山腹と言ってもそこまで苦労して登ったわけでもなく。しかも、たどり着いた目的地は小さな社。拍子抜けもいいところだった。


しかし、俺の心は小さな社の前のあるものを見て、そんな思いは吹き飛んだ。石畳が、んー、一辺2mくらいか?綺麗に正方形に並べられ、そこに五芒星の魔方陣が描かれていたのだ。これはあれだろう。上に立つとワープするやつだろう。予想通り、それは遺跡本体へのワープ装置だった。生徒たちはさっさと魔方陣に一人ずつ乗って消えてしまった。残った俺とアヴェルはクラスの担任から簡単に説明を受けて、他の生徒たちと同様、魔方陣の上に立つことになった。まずは俺から。担任から言われた通りに火の属性を身体に纏わせる。すると、ぎゅんっ。と身体全体に重力がかかったかと思うと、俺の視界は社から洞窟の中へと変化した。キョロキョロと辺りを見回す。どっちが北かは分からないが、東西南北それぞれに道があり、ちょうど十字路の真ん中に俺は立っていた。洞窟内はゴツゴツした壁自体に発光する成分でも含まれているのか真っ暗というわけではなく、淡い明るさ、ちょうど車道のトンネルの中を歩いている感覚か。まぁ照明も無ければ、アスファルトなんてものがあるわけ無いのだが。頭上に視線を向けた。来たときと同様の五芒星が見える。


俺は担任からの説明を思い出す。この遺跡は入る度に姿を変えるらしい。しかも、入り口は一ヶ所しかないのにどこに飛ばされるかもランダムで分からない。ただ帰還自体は容易で先々で見つけることの出来る頭上にある五芒星に触れて火の属性を身体に纏わせるだけで社に戻ることが出来る。万が一の場合も、意識を失った時点で、社に戻る仕組みらしく、調査目的以外にもこうして修練目的でも利用されるらしい。


俺は昔ゲームではまったローグライクダンジョンを思い出した。そういや、ローグライクの意味まで調べたな。元々、ローグってゲームがあって、それのようなゲームって意味。当時、ライクは好きって意味しか知らなかったから、好きと似ているが同じ単語ってことを初めて知って妙に納得したんだよなー。まーどうでもいいか。


とりあえず俺は、最初の身体の向きを変えずにそのまま真っ直ぐ進むことにした。本当に部屋の構造はランダムらしく、なかなか調査も進んでいないという話だった。そんなところが課外授業の場所とは。よっぽどこのクラスは優秀なのだろう。


しばらく道なりに進むと大きなゴツゴツした岩に出くわした。その上からは、ここよりも明るい光が差しているのが見える。道は左右にも続いていた。左右のどちらかを選んで進むのも良いかもしれない。しかし、俺はふと思い付く。そして、それと同時に俺は地面を蹴っていた。手足に風の属性を纏わせ、ボルダリングの要領で岩を上っていく。前の世界と違うのは風の属性効果で一種の無重力状態だということ。軽やかに岩を蹴ったり、あるいは手で身体全体を上に押し上げたり。あっという間に岩のてっぺんの縁を掴み岩の上へと降り立った。軽く息を整えながら周りの様子を伺う。一段と光っていた部分には、来たときに見た社を小さいサイズにした建築物があった。俺はその社に近づき、光の出所を探った。社の両脇には炎の魔獣の彫刻、前の世界のイメージで言うなら、狛犬が炎を纏ったような、と言っても、狛犬よりも牙は大きく、爪も大きい。この世界のイフリートを模したものだろうか、でも、魔導書では人の形をしていた気がする。しかも、イケメン。俺のイメージだと氷の精霊って言われたら納得するような切れ長の目に細い感じのやつ。だとしたらこいつは従者みたいなやつかな。そんなことを考えつつ、俺は社の中央に視線を飛ばす。そこには宝玉が供えられていた。


俺は悩んだ。これ取って帰っていいのだろうかという問題。実際、今日の課題はこの遺跡の探索である。昼過ぎには全員社の近くの広場に集まりその成果を話し合う予定だ。間違いなく、こいつは成果としてかなり上位に入るだろう。しかし、ミニサイズの社に丁重に供えられているこいつは明らかにこの遺跡にとって重要なもののはずだ。それをなんの知識もない俺が取って帰っていいのだろうか。せめて写真を撮ることさえ出来れば…てか、せめて誰かと連絡を取り合えれば相談も出来るんだが…そんなことを考えていると、後ろから物音が聞こえた。俺は思わず振り返る。


「………」


振り返ると、とても鮮やかな緑色の髪をした女の子がいた。その顔には見覚えがあった。今日来ている生徒の一人だ。何も喋らない彼女に対して俺はとりあえずどこから来たか聞いた。社から見て俺が登ってきた岩の左を彼女は指差した。どうやら彼女が来た道が正規のルートのようだ。朝礼の際、探索者同士が出会う確率はほとんどない。というよりも前例が無い。と聞いていたので俺は驚いていた。多分、彼女も…驚いている…よな?正直、彼女は一言も発しないので、どうしたものか。えっーと、君の名前は?


「…ユウ。」


そうか、ユウと言うのか。うーん。何を話せばいいんだろう?俺自身もそんなに喋るわけでもないんだが、かといってこのまま無言というわけにもいかないし…しばらく経って今度はユウから喋りかけてきた。


「…あの…それ…取らないの?」


ユウは社の中の宝玉を指差していた。見つけたけど、果たして俺がこれを持って帰っていいものか?俺には価値も分からないし、こうやって飾ってあるってことは多分この遺跡にとって大切なものだろうしと悩んでいることを伝えた。ユウは俺の話を聞きながら、たまに大きな目をさらに開いたりしていたが、最後は何故かクスッと笑われてしまった。俺変なこと言ったかな?ユウはしばらく俺をじっと見つめていたかと思うと質問してきた。


「あなたの元いた世界では、あなたみたいな考えの人ばかりなの?」


元いた世界?日本のことだろうか?うーん。そもそも俺みたいな考えってなんなんだろう?俺は思わず日本がってこと?と聞いた。すると、社の方からガタンと大きな音がしたかと思うと、狛犬たちが動き出した。

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