第7話 俺と実態

「落ち着いたか?」

「ええ、いきなり叫んで悪かったわ」

「いや、大丈夫だ。…おいグレーテ。さっきまで居たもう一人の神子はどこ行った?」

「ああ、マレーンのことっすか?あの子なら他の神子の拠点が珍しいからここら辺探索してくるって言ってたっす」

「お前と言い彼女と言いなんでそんなに自由奔放なんだ。はぁ、それで?グレーテ、カレンがもう神子じゃないってどういうことなんだ?カレンが何かやらかしたから神子じゃなくなるとかそんな話か?」

確かにカレンが神子じゃないならゲームのルールを知らないことと参加者でもないってのは納得できる。が、昨日見た感じ神子ってのはかなり重要な役職のはず、変えるなら何か重大な理由があるはずだ。例えばカレンが禁忌を破ったとか。

「いやいや、そんなことじゃないっすよ。もっと根本的な話っす」

カレンが何かやらかしたわけではないと。かといってカレンの子孫がいたから代替わりってわけでもなさそうだ。じゃ、理由はなんだ?何より分からないのが何故カレン自身が神子じゃなくなるって知らなかったんだ?誰が決めてんのか知らんが本人に通達無く変わるってのはあり得ないだろう。

「そんなに考えなくても言葉の通りっすよ?カレンちゃんは残念ながら神子ではなくなった。だからゲームの事を知らないし参加者でもないっす」

「惚けるなよグレーテ」

「えー…分かったっすよ。分かったっすからそんなに睨まないで下さい。真面目に答えるっす。つってもこれはヒントになっちゃうんであまり答えられないんすけど」

カレンが神子じゃなくなる事が俺にとってのヒントになるってどう言うことだ?カレンがこの世界の異変に関わってるのか?

「…喋れる範囲だけで良い。教えてくれ」

「しょうがないっすねぇ。じゃ特別にってことで、。はいおしまい。僕から言える範囲で結構ギリギリっすから、特大ヒントっすよ!」

「混ざりすぎた?カレン何か身に覚えがないか?」

「…」

「?カレン?どう」

どうしたと言う直前、下を向き目線を会わせていなかったカレンの顔が一気に上を向いた。天井を見つめ未だにこちらに目線を向けないカレンに違和感を覚える。

「おい、カレンどうした?」

「─せぇ」

「おいカレン一体どうし」

!」

こちらを向き怒声を放つ彼女の表情は激しい怒りに染まっていた。

「グレーテ!さっきから聞いてりゃあなた私が混ざりものですって!?はっ!ふざけんのも大概にしなさいよ!!私は私!他の何者でもないわ!っグリム!離しなさい!!」

「離せるわけねぇだろ!」

離したらすぐにでもグレーテに殴りかかりそうなカレンを必死に羽交い締めにして止めるが、どうなってんだよ!お前さっきまで会話を大人しく聞いてただろ!?

「とまぁ、こういうことっすね」

「っおいグレーテ!どういうことかちゃんと説明しろ!」

「ああ、その状態ならもう離しても大丈夫っすよ。あともう少しで」

「っごめんなさいご免なさいごめんなさい!!別に殴ろうとした訳じゃないの!ただ少し気が立ってただけだから、いっぱいいっぱいあやまっていいこにするからいたくしないで!」

暴れなくなったと思ったら急に泣き出したカレンに戸惑い拘束をほどいた。そしたら踞って泣き出した。泣いているカレンの言葉の中には虐待を受けたらしき時の言葉もある。おい、どうなってんだ。神子ってのは大事にされてるんじゃないのかよ!

「おい、おいどうなってんだグレーテ!」

「だから言ったでしょう?

「だからそれがどう言うことかを聞いて」

目線をカレンからグレーテに移し詰め寄ろうとするがすぐに無駄だと悟った。彼女の目が何よりも『これ以上のヒントは与えない』と語っていたからだ。

「っ!おいカレン!しっかりしろ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

一体どうすりゃ良いんだ!



目の前で踞り泣くカレンちゃんとお兄さんのやり取りをぼんやりと見ていた。カレンちゃんを視る感じこのまましばらくは彼女は泣き続けるだろうと感じて、少しだけお兄さんにばれないようにため息をついた。

(これは、ちょっと不味いっすねぇ。一時的とはいえ、これだけ混じってるならもうそんなにゆっくりしている暇は無いのかもしれないっす)

恐らく一昨日辺りはこんなに酷くはなかったと思う。とすれば、だ。昨日何かしらが確実に変わったのならそれはやっぱり

(お兄さんしかないっすねぇ)

お兄さんとの出会いが原因だろう。お兄さんは色んな意味でのキーマンっすねぇ。と、カレンの介抱で忙しくて聞いていないお兄さんをからかってみる。まぁ口に出してないから聞こえないのは当然だが。

(やっぱりこの世界で一番楽しめるのはお兄さんの側っすね!)

各地に散らばり生命を育むという使命があるが気にしない。何故なら私達は生きているから!それに

(使)

ま、どう転んでも僕達は生きることを全力で楽しむだけだ。どうせ残り少ないこの命、楽しんだ者勝ちっすよ!

全然泣き止まないカレンちゃんに今度はお兄さんが泣き出しそうになっている。

(おーおー、お兄さんは大変っすねえ。そんなにゆっくりしててもいいんすか?早く解き明かして選ばないと大変な事になっちゃうっすよー)

悪魔がゆっくり微笑んだ。








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