願った先の世界

@jackl

プロローグ

「   」は子どもだった。

「   」は子供故に、どこまでも無邪気でどこまでも純粋だった。

だからこそ、「   」は罪を犯したのだ。

願うことは罪なのか、願うことは悪なのか。答えなんてものはない。ただ、叶えてはいけない願いというのは確かにこの世には存在するものだ。

ただ、ひとつ確実なことがあるとするならば、願いを叶えた「   」は間違いを犯した

大罪人何も知らない子どもということだけだ。


この世界は気持ち悪い。

それが私が生きてきて、いつしか持ち始めたこの世界に対する印象だった。

いつからそんなことを思い始めたのかは忘れて思い出せない。思い出せないが、そんな事はどうでもいい。私がこの世界を嫌うのに最近も昔もない。だって嫌いな理由なんてひとつしかないもの。

この世界には

いや、正確に言うのならば私達しかいない。

私は私から産まれて、私に育てられ、私と一緒に育ってきた。

どこを見渡しても私で視界が埋め尽くされる。

誰を見ても私の体、私の声でしゃべる人達。どうにも気持ちが悪い。でも周りの人達はとても善い人達だ。お腹が減っていれば食べ物を分けてくれたり、何か悩みごとがあれば親身になって聞いてくれたり、まるで自分のことのように一緒に悩んでくれる。善い人達だ、善い人達だけどやっぱりどこか気持ちが悪い。

気持ち悪さがふとした瞬間私を襲うんだ。

この人はこんな性格だったけ、この人はこんなに怒らない人だったけ、この人はこんなに笑う人だったけ。いつも話しかけてくる人達にどうにも違和感を覚える。いいや、この人はこんな性格だった。この人はこんなに怒らない人だった。この人はこんなに笑う人だった。そう一人で納得していても、一緒に歩いている時、話している時、笑っている顔を見ている時、違和感を感じてしまう。みんな変わってないはずなのに、どうしても私の中の皆と

それがどうしようもなくきもちわるい。

私は私でなくなる瞬間がある。

例えば一人でいるとき、皆でいる時、誰かと喋っている時、歩いている時。

あれがしたい、これがほしい、おなかがへった、働きたい、休みたい、おとなになりたい、子どもになりたい。もっともっと、自分から勝手に何かが溢れてくる。

私が私でなくなる時、私はどうしようもなく私が嫌いだ。


さて、長々と独り言をしているけれど、そろそろ現実を見ろ私。

道路の道端で仰向けに寝ている人。この人道なんかで寝てて痛くないんだろうかとか、色々気になるけれど私が驚いたのはそんなことじゃなかった。

目の前にいるのは私ではなかった。

私が持っていない高い身長、私が持っていない筋肉質な体、私が持っていない黒い髪の毛。私は女の子だけれど、こういう人のことを男の人というのだろう。

私がこの世界で始めてみる、私じゃない人。

なんだか眠たそうに目を開けるこの人は、私の世界を変えてくれそうな、そんな予感がする不思議な人だった。

覗き込むようにお兄さんの顔を見る私は、その綺麗な黒い瞳にどう写るだろう?

どんな顔をしているだろう?楽しそうな顔?興奮している顔?きっと両方だ。

「おはよう、お兄さん」

「君は…?」

お兄さんが投げ掛けてくる問いに、私は両頬が更につり上がっていく感覚を感じながら答える。

「私はカレン。はじめましてお兄さん。とりあえず、私とおしゃべりしましょ?」

あなたの世界を知りたいな。




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