第2話 俺と神子

カレンに着いていってたどり着いたそこは、町の中央にあるでかい広場だった。

そして当然のごとく、全員が全く同じ顔だった。道中カレンから聞いていたが、改めてこの光景を見ると言っちゃ悪いが気持ち悪いな。

「カレン様。ようこそおいでなさいました」

「こんにちは、町長。久しぶり…というわけでもないわね」

カレンの目の前にいる人がどうやらこの町の町長らしい。カレン本人や、周りで慌ただしく動いている人達と比べてみても全然見分けがつかない。どうやって見分けてんだ?

「だんだん『祈り』の間隔が短くなっていってる。この土地も去年完璧に注いだはずなのに、もうエネルギーが空っぽね」

「ええ、だんだん作物の育ちが悪くなっています。まだまだ備蓄は残っており、向こう十数年は安泰でしょうが、そこから先は分かりません」

「そう…」

なにやら隣で話が繰り広げられているが、全く内容が分からんのでスルーしておく。

「グリムさん、お茶をどうぞ」

周りを見渡していたらお茶を出された。カレン、は町長と話ながらどっか行ったから違うとして。他に俺の名前を知っている人は…

「あー、えっとありがとうございます。えーっとテトラさんですか?」

「あ、はい。テトラであってますよ。もしかして見分けがつかないですか?」

「あー、すいませんつかないです」

「いえいえ、大丈夫です。神子みこ様のお一人もたまに間違えられるので」

「巫女?」

「その巫女という意味もあるけど、神の子どもと書いての神子ね」

「うおっ!カレン居たのか。町長との話は終わったのか?」

「ええ、大体の話は終わったわ。それでグリムお兄さん」

「会ったときも思ったがお兄さんはつけなくていい」

「じゃ、グリム。町長とあなたの泊まる場所について話してたんだけど、この町に居るか私と暮らすかどっちがいい?」

は?何だその二択。カレンについていくかカレンとよく似たどころじゃない全く見分けのつかない人達に囲まれるか。…うん、悩む必要はないな。

「カレンの家にお邪魔する方向で頼む」

「わかったわ」

「それはそれとして、神子ってのはなんなんだ?さっき言ってた『祈り』ってのと関係あるのか?」

「神子様は私達の願いを神様まで届けて下さる存在なのです。本来この世界では作物は全くと言っていいほど育ちません。そこで私達は神子様に願いを届け、神子様が神様に『祈る』ことで作物を育てることができるようになるのです」

「説明ありがとテトラ。この世界には私を含め六人の神子がいるわ。と言っても私は他の神子との面識はないけれど」

「ん?テトラさんがさっき他の神子に会ったことがあるみたいなことを言ってたが、カレンはあったことないのか?」

「ないわね。神子は全員で六人いるけれど、逆を言ってしまえば六人でこの世界全域をカバーしないといけないの。私だってここら辺だけじゃなくて時には大陸を移動することもある。その時の私の仕事を他の神子にやってもらうから、他の神子が来るときは決まって私が居ない時ってわけ」

どうやら俺が思っているよりは神子と言う存在は引っ張りだこのようだ。

そんな話をしていると、一人が近づいてきた。

「カレン様。準備が整いました。テトラ、貴女も列に並びなさい」

「分かったわ」

「はい、町長様」

「グリム、ここで待っていてちょうだい」

「ああ、分かった」

その返事を聞くと、カレンは町長らしき人物に連れられ広場の中央に鎮座する人一人乗れるスペースが作られた御輿の上に座った。すると町の人々は御輿を中心に半円を描くように座って祈り始めた。祈っている人々の奥からやけに慎ましい格好をした人が出てくる。

「ああ、そう。今日はあなたなのね。何か、言い残すことは?」

「いいえ、ありません。そんなものはとっくに。大丈夫です。ほんの少しだけ、先にいくだけですから」

その返事を聞いた後、カレンは少しの間目を閉じ、そして開いた。

「そう。ではこれより儀式を始めます」

そうカレンが言うと、場の空気が少し重くなる。

「貴方達の『願い』を言いなさい」

「はい。私達は生きていたいのです。死にたくありません。飢えたくありません。病にかかりたくありません。私達の幸せな日常を犯すものを許したくありません。ですが、その全てを叶えてもらおうとは思いません。私達は明日が欲しいのです。家族と笑って暮らせる明日が。だからどうか私達の土地を少しでも豊かにしてください。明日にでも私達の作物がうんと取れたらそれだけで私達は幸せなのです。ただ、少しだけ欲を言うのなら、まだ家族と過ごしていたい人生でした」

カレンは静かに聞き、願いを言う言葉だけが聞こえる。御輿に乗ったカレンを見上げながら行われるそれはまるで神への懺悔ざんげのようだった。

「…あなた達の願いは私に無事届けられました。明日にでもあなた達の作物は立派に育つでしょう」

「ええ、それならよかった。それだけでもありがたいのです」

そう言って笑うと、倒れてしまった。

「っおい!大丈夫か!?」

「グリム下がって」

慌てて駆け寄るところでカレンに止められた。

「町長、後はよろしくお願いします」

「はい、この度はお越しいただき誠にありがとうございました」

「いいわよ。それが、私の仕事だから」

そんな会話をした後、町長は町の人を何人か連れてどこかへ行ってしまった。

「カレン、あの人は大丈夫なのか?いきなり倒れるから何かと思ったが」

「あの人は、死んだわよ」

「は?」

「願いを私達神子に届けられる権利は一人につき五回まで、その五回目を迎えたら人は死ぬの」

「なんだよそれ…」

「それ程までに人の願いというのは重いものなのよ。そしてそれを叶えるのが私達の仕事。仕方のないことなのよ」

そういうだけ言ってカレンは歩き始めてしまった。カレンに付いていくが何か胸のモヤモヤが取れない。

カレンが住む家に着くまで、俺たちの間には会話はなかった。


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