第6話 ミルフィユベルンの捜索
博物館巡りが終わり、少し遅めのランチ時間。学生クラスと研究生クラスと駆け出しクラスの生徒がテーブルに並ぶ。あたしも空いてる席を探していると、トゥルエノが手を振った。
「ルーチェ! こっちおいで!」
「あ……大丈夫?」
「うん! 一緒に食べよう!」
「……ありがとう。お邪魔しまーす」
トゥルエノと、トゥルエノの仲良しグループのクラスメイトに囲まれる。仲悪いわけじゃないけど、ちょっと新鮮。食事をする前にマリア先生が部屋の先頭に立った。
「皆さん、早朝からお疲れ様です。この後はクラス毎の課題に取り組んでもらいます。まずは学生クラスから」
マリア先生が杖を振ると、文字が空中に現れ、学生クラスの方へと流れた。街を宣伝する魔法。
「この魔女の街は観光地であり、繁華街です。学生クラスの皆さんは、もっと遊びに来る人が増えるように、街を宣伝するための魔法を考えてください」
再びマリア先生が杖を振るとあたし達の方に文字が流れてきた。観光客に見せる魔法。
「もし皆さんがこの地に住む方々から、このような依頼が来た時どんな魔法を見せて盛り上げてくれるでしょうか? 二人一組。発表は明日。素晴らしい魔法をお願いします」
文字が駆け出しクラスに流れていく。実践。
「即興で街が盛り上がる魔法を考えてもらいます。ランチを終え次第、商店街に移動するので、そのつもりで」
(流石駆け出しクラス。すげー)
「それでは皆さん、お食事を頂きましょう」
(はあ。お腹空いた)
お腹が鳴る前に食事にありつく。あー。胃が満たされるー。
(あれ?)
「トゥルエノ。手袋外さないの?」
「っ」
「ルーチェ、トゥルエノは日焼けが怖いんだって」
「日焼け? 建物内なのに?」
「……ほら、食事してると手も汚れちゃうから」
トゥルエノが微笑んで華麗にナイフとフォークを使ってみせる。それを見て、女子は口を閉ざす。お嬢様オーラが半端ない!
(そうか……。トゥルエノがそう言うなら……そうなのか……)
「そんなことよりも、ルーチェ、課題どうしよっか!」
「あー」
「この後の自由時間って、街中を歩いてヒントを得なさいってことだよね? 皆はどこに行く?」
「時計台とかー?」
「とりあえず街並み見るかなー」
「ルーチェ、どこ行く?」
「(……そっか。確かに知らない街にきて外れに行こうっていう人は少ないよな。じゃあ、あそこかな。……ここでは言わない方がいいな)とりあえずこの後見て回ろう?」
「うん」
食事を済ませた後、皆がヒントを得るためにホテルから出ていく。あ、クレイジー君だ。手を振ると、クレイジーも笑顔で手を振り返した。課題がんばれー。
「ルーチェ、どこから行く?」
「トゥルエノは行きたいところある?」
「観光名所には行きたいかな。時計台とか!」
「うん。じゃあ……そこから回ってこう?」
観光バスに乗って街を移動していく。各名所を回っていき、写真を撮ったり、どういうものが盛んなのかを調べていく。こういう地道な下調べが大事だってミランダ様も言ってた。時代によって流行りは違うから。でもあたしが住んでた頃と根本は変わってない。港町。船。湖。魚。自然。山。集中的に、やっぱり水の方をヤミー魔術学校の生徒達が歩いてる。ならば。
「トゥルエノ、行きたいところがあるんだけど」
「うん! どこどこ?」
「ここ」
しおりに挟まれた地図の一箇所に指を差すと、トゥルエノがきょとんとした。
「森?」
「東の森。通称、世界で二番目に意地悪な森」
「どういうこと?」
「この森生きてるの」
地図には名前が載ってない。載るわけない。隠れ名所だもん。
「ちょっと怖そう」
「機嫌良ければ大丈夫だよ」
「森に機嫌なんてあるの?」
「あるよ。東の森は生きてるから」
「……ルーチェは行ったことあるの?」
「うん。昔ちょっと行ったことあって」
毎日のように通ってたから。
「久しぶりに行ってみたくて。……いい?」
「……うん。ルーチェが言うなら行ってみたい!」
「……ありがとう。じゃあ……」
バスに乗り込む。
「行こう!」
「うん!」
トゥルエノもバスに乗り、街並みを見ながら山へとやってくる。東の森。バスを下りて、しばらく歩くと見えてくる。最初は不気味に見える森。でも、入ってみたらそんなことない。むしろ――いや、トゥルエノも入ったらきっとわかってくれるはず。
