第13話 強くてたくましい背中


(……もう駄目……)


 あたしはへなへなと座り込んだ。


(駄目だ)


 あたしの体がずんと重たくなった。


(もう駄目なんだ)


「……あれ? 間抜けちゃん?」


 気がついたジュリアがしゃがみ込み、あたしの頬を突いた。


「ねえねえ、どうしたの? なんでそんな暗い顔してるの?」

 ああ、もう駄目だ。もう駄目なんです。あたし。何やったって駄目なんです。

「あらま。副作用。病んじゃった!」

 あたし、何を書いても駄目なんです。もう何が面白いのかわからない。だっていつまでも経っても書籍化されないんだもん。カクヨムで連載初めて、何年経ったと思います? もう三年。三年以上経ったんです。

「え!? 三年経ってるのに書籍もなし!? あはは! やっぱり間抜けちゃんは間抜けちゃんですね!」

 そりゃ、最初は? 学校の授業があるし? 動画作るのも辞めたから吐きどころないし? 物語は頭の中でひらめきまくるし? だったらもう趣味でいいやと思って吐き出したくて書いてたわけですが、どんどん年月が進むに連れてあたしも書籍化してみたいって思ってくるんですよ。本屋に並んでるおとつみとか想像して、ここまで書いたんだからいつか色んな人に読んでもらいたいなって思うわけですよ。書籍化したら翻訳だってしてもらえるし、もしかしたらアニメ化にだってなるかもしれないじゃないですか。動くテリーやキッドやメニーを見てみたいんです。でも出版社は文字数制限とか言ってくるじゃないですか。どう削除したって文字数が溢れるんですよ。というかなんで削除しないといけないんですか? おとつみはあれがあれでああいう物語なんですよ。なんで物語を削除してまで本にして下さいって見せなきゃいけないんですか? そりゃあわかんなくなりますよ。何が面白いのか何がつまらないのか。長いのなんかわかってるんですよ。でもそれがおとつみなんですよ。少年漫画なんてクソ長いじゃないですか。別にいいじゃないですか。同じことしてるだけじゃないですか。なんで削除しないといけないんですか。だから文字数制限のない小説家やアルファやカクヨムで時期が重ならないようにイベントに応募するじゃないですか。半年くらい待ったり、三ヶ月くらい待つのに、選考外ですよ。また選考外ですよ! そうですよ! 結局あたしの書く物語なんて何も面白くないんですよ!

「間抜けちゃーん、大丈夫ですかー? ほら、鼻血拭いて。……大丈夫? 私の魔力飲みます?」

 ああ、また選考外! どうせもう選ばれないんだ! あたしに才能なんて無いんだ! 出しゃばったあたしが馬鹿みたい! 書籍化したいだなんて、本当、そんなアホみたいな夢とっとと諦めたら良かったんだ! もういい! 10章なんて知らない! おとつみの事を考えたら頭がパンクしそう! 忘れたい! もう嫌だ! まだありんこも終わってないのに新作書いてる自分がすごく嫌だ! ああ! 消えて失くなりたい! この新作だって書いてる意味なんかないのに! ただ自分が好きだから書いてるだけ! お金になんかならない! ああ、給湯器が壊れた! シャワーが壊れた! キッチンが壊れた! エアコンが壊れた! 鍵落とした! また騙された! お金取られた! 体調悪いよ! 確定申告しなきゃ! 明日も仕事だ! もう嫌だ!!

「ああ、可哀想に。まともな皆さんの心は無事だというのに、一番間抜けた子の心が病んじゃった。ああ、可哀想。可哀想」


 もう少し早ければこんなことにはならなかったのに。


「何やってたんですか?」


 魔法調査隊員達が震えながらその場に並んでいる。


「五分って言いましたよね?」

「……申し訳ございません。ジュリアさん……思ったよりも……騒ぎが大きくなっていて……」

「言い訳は結構です」

「申し訳ございません!」

「で、騒ぎはもう収まりましたか?」

「はい! なんとか狸達を気絶させ、回収の途中……」


 外から狸が飛びついてきた。隊員の頭にしがみつき、思い切り噛んできた。


「うわああああああ!」

「ひい!」

「どこが収まってるのか説明してもらいたいものですねぇ。全くもう」


 ジュリアがあたしの頭をそっと撫でた。


「もういいです。動きます」

「いいえっ! 隊長が動いたら商店街に残っている人達が無事では済みません!」

「ここは我々が!」

「役に立たないから動くと言ってるんです。退け」

「いや、しかし!」

「うるさい」


 間抜けちゃんのように動ける人はいないのですか?


「ほん……とうに……イライラするなあ……」


 あたしはぼんやりと見つめる。影が揺れ始める。


「なんでそんなに弱いんですか……。お前達……」


『お前達』の気さえ触れなければ、


「私はいつだって満足に魔法を出せるのに」


 闇が蠢く。人々に寒気が走った。


「いいです。黙らせます。狸も、人も、部下も。もうどうでもいいです」


 ジュリアが一歩前に出た。隊員達が止めに入る。しかしジュリアの魔力で吹き飛ばされた。人々が巻き込まれる。狸が飛び込んできた。ジュリアが息を吹いた。その息一つで、狸が泡を吹いて倒れた。気絶したことで悪夢を見てしまった隊員が悲鳴を上げた。重たい魔力に人々が重力に押しつぶされた。地面から動けなくなってしまう。それを見て、ジュリアが呟く。


「なんてか弱いのだろう。馬鹿みたい」


 ジュリアが杖を構えた。起き上がる狸達に向けられる。ジュリアが口を動かした。


「闇よ、全てを覆え」


 ――空から魔力が近づく。


「影は闇。心は闇。全ては闇」


 ――口を動かす。


「闇こそ世界」

「光こそ世界」

「輝くば闇」

「輝くば光」

「闇よ」

「光よ」


 杖が振られる。


「「覆いつくせ」」


 ――凄まじい魔力同士がぶつかりあった気配がして、あたしははっと顔を上げた。そこにはなんとも美しい、見たことのない光が存在していた。それは闇。暗闇である。それは光。明かりである。なんて綺麗な光。あたしはその光を掴みたくて腕を伸ばした。掴められない光を求めて、まるで希望のような美しい光に手を伸ばして、伸ばして、伸ばすと――箒に乗ったミランダ様に襟根っこを掴まれた。


「あぶっ!!!」


 いらっしゃいませー。窓から入って窓から出ていく。ありがとうございましたー。あかんあかんあかん! 首が吊る! 首が吊られる! あたし死んじゃう! もう駄目なんだ! あたしもう駄目なんだ! もう生きてちゃいけないんだ! 生きてる意味なんてないんだ! とか思っていたらミランダ様に手を離された。


「ふえあああ!」


 あたしの体が空から地面に向かって落ちていく。うわああああああああああ親方ぁあああああ空から女の子がぁあああああああ!!


「波よ、弟子を持っとくれ」


 風が吹くと落ちるスピードが遅くなった。あたしはわたわたと手を動かし、風の波を利用して空を伝い、箒で空を飛ぶミランダ様にぐっと両手を伸ばして、大きくてたくましくて、女性らしい華奢な美しい背中にしがみついた。


 ああ! ミランダ様! 最期にお会いできて良かった! あたしもう駄目なんです! ぐすん!

「お前、なんで副作用になってるんだい! ええい! 私のマントで鼻水を拭くんじゃないよ! 汚いね!」

 酷い! ミランダ様ったら! なんでそんなこと言うんですか! マントなんて洗濯すればいいだけなