はじめましてアヴェル
扉をノックする音がした。誰だろう?俺は軽く返事をして扉を開ける。そこには、青い髪をポニーテールにした可愛い女の子が立っていた。ってか、それ以上に胸に目がいってしまってやばい。これはフィル以上だぞ。どうなってるんだ。多分、ここの生徒なんだろうが何故ここに来たんだろうか?俺は何も言いださない彼女に向かって何かよう?と平静を装い聴いた。すると、女の子は俺の想像とはかなりかけ離れた言葉を言った。
「ゲーム〇ーイ。」
ん?どういう意味だ?彼女はそう言うと俺に何かを答えるように右手を俺に向けた。ん?しりとりか何かか?俺は椅子?と答える。
「しりとりじゃないよ。ゲーム〇ーイ。はい。」
再度、同じ言葉を繰り替えす。えーっと、スー〇ァミ?俺は訳が分からないがとりあえずゲーム機本体の名前を言った。すると彼女は満足した表情で、続ける。
「メガ〇ライブ。」
偉く懐かしいものを言ってきたな。セガ〇ターン。俺は少し楽しくなってきた。もしかすると、こいつは…彼女は続ける。
「プレイ〇テーション。」
多分そういうことだよなー。えーっと、〇ii。暫くゲーム機本体の名前の言い合いが続いた。しかし、それはそんなには長くは続かなかった。うーん。俺は昔を思い出し必死に考えた。そして見つけた。ワンダー〇ワン。それを聞いた彼女は満足そうに初めてゲーム機本体の名前以外を言い出した。
「よし。あなたは日本に住み、20代後半以上でこの世界に転生したでいいわね?」
うん?確かにそうだが、だから何だというのだろうか。まぁ俺としては同じ転生者でこんなかわいい子がいるというのは何と言うか役得以外の何物でもない。ゲーム機本体の名前が分かるってことは同年代ぐらいだろうし、それに女性でしかも同年代でここまでゲームを理解してくれている人はネットの中でしか出会ったことが無かったので純粋に嬉しかった。
「あの、入ってもいい?」
寮の部屋を自分の部屋と呼んでいいのか分からないが部屋に女の子を入れるのは何年ぶりだろう?ちょっと思い出せない。少しドキドキしながらその子を部屋に入れた。彼女はどかっとベットに座った。俺はその隣にある机の椅子に座る。どうしたらいいのか。とりあえず、君も転生者?と聞く。彼女は答える。
「そうだよー。それでね、あんたに聞きたいことがあってさ。」
聞きたいこと?なんだろう?
「こっちの世界のこと。どう思った?居心地よさそう?」
居心地?なんでそんなこと聞くんだ?そう思いながらそりゃな。君だってそうだろ?10代の身体手に入れたんだし。俺なんかこんなに身体からエネルギー溢れてくる感じ初めてでちょっと過去の自分もったいないことしてたなーって思ってるくらいだぞ。と答える。
「そうだよねー。うーん。そうだよなー。しかし、これだけは覚えておきなよ。あんたは元々おっさんだったってことだ。さっき私の胸に向けた視線、日本ならまず間違いなく犯罪者予備軍だからね。」
ちょっと待て。何を言ってるんだこいつは。確かにその考え方は否定できない。だって俺自身もちょっと思ってたことだから。そりゃ確かに身体は10代に戻ったかもしれない。だけど、どうにも子供に向かって性的な考えを巡らせている気がして罪悪感があるのは認める。しかし、何故こいつにそこまで言われなきゃならないんだ?そこが疑問だった。第一、初対面じゃねーか。段々腹立ってきた。
「ごめん、ごめん。私はアヴェル。ホントは昼間のうちに会う予定だったけど他の予定が立て込んでて。」
あー。修練場でシエルさんが言っていたのはこいつのことだったのか。てか、同じ転生者ならちょっとぐらい見逃してくれてもいいじゃないかと思わないでもないけど、罪悪感がなー。今まで見てきたこういう転生するやつってだいたいが10代とか歳とってても20代前半でヒロインたちともそんな年の差もなかったしなー。ってかいざ自分がその状況に置かれてみるとだいぶヒヨってしまうなー。そんな風に悩む俺にアヴェルは安心した様子で、
「この分なら大丈夫か。あんたヘタレそうだし。」
なんだとーっと怒ろうかと思ったが、怒ってしまったら未成年に手を出したいみたいじゃないないか。うーん。ってかなんでこいつはそんなに怒ってくるんだろう?もしかしてこれはあれか?こいつが俺にとってのメインヒロインなのか?確かに可愛いし、前の世界のことも知ってて、実年齢という表現が正しいかは分からないが同い年ぐらい。これはなんだかんだ言ってありなのではないだろうか。そんなことを考える。ちょっとドキドキしてしまっている自分がいる。出会いは最低。だけど…そんな俺を見ていたアヴェルは少し困った表情で、
「あー、あのさ、あんたゲーム結構知ってるみたいだから例えで言っとくけどさ。私、あんたの攻略対象者じゃないからね。」
えっ?違うの?いや普通に考えてここはそういう場面だろ?