(あれ)
あたし達だけかと思ったら、既に一人森の前に立っていた。金髪の女の子。ヤミー魔術学校の制服を着てるから同じくヒントを探しに来たのだろう。
(先越されたか。ちょっと悔しい)
「ルーチェ、これ中に入って大丈夫かな?」
「うん。平気。入ろう」
「えっ! あのっ、もしかしてこの中に入ります!?」
金髪の女の子が振り返り、あたし達に駆け寄ってきた。
「あの、森の中に入った友達がいつまで経っても戻ってこなくって、もしかしたら迷ってるかもしれないんですけど、入れ違いで戻ってきても嫌だし、動けないでいたんですけど……」
困った顔の青い目があたし達を見る。
「ヤミー魔術学校の方ですか?」
「はい」
トゥルエノが笑顔で答えた。
「研究生クラスです。あなたは?」
「学生クラスです。今年入学しました。モーラです」
「モーラ。私はトゥルエノ。こっちはルーチェ。念の為チャットだけ教えてもらえる?」
「もちろんです! ああ、良かった! 戻ってこない子はミルフィユベルンって言うんですけど、名前が長いから、私はミルフィーって呼んでるの。本人にもそれで通じます!」
「チャットは繋がらないの?」
「全く既読がつかなくて! 多分、中で迷子になってるか、そうでなければ魔力分子の計算で大忙しなんだと思います! あの子、ちょっと変わった子で、魔力分子の計算が大好きなの。魔力の満ちてる場所があるって言って入っていったけど、もう一時間も戻ってきてないから……心配で!」
「わかった。ちょっと見てみるね。えっと……特徴はある? 髪型とか」
「髪は
「ありがとう。もし戻ってきたら連絡してくれる?」
「はい! ご迷惑おかけします! よろしくお願いします!」
「ルーチェ、ちょっと行ってみよう」
「うん」
一人でこの森に入るなんてすごいな。あたしは一度森を見上げた。
(……久しぶりだね)
胸の中で挨拶してから、森の中へと入っていった。
(*'ω'*)
初めて読んだ活字の本。オズの魔法使い。
異世界から現れた女の子が東の森に落ちて、二番目に意地悪な魔女を踏みつけて殺してしまう。家に帰るために女の子はその世界で冒険することになる。
まさに東の方向にそびえ立つ東の森。嫌なことがあるとここに隠れてた。だから夜になる前にお姉ちゃんが必ず迎えに来た。
「ルーチェ、帰ろう」
「うん」
地元の人であれば誰でも入れるだろう。でも、まさか宿泊学習生が入るなんて予想外だ。
「ミルフィーちゃーん!」
トゥルエノが叫んでみる。声だけが木霊する。
「ルーチェ、もう少し奥まで行ってみる?」
「うん。そうしよう。心配だし」
「目印つけておいた方がいいかな?」
「目印つけても外されるよ」
「え、誰に?」
「森に」
トゥルエノがきょとんとした。あたしは瞬きをした。
急に暗くなった。
トゥルエノがはっとした。あたしは目を閉じた。
「大丈夫だよ。こういう森だから」
「な、何が起きてるの?」
「悪戯だよ。人を怖がらせるのが好きなの」
あたしは杖を振り、灯りをともした。
「帰り道は大丈夫。帰してって思ったら帰してくれるから」
「そうなの?」
「奥行ってみよう」
「あ、ま、待って。ルーチェ」
トゥルエノがあたしのカーディガンを握った。
「ルーチェ、この森によく来るの?」
「いた頃はね。最初は立入禁止だったんだけど、あたしが3歳くらいの時に開放されたんだって」
「え、ってことは3歳の時に来たの?」
「……いや」
森に風が吹く。
「地元なんだよね」
「……え、地元? ルーチェの?」
「その、……この街にあまり良い思い出がなくて、だから実家にも4年近く帰ってなかったんだけど」
一本道を進む。
「いた頃は、よく来てた。お、おーち込んだ時とか、気分落ちつ、落ち着くから、ここで一人で泣いてたりした」
「……そっか」
トゥルエノが足元を見た。
「……ちょっと、わかる」
「え?」
「私はたまに実家、帰ってるけど、でも、……本当はあまり帰りたくないんだ。お父さんもお母さんも好きだけど、二人の前で正直になれない私がいたりして、ちょっと、辛くなる時があるから」
「……家族仲悪いの?」
「ううん。仲良しだよ」
