第1話 俺と彼女
「私はカレン。はじめましてお兄さん。とりあえず、私とおしゃべりしましょ?」
俺の目の前でそう言い放った彼女はとても良い眩しい笑顔だった。心なしか彼女の顔辺りが本当に眩しい気がする。きっと彼女は女神の類いで、ここは天界なんだろう。そう考えるとなんだか安心して意識が遠退いていく気がする。
「ああ、寝ないで寝ないで。起きてってばお兄さん!」
はて、この女神様はいったい何を言っているのだろうか。俺は別に眠ってなどいないが。それとは別に、穏やかな気持ちからなんだかイライラしてきたな。
「だーかーらー。寝ないでってば!っていうか何でこんな道路のど真中でそんな穏やかな顔をして寝れるの!?」
そう言われれば心なしか背中が何か固いものにぶつかってて痛い。まて、痛い?ここは天界で、痛みなど無い筈では?
「こうなったら…」
えいっ、と掛け声が聞こえると同時に俺の腹に襲いかかってくる謎の衝撃。突然襲いかかってくるあまりの衝撃に蹲る。いきなりすぎて腹から何かが飛び出してくると思った。
今の衝撃で完全に俺の目は覚めたが、状況が分からない。衝撃が抜け切ってから立ち上がり、状況を確認する為に辺りを見渡す。目にはいったのは雲の上にある天界や女神様、等ではなく。それなりにしっかりとした道路と、目の前の何やら疲れている少女だけだった。どうやら光輝いているのは彼女自身ではなく、単純に太陽の光で眩しいだけだった。
「はぁ、やっと起きた。改めておはようお兄さん」
ふむ、状況を整理しよう。俺が居るのは道路で、周りにいるのは目の前にいる赤い眼でジト目気味にこちらを睨む赤い髪をなびかせた俺より一回り小さい少女のみ。
つまり、俺は道路で寝て、この少女に起きろと言われても起きず、最終的にはどつかれて起こされた…と。傍目から見ると完全にヤバい状況にあったと理解した瞬間俺は頭を抱えて
……恥ずかしさで今すぐ全力でこの場から逃げ出したい…。
「お兄さんも起きたことだし。寝ぼけてたみたいで聞こえてなかったかもだから、改めて自己紹介。私はカレン。あなたの名前は?」
目の前で蹲ったままの俺を無視してカレンと名乗った少女は話を続ける。自分への精神的ダメージが大きいからもう少しだけ待ってもらいたいが、この少女は早く言えと圧をかけてくる。どうやらダメなようなので、諦めて立ち上がり名乗った。
「俺の名前はグリムだ。どうやら、苦労をかけたようですまなかった」
「ええ、本当よ。声をかけて起きたと思ったら二度寝しようとしちゃうし。道路の上で寝てるどころか二度寝しようとする人なんて初めて見たわよ」
「あまりそこをつかないで欲しいんだが。なんでそんな端から見たらやばそうな奴に声なんか掛けたんだ?普通だったら関わりたくないとか思うもんじゃないのか?」
「それはあなたが」
「あら?こんなところに居たんですかカレン様。こんなところでどうなさい…あの、こちらの方は?」
カレンが何か言いかけている最中にこちらに向かって声がかかった。どうやらカレンを探していたらしい。やけに聞き覚えのある、というか今さっきまでしゃべっていたような声で。そちらの方向を見てみると、俺の横にいるカレンの姿があった。………???
「ああ、ごめんなさい。途中でこの人が倒れているのを見かけてしまって。少し話し込んでいたの。そうね、時間も少し過ぎてしまったことだし。向かいながらお話ししましょうグリムお兄さん」
「ああ、いやあの?ええとグリムと申します初めまして?」
「どうも初めまして、テトラと申します。カレン様は取り込み中のようですし、ゆっくりなさっていて大丈夫です。町長には私から伝えておきますので」
「あらそう?じゃあお言葉に甘えてゆっくり向かうわ」
「はい。では失礼します」
そう言ってテトラと名乗った人は走っていった。頭が混乱している内に会話は終わって何がなんだか全くわからない。
「君に姉妹が居たんだな」
「私に姉妹は居ないわよ?それより名乗ったんだからちゃんとカレンって呼んでよ」
それよりってなんだ、それよりって。こっちはさっきから頭がパンクしそうなのに。それと姉妹が居ない?他人であんなに似ているのはあり得ないだろう。
「は?だって今の人は君…カレンにそっくりというかほぼカレンだっただろう?」
「テトラはこの町に住んでる町長の補佐役の一人ね。今のでわかったと思うけど、あなたに声をかけたのはあなたが私じゃないからよ。そんなことより思ったより時間が過ぎてるから、これ以上ここに留まると不味いわね。移動するわよ」
そう言ってカレンは一人で歩き始めてしまった。この世界のことを知らないし道なんてわからない以上、はぐれるわけにはいかないだろう。
「もうちょっとマシな説明をくれ。じゃなきゃ頭の整理がつく時間をくれよ…」
そう独り言がこぼれるぐらいには許して欲しい。どうやらこの世界はまともじゃないらしい。
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