第3話 トイレの花子さん!?

 旧校舎の入り口にはドアを開けた痕跡があった。

 俺がドアに触れようとすると、ピリッと電流のようなものが走る。

 これは―――!

 明らかに感じる妖気。建物を包み込むように結界が張られているようだ。

 とはいえ、この結界はセンサーのようなものであって、外部からの侵入を防ぐために張られたものではなさそうだ。

 俺はそっとドアを開けて、旧校舎に入り込む。

 今日は金曜日。

 あれ? そういえば、犬神先生がすすり泣く呻き声を聞いたのも、金曜日じゃなかったか?

 どうやら、この霊的なものが行動を起こすのは金曜日のようらしい。

 旧校舎はあまり利用されることがなく、電気もすでに止められており、カーテンもかけられていることから、昼間でも暗い。

 正直言うと、夜の様な暗さを感じるほどだ。

 俺は足音を忍ばせつつ、3階まで上がっていく。

 すでに通いなれた場所のように俺はその場所に向かう。

 3階にある女子トイレ。

 きっと、ここだ。さっきの女子生徒が誘導されたのはここに違いない。

 とはいえ、さっきの女子生徒はどこかで見たことがあるような気がするんだが…。

 そんなこんななことを考えていたところ、女子トイレ前まで到着した。


「さて、悪趣味ではないが、聞き耳をたてさせていただきますよ」


 俺はそっと女子トイレのドアに耳を宛がう。

 中からは…呻くような声が聞こえる。


『……はぁ……ぁあぁ……止めて……』


 さっきの女子生徒か!

 明らかに攻撃を受けている? トイレの中からはますます強い妖気を感じる。

 ドアから黒色の揺らぎが漏れ出てきている。

 さすがにこのまま放っておくわけにもいかない。

 そうっとドアを開け、入る。

 薄暗いトイレには4つのドアがあった。

 4つ!?

 前までは3つだったろうが!

 そうか。金曜日限定で4つ目のトイレが出現して、そこからトイレの花子さんが現れるということか…。

 そして、女子生徒を喰らっているのか?

 いや、でも待てよ。

 学園長の話では、女子生徒が行方不明になっているという話は聞いていない。

 となると、いったい、何が起こっているというんだ?

 俺は妖魔撃退用伸縮式警棒を握りしめ、4つ目のドアに近づく。

 すごい妖気と瘴気…普通の人間がこれを浴びれば、間違いなく理性を失うだろう…。

 そもそも精神的な部分で人間というものが破壊されるかもしれない。

 俺は勢いよく、ドアを開け放つ。

 俺は目に飛び込んできた光景に息を飲んだ。

 制服姿の女子生徒に身体には禍々しい黒い棘のような紐で巻きついている。

 身体が締め付けられるように拘束されて、宙に浮いている。


「……あぁ……あぅん……」


 なるほど、この声が呻き声に聞こえていたのか…。

 て、やっぱり教師はきちんとトイレの中を見るべきだったんじゃないのか!?

 これって相当一大事だろうが!


『……何で…見てるの……?』


 曇った声が聞こえる。どうやら、この声がこの女子生徒を拘束している「本体」か!?


「いますぐ放せ…」

『ふふふ…断る……。この女もこれを望んで毎週、ここにきているのだからな…』

「は?」


 今、「本体」はこの女子生徒がここにきているのは、本人の意思といった。

 マジで? 明らかに苦悶の表情を浮かべているのにか?

 顔は赤く火照り始め、息が上がり始めている。

 て、あれ? これ、上気し始めてるのか?

 おいおい! 妖魔に拘束されて何で喜んでるんだよ!?


「……いやぁ…み、見られたくない……。お願い、見ないでぇ……」


 苦悶の表情を浮かべながら、甘い吐息を漏らし始めている女子生徒が俺の方を見ながら、懇願してくる。

 いや、見るなと言われても、救うためにはどうするかを思案しているところなんだから見ているのは許してほしい…。

 て、「本体」どれ!?


『私を探しているのか? 私は見つけられないぞ…。そもそも、今、コイツに憑依しているからな…』

「いや、それズル過ぎるだろ!」

『ズルい? なぜ、我々、妖魔が人間ごときと対応な立場で接しなくてはならない? 私は、こうやってコイツの精気を吸収しているところなんだ…。放っておいてくれれば、この女に危害を与えずに解放してやる』

「精気を吸ってる時点で、アウトだろうが、よ!」


 俺は、伸縮式警棒を振り回し、女子生徒の周囲に絡みつかれている蜘蛛の巣のようなものを切り落とす。

 女子生徒はぐらりとバランスを崩し、落ちそうになる。

 俺は彼女を落ちないように受け止めて、廊下に連れ出す。

 トイレの花子さんが本体なのだとすれば、まずは「本体」がどこか分からないが、拠点から引き離すのは大事なことだ。

 そして、顔を覗き込んで、俺は気づいた。

 この人、生徒会長の白雪あねさじゃねーか―――!

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