第6話 俺とゲームとルール
「は?」
目の前に居た少女が走りだしこちらにナイフを突き出してくるのが見える。
「っうお!」
状況がうまく飲み込めず、ほぼ反射神経のみで体を反らしよける。脇辺りが少し痛い。どうやら避けるのがギリギリ過ぎてかすったらしい。チラ見してみると切り裂かれた浴衣の奥に赤い液体が見える。この浴衣用意してもらった奴だし後で謝罪だな。何てことを考えながら目の前の少女を見据える。いきなりすぎてよく見てなかったが、目の前の少女はカレンと容姿が違う…。てことは
「お前神子の一人か」
「あら?その通りだけどどうしてわかったのかしら?」
今まで会ってきた中でカレンと容姿が違うのはグレーテだけだった。グレーテが他の奴らと違う何かしらの特別な要素があるとするなら、神子か神子じゃないか。それが考えられるなかで一番あり得そうな可能性だった。もし仮に、その考えが当たりだったとして、神子の中でもグレーテだけが違うとは考えづらい。会ったことない神子の奴らもカレンと違う容姿をするのなら、目の前にいるこいつがその一人だと思っただけだ。ただ、本当に神子の中でもグレーテが特別な部類に入る可能性も十分あった為、確信して言った訳じゃないが。
「教える義理はねぇな!」
「あら、随分とケチですわね私達のお兄様は」
「カレンもグレーテもそうだが何でお前らは俺のことを兄と呼ぶんだ?別に俺はお前らを知らんぞ」
「言葉通りに受け取ってくださいまし。貴方は私達のお兄様。それが私の口から言える最大のヒントですわ」
「あ?ヒント?なんのヒントだ」
「ちょっとまったっす!マレーン!いきなりとばしすぎっすよ!幾らなんでもお兄さんにルールを説明しないまま襲ったらダメっす!お兄さんは挑戦者なんすから。いや、挑戦者じゃなくても参加者にルールを説明しないのはダメっすよ!」
「分かりました分かりました。分かりましたから目の前であまり叫ばないで貰えませんこと?耳が壊れそうですわ」
俺とナイフを持った少女の間にグレーテが割り込んできて少女に詰め寄っている。目の前の少女に集中しすぎて存在忘れてたな…。部屋の中を見ればカレンもいるし。目の前の少女もどうやら襲ってくる気はもう無いようだし、一旦落ち着こう。少し荒れた息を整えているとカレンが近づいてきた。
「脇大丈夫?」
「ちょっとかすって血が出てるだけだ。傷も深くはないだろうし直ぐに治る。…カレンはグレーテの言うゲームってなんのことか分かるか?」
「私が分かるわけないじゃない。今まで他の神子に会ったことないんだから。他の神子の間でやりとりがあったことに驚いてるわよ。いつ知り合ったのかしら、他の神子に会いに行く時間なんてあるわけがないのに」
そうだよな。カレンの言う通りなら神子は時間の余裕なんてあるはずがない。この世界にどれだけ人口がいるのか分からんが少なくとも大陸を移動する必要がある程には忙しいはずだ。まぁ今頭を悩ませる必要はないだろう。グレーテの発言から考えればその内
「と言うわけでお兄さん!ルール説明っすよ!」
そらきた。
グレーテ
そのゲームで俺は提示された勝利条件を達成できれば俺の勝ち、できなければ神子達の勝ち。んで、そのゲームのルールは主に三つ、
一つ、神子側は俺を攻撃する権利を持っている。しかし、その権利は一人一回まで。その攻撃で殺せなかった神子はこのゲームから脱落する
二つ、俺は脱落した神子に勝利条件に関するヒントを一人一つまで貰うことができる。神子は何をヒントとするか自由に決められる。
三つ、俺は神子に願いを叶えてもらうことでヒントを得る権利を増やすことができる
俺の勝利条件は三つ
一つ、この世界で起きている異変の解明
二つ、この世界で起きている異変の解決
三つ、俺が何者であるかの解明
俺の敗北条件は一つだけ
神子に殺されること
参加するかしないかは置いといて
「このルールは俺不利すぎないか?」
「大丈夫っす!別にお兄さんを無駄に殺したい訳ではないので!詰ませたりはしないっすよ!だってこっちだけが有利なゲームなんてつまんないっすよ。それにお兄さんには選んで貰わないといけなっすから」
「選ぶって何をだ?」
「さぁ?それは言えないっすねぇ」
「こいつ…。っていうか俺は参加するなんて一言も言ってないぞ」
「えー、参加しないんすか。それならこっちは昼夜問わずお兄さんを殺しに行くっすけど」
流石にそれはゴメン被りたいな。殺しに来られても返り討ちにする自信はあるが…。ここは参加した方がいいか。
「分かった。俺も参加する」
「そう来なくっちゃ!」
「だがこのゲームは神子同士で決めたんだろ?さっきのお前の説明からして参加してるのは神子全員みたいだが、カレンは何も知らないってのはどういうことだ?」
「あー、それはっすねぇ」
その時耳の中に飛び込んできたカレンのつんざく様な悲鳴に
「どういうことよ!私はもう神子じゃないって!」
俺は耳を疑った。
この世界が物語だったらどんなによかっただろうと憧れた。
物語は綺麗だった。勇者と姫の愛の物語、勇者やその仲間たちとの美しい友情、そして何より世界を救う勇者に何よりも憧れた。
けれどこの世界には勇者に恋し思い続ける姫も、勇者を信じどこまで付いてきてくれる仲間も、全てを救い世界を救う勇者もこの世界には居なかった。
いや、そんなものは物語にすら居なかった。僕が憧れた勇者は全てを救ってなんかいなくて、ただ自分がより大切なものを選んで救っていただけだった。
けれど愚かな僕は憧れたんだ。みんなを救った勇者に。自分もあんな風になれたらって。だから僕は願ったんだ。『僕を勇者にして下さい』って。
さぁ悲劇の幕開けだ。
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