はじめての課外授業のお誘い

こっちの世界に来て3週間が経った。俺は、授業で習う魔法はすぐに習得出来た。女神からの贈り物効果はとてつもなかった。そんなこんなで俺はクラスの生徒たちよりも遥かに上達も早く、今では入ったばかりの俺が休み時間なんかを使ってみんなに教えるようになっていた。


そんなある日、放課後、修練場でほかの生徒たちが修練しているのを眺めていた俺とアヴェルは、(俺は断じてやましい感情があってみていたわけではないぞ。たまたまだ。)修練の様子を覗きに来たシエルさんからこんな話を持ち掛けられた。


「来週からの授業予定なんだけど、こっちは基礎の復習をもうちょっと重点的にやろうと思ってて、君には少し退屈かもしれないのよね。そこで、別のクラスの子たちが来週からちょうど課外授業だから、あっ、アヴェルちゃんには、毎回参加してもらってるんだけど、君もどうかなって。」


俺は思わず、アヴェルを見る。


「心配すんなって。意外と楽しいぞ。まー、お前が魔法の理解に苦しむ女の子に手取り足取り教えるのが好きーって言うんなら断ってもいいんじゃないか。」


悪ーい笑顔とともに変なことを言ってくるアヴェル。悪いやつだ。あほか!そんな俺とアヴェルのどうしようもないやり取りを笑顔で見ていたシエルさんは、


「うん。君が面倒見がいいってことは知ってるけど、それだけじゃなくて、あなた自身も色んなことを知ってほしいって私は思ってるの。それにこれは私のわがままなんだけど、あなたが入ることで、あっちにもいい変化になるんじゃないかなって。どうかな?」


そう言いながら、座っていた俺の前に座り、上目遣いで聞いてきた。俺は二つ返事でシエルさんの申し出にOKを出した。それを横で聞いていたアヴェルは、さもおかしそうに笑った。



その日の夜。俺のベッドで、横になって本を読んでいるアヴェル。その横の机で図書館から借りたオンシュザ魔導書を読む俺。すっかりアヴェルはここが気に入ったようで平日の夜はだいたいここに来ている。まー別に構わないんだけど。そんなアヴェルに魔導書がちょうど章変わりのタイミングで課外授業について聞いてみた。


「あー課外授業ね。とりあえず、うちの国にある精霊の遺跡を巡るって感じかな。今度行くイフリート遺跡は、本当にイフリートがいるんじゃないかって話だな。って言っても誰もそんな高位精霊とコンタクトできる奴なんていないし、いるって話も数百年ぐらい前の古文書にその記載があるって程度だしな。ん?そういやお前こないだ精霊と会話できるようになったって話だっけ?もしかしたら…ってそんな訳ないよな。第一そんなこと出来たからってどうしようもないしな。この世界には魔王なんてもんも存在してないわけで…いや待てよ。万が一、イフリートを召喚なんてことが出来たらその周りは暑くなるわけで、そしたらそこにいる女子はなんか暑いねとか言って薄着に…なんかなかったっけ、そんな昔話?」


聞いた俺が悪かったのか。アヴェルは一人で語り始め、やがてそれは訳の分からない方向に飛んでいった。どんだけ妄想力たくましいんだよ、こいつは。しかし待てよ。こいつの口ぶりではあまり遺跡巡り自体には興味がなさそうだった。じゃあ、なんでこいつはこんなに乗り気なんだ?


「そりゃ、一緒に行くのがベテラン勢だからだよ。」


アヴェルは再び読んでいた本に視線を戻して理由を話し始めた。


「この学校って前の世界と違って年齢でクラス分けとかしないじゃんか。ただ在籍期間は基本大会開催までの期間と一緒で5年。どんなに延長しても7年。まぁ最初の1,2年で別の学校に行く生徒も多いから生徒数は大して変動ないけど、最長7年ってことはもちろん、その中に前回大会出場者も含まれる。そういうベテラン勢は俺らでも最初のうちに同じクラスになるのは至難の業なわけで。そういう人たちとの繋がりっていうかそういうのは大事だしな。」


ふーん。アヴェルから、なんか大学生がファッションで楽しんでる意識高い系の内容を聞きつつ、さっとアヴェルの読んでいる本を奪い取った。遺跡の夜はとっても神秘的と書かれ、かなりきわどい格好をした女性ダンサーの写真が並んでいる。どうやら遺跡の近くでサーカスが興業をしていて、その演目の一つの踊り子たちのショーが熱いらしい。まぁ、そういうことだろうなーっそれにその一緒に行くクラスの子にもかわいい子がいるんだろうし、俺はアヴェルにジト目を送る。


「なんだよ、ノリ悪ぃーなー。ちょっとした前の世界ごっこじゃんか。はいはい。そうでーす。このサーカス団が気になるんですー。もちろん美人だからですー。まー、一緒に行く子たちもかわいいっちゃかわいいんだけどな、あんまあの子らに深入りしたくないんだよなー、俺は。前の世界を思い出してちょっと嫌な気分になる。」


嫌な気分?そう聞くと、アヴェルは少し寂しそうに、


「要するにそんな状況になるためには本人じゃなく親が細工しないと無理ってことさ。子供は親の叶わなかった願いを叶える道具じゃねーのにな。」


そう言って、なんか疲れたから今日は帰るわ。と部屋を出て行った。俺は、アヴェルの前の世界のことが少しだけ気になった。

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