「そっか。それはいいね」
「でも、……仲が良いからと言って、何でもかんでも家族に言えるかっていうのは、また違う話でしょ?」
「……トゥルエノ、言えないことあるの?」
「人間、誰だって秘密の一つや二つあるでしょ。ルーチェにだって」
「……まあ、……そうだね」
「ね、ルーチェ。あの、話は変わるんだけど……ダンスコンテストに参加してた人いるじゃない。緑の髪の」
「あ、クレイジー君?」
「あの人って……彼氏?」
「え? まさか。友達だよ」
「え? そうなの?」
「うん。偶然仲良くなって、ダンスコンテストに誘ってくれたの。良い子だよ」
「あ、そうだったんだ。や、違うの。あの、恋人って憧れるなって思ってて……、もしカップルなら、なりそめ聞きたかったなって思っただけなの」
「トゥルエノいないの?」
「うん」
「でも……週に7回は告白されてるよね?」
「知らない人と付き合おうとは思わないよ」
「へー……」
「人を好きになるって素敵なことだと思う。歩いてるカップルとか見てると、可愛いなって思って見ちゃうの」
(トゥルエノは優しいなー)
「恋って憧れる。私は……」
あたしは気がついた。
「好きになっても、告白なんて出来ないから」
――トゥルエノがきょとんとした。あたしは杖を向ける。奥に何かいる。目を凝らしてみる。何かが近付く音が聞こえる。トゥルエノが眉をひそめた。あたしはじっと見る。トゥルエノがはっとした。あたしの手を掴んだ。
「ルーチェ!」
「わっ!」
引っ張られて、強制的に後ろに下がる。しかし、その瞬間前から狼が飛びかかってきた。トゥルエノが杖を構えた。あたしも立ち上がり、杖を構える。
(狼か! びっくりした! とりあえず魔法で落ち着かせて……)
「ルーチェ、なんか……」
「え?」
「あの狼、様子がおかしくない?」
トゥルエノに言われて狼を今一度よく見てみる。目玉を上に揺らした狼が口を半分開かせ、そこからヨダレを垂らしている。体が痙攣し、それでもあたし達に向かって走り出した。
「きゃあ!」
「うわっ!」
トゥルエノとあたしが左右に離れると、その間を狼が突っ切ってきた。木に頭をぶつける。しかしあたし達に振り返り、強く吠えた。わおーん!
「ルーチェ! この森の狼って、ああいうタイプなの!?」
「違う!」
「じゃあ、やっぱりおかしいんだね!」
二人で杖を構える。
「一回気絶してもらおう!」
「賛成!」
狼が遠吠えをし、あたしにめがけて走ってきた。あたしは呪文を唱える。
「突風よ! 現れ流れて吹き荒れろ!」
突風が吹いて狼の動きを止めるが、狼が風に逆らい走ってきた。慌てて避ければ、狼が突っ込んで木にぶつかり、振り返り、今度はトゥルエノに向かって走ってくる。危ない! そう思った直後――トゥルエノが手袋を脱いだ。
(え?)
「雷よ!」
その手で直接杖を握ったトゥルエノが唱えた。
「落雷となりて叩きつけ!」
トゥルエノの体から魔力が電流として流れ、空に向かって登っていき、音を立てて落雷が狼に落ちた。狼が華麗に避けるが――その頭を、トゥルエノが直接触れた――瞬間――爆発的な電流の量が狼に流れた。あたしは目を丸くさせ、狼は黒こげになり、トゥルエノが手を離すと、弱々しくその場に倒れた。トゥルエノが再び手袋をつけ、その手で狼に触れてみる。狼は白目を剥いて気絶している。
「あっ、大丈夫そう」
トゥルエノが杖を握り、狼に向けた。
「傷よ癒えよ」
癒やしの光に包まれ、狼の傷が癒えていく。あたしは……慎重に近づく。
「これで良し」
「……トゥルエノ……今のって……」
「……皆には内緒ね?」
トゥルエノが手袋をした手を合わせる。
「うちの一家全員……静電気人間で……」
「今の静電気!?」
「そうなの。……だから……一層のこと……電気魔法極めちゃおうって思って……」
「ってことは……電気魔法専攻!?」
「そう。よく言われるの。意外だって」
(あんな痛い魔法専攻してる人、まじでいるんだ……)
「この手袋は、静電気を吸い取ってくれるんだ。お父さんが開発してくれたの。滅多に外さないんだけど……今のは流石に危なかったら」
(まじか。だからずっと手袋してたんだ……)
ってことは、手袋外して握手したらあのとんでもない静電気を食らうことになるってこと?