「くそー。こんなことになるって最初から分かってたらなー。」
さっきからどうにも要領の得ない会話が続いている。どうやらこいつは俺がおっさんから転生してきたことを知っている。そして、こいつも年齢は定かではないが俺と同じくらいの歳でこちらに来ている。そこまでは分かったのだが、こいつの言い分が分からない。さっきから、俺がこの世界の10代の子とイチャイチャするのは違法だと言っているのだ。正直、その言い分も分からなくはない。漫画やアニメなんかでは割とポピュラーな転生モノだが、実際に経験してみると罪悪感が半端ない。なんだろうなー、どう説明したらいいんだろう。騙してる感じ?んーうまい例えが思いつかないが流石に10代はなーと俺自身も引いている。しかし、何故それをこいつは気にするかなんだよなー。別に他の奴が何してたって構わない気がするんだが。そんな疑問を投げかけるとアヴェルは俺に説明を始めた。
「いいか、よく聞けよ。私は、私はなー。」
なんだこいつ、目いっぱいに涙を貯めて俺を見てくる。
「前は、男だったんだよ。」
衝撃の告白である。なんでも、転生した際、ちょっと病んでいたらしく、めんどくさいからいっそのこと魔法少女になりたいと言ったらしい。いいじゃないかそれならそれで。別に俺に構う必要なくないか?アヴェルは続ける。
「だからだよ。正気に戻った私の気持ち分かるか?正直、お前が妬ましい。なんで隣で転生を謳歌してる馬鹿を見なきゃいけないんだよ。」
アヴェルは涙を流して訴える。いや、知らんがな。
「お前にこの体と心が一致しない苦しみが分かるか?メチャクチャしんどいんだからな。」
ちょっと待て。その発言はダメじゃないか?さっきから散々俺に10代とイチャイチャするの禁止とか倫理観振りかざしてきてたのに、そういうのになりたいわけじゃないのになってしまった人の苦しみを馬鹿にしてないか?お前はなりたくてなったんだろ?それなのになんて言い草だよ。
「いーや。下手したら俺のがひどいね。だって、向こうは最初からなかったり、あったりだろ?こっちは、最初あったのに、なくなった。なかったのに、あるようになっただ。その差が分かるか?このこみ上げてきた時になんか消化不良なこの感覚、この感覚を!」
分かるわけねーだろ。うーん。そう考えると本当の悩みってなんなんだろ?
「ん?俺みたいなやつの悩みってこと?」
お前以外の人な。ってか今、俺って言わなかったか?さっきまで私って言ってた気がするんだが、
「あーそれは、異世界の自動翻訳がそうさせてるらしいぞ。第一、異世界で日本語って。これは転生した時に自動でかかる魔法らしくて本人の認識によって言葉の受け取り方が変わるらしい。それに自分の言葉も勝手に翻訳されるらしい。」
ふーん。だからってなんで私が俺に変わるんだ?
「いやだからこっちの一人称は全部同じ単語だけど、性別によって俺にも私にも変わるって話。そーだな。流石にこっちの言語までは分からねーから、英語のIみたいなもんって言ったら分かるか?」
あー納得。それで悩み分かるのか?
「まったく話の腰を折ったのお前じゃねーか。俺が思うに周りの理解なんだと思う。お前と話してて思ったんだけど、学校とかで周りにそういうやついたんじゃね?」
俺は記憶を辿る。あー確かに中学の時いたな。別にそうなんだくらいにしか思わなかったし、普通だったな。
「そういうのじゃね?結局、そんな風に別に普通じゃないかって思ってくれる人が周りにいないやつがしんどいんじゃないか?」
あーなんとなく分からなくはないかな。けど、恋愛もしづらいじゃないか?相手に引かれて疎遠になったりとか。
「恋愛って、そりゃ異性でも一緒じゃね?普通にずっと友達で、いいなって思って、思い切って告って、ごめんなさいされてそれ以来なんとなく遊ぶの無くなって疎遠になったりしたことない?」
くそっ。俺はそんな甘酸っぱい体験はしたことない。なんだかアヴェルに負けた気がした。
「あーでも、その後、告られたほうが変な仲間作ったりする可能性あるのか。うーん。あーいう仲間意識はダメだよなー。うーん。」
アヴェルはそう言いながら、ひとしきり悩むと、
「うん。やっぱり理解じゃねーかな。別に男も女も関係なくてこの人はこういうのが好きなのか。ぐらいの理解でさ、それおかしいとか言うやつがダメなんじゃね?」
と締めくくった。だよな。アヴェルは思いっきり自分にブーメランを投げていることに気づいてないみたいだった。俺はそれがたまらなくおかしかった。
「なんだよお前。急に笑い出して。」
そういうアヴェルも笑い出した。多分こいつ悪いやつではないんだろうな。
「んじゃ、俺帰るわ。良かったわ。お前が転生モノの漫画やアニメに染まってて勘違いした奴だったらどうしようとか思ってたけど、大丈夫そうだな。これからよろしくな。」
そう言って、ベッドから立ち上がり、扉まで歩いたところで急にアヴェルは立ち止まり、振り返った。なんだよ、なんかまだ言い足りないことあるのか?
「一つ言っておくが、万が一ここの生徒と何かあってみろ、俺はお前を絶対に許さない。絶対にだ。そして、今日のことを着色して話すことになる。」
どこぞの悪役宜しく笑いながら部屋を出て行った。おい、本気じゃないよな?
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