(……美しい薔薇には棘がある……。なるほど……)
「よしよし。良い子良い子」
トゥルエノが狼をなでると、狼が唸り声を上げた。
「トゥルエノ、あ、あ、危ないかも」
「でも……なんか、具合悪そう……」
トゥルエノが狼の背中を擦ると、狼の目がぱっと開き――急に体を痙攣させ、口から何かを吐いた。
「ひゃっ!」
「わっ!」
狼があたし達を置いて逃げるように走っていった。あたしとトゥルエノは顔を見合わせ、振り返る。そこには狼から吐き出された『石』が転がっていた。
「もしかして……これ飲んでお腹痛くしちゃってたのかな?」
「あー……間違いないね。(動物はなんでも食べるからな)」
「可哀想に。吐き出せて良かった」
トゥルエノとあたしはもう一度顔を見合わせると、急にトゥルエノが吹き出した。ぶふっ!
「え?」
「ふふっ! いや、なんか、ふふっ! 私達、すごくかっこよかったなって思って!」
トゥルエノが立ち上がった。
「ルーチェ、風魔法専攻だっけ?」
「ううん。光魔法」
「あ、そうなんだ。光魔法。……そっかー。人気あるよね」
「うん。でも好きなんだよね。綺麗だから」
「うん。すごく良いと思う。ルーチェって名前も『光』って意味だもんね」
「……ん? あたしの名前が?」
「あれ? 知らない? 外国の言葉で、光とか、輝くって意味なんだよ」
「……へー……」
「さてと、話してたら日が暮れちゃうね。早くミルフィーちゃんを見つけないと」
トゥルエノが言うと、森に風が吹いた。ふわふわ吹いた風を避けるように草が左右に移動し、道を開けた。トゥルエノが目を見開き、あたしを見た。
「……こういう森だから」
「すごい。魔法の森みたい」
開かれた道にあたしとトゥルエノが進み始める。一本道をしばらく歩いていくと、やがて小さな滝と川がある場所に辿り着いた。そこに、ヤミー魔術学校の制服を着た13歳くらいの女の子がしゃがんでいた。
あたしとトゥルエノが近付くと、女の子は持ってた虫眼鏡を顔の前に寄せ、立ち上がった。
「魔力分子が……一つ一つに……すげ……」
「ミルフィーちゃん?」
「ひぇっ!?」
トゥルエノが呼ぶと、女の子が振り返った。特徴の通りの黒栗色の髪の毛に、紫の瞳。
(……あれ? この子、どこかで見たことあるような……。学校ですれ違ったかな?)
「初めまして。私はトゥルエノで、こっちはルーチェ。モーラに頼まれてあなたを探しにきたの」
「え? モーラ?」
そこではっとした女の子がポケットからスマートフォンを取り出した。……チャットの通知がいっぱい!
「うわ、それは、あっ、あの、すんません! お手数おかけして!」
「無事で良かった。……ここで何してたの?」
「あの、すげ、あー、えっと、すごい……あの、植物に、新鮮な魔力分子がついてたもんで、観察してたんす」
女の子は虫眼鏡を手提げバッグに入れて、頭を下げた。
「ミルフィユベルンで、あー、ありんす。すんません。えっと……あの……クソド田舎から来たばっかで……敬語慣れてないもんで。あー、ヤミー魔術学校の方っすか?」
「はい。研究生クラスです」
「んちゃ。そうっしたか。先輩だべさ。ご心配おかけしました」
「忘れ物がなければ外に出ようと思うんだけど、大丈夫?」
「あー……もうこんな時間なんすね。森に入ると時間間隔が鈍っていけね。ええ。もう少し見たいんすけど、……あ! ちょっと待った!」
ミルフィーが慌てて水筒に入ってた水を地面に捨て、川の水を中に入れた。しっかりと蓋をする。
「んちゃ! これで大丈夫っす!」
「じゃあ、ルーチェ、戻ろっか」
「うん」
帰り道を教えて下さいと頭で思えば、再び風が吹いて森が帰りの道を開いてくれる。三人で進んでいくと、三分もしないうちに森の入り口に辿り着いた。モーラが目を大きく開く。
「あ! 戻ってきた!」
ミルフィーに駆け寄る。
「もー! 返事くらい返してよ!」
「ごめんって。中ですんげところ見つけて……モーラも来れば良かったのに」
「私が行ってたらミルフィーってばずっと行方不明だったのよ! 感謝してよね!」
モーラがあたし達を見た。
「友達がご迷惑おかけしました!」
「いえいえ。私達も楽しかったから。ね、ルーチェ」
「うん」
「ミルフィー、お礼にあれあげようよ! 作りすぎたって言ってたやつ!」
「あ、んだな」
ミルフィーが鞄から小瓶を出し、あたし達に渡した。
「これ、見つけてくだせったお礼っす。良ければどうぞ」
「これは?」
「目覚まし薬っす。眠たくても眠っちゃいけない時にでも使ってくんさい。幻覚が見えた時にもかなり有効」
(へえ……。幻覚見えた時に効くんだ。……調合薬かな。これ。すげー)
「本当にありがとうございました! 行こう。ミルフィー! まだ回ってないところいっぱいあるんだから!」
「あ、待つがや! モーラ!」
二人がバス停に向かって走っていく。トゥルエノとあたしが顔を見合わせた。
「面白い森だったね」
「……ヒント、あまりなかったかな」
「ううん。沢山あったよ。この後二人でまとめよう?」
「……ん。それなら、……良かった」
「行こっか」
「うん」
あたし達は森から離れた。
(*'ω'*)
ホテルに帰るためのバスの中から街の景色を見る。夕日が沈みかけている。
(この時間に夕日が沈んできたら、秋が来たなって思うよなぁ)
あたしはぼーっと街を眺める。
(相変わらず観光客が多い。夕日が湖に映ってる。あー。眩しい)
あたしの肩に頭が乗った。目を動かすと、トゥルエノが眠っていた。
(……朝の4時から新幹線乗ってる上に、移動ばっかりだったし、疲れるよね)
窓を見る。
(ホテルに着いたらまだやることあるんだっけ。一回しおり確認しようか……)
あたしの視線が止まった。
(ん?)
外で、ドラマ撮影が行われている。バスの中にいる人達が外に注目した。
「行かないでくれ!」
主人公の呼ぶ声に、ヒロインの足が止まった。
「もう君を離さないと決めたんだ。愛してる。君が街のみんなに嫌われた魔女だって関係ない! 構わない! だから……! 僕と……付き合ってください!」
ヒロインが振り返った。その役者に、バスの中にいた人々が息を吸った。
「わたくしも……本当はあなたが……」
涙を浮かべた女優の顔を見て、吸った酸素が歓声に変わった。
「パルフェクトちゃんだーーーー!!」
「ぎゃーーーーー!!」
「パルフェクトーーー! こっち見てーーー!!」
「ふわっ……」
トゥルエノが目を擦った。
「びっくりした……。何の騒ぎ……?」
自分の膝下を見る。あたしがトゥルエノの膝に頭を乗せて隠れていた。それを見てトゥルエノがおかしそうに笑う。
「あ、ルーチェが寝てる。ふふっ」
(なんでここにいやがるパルフェクトォオオオオオ!!!)
お前、絶対ここにいちゃいけない人物だろ!!
(ドラマ撮影のロケ地だったなんて! まさかホテル一緒じゃないよな!? いや! まさか! そんなわけがない! いくら田舎だからと言ってもホテルはいくらでもある! 大丈夫! どうせ明日くらいになったら帰ってるでしょ! 会わない会わない! 向こうもマネージャーとかうんたらかんたらついてるわけだし! 会いたくても会えないって! 絶対に!)
「ふわあ……眠い……」
(早くホテルついてーーー!)
あたしの頭の中で、叫び声が木霊した。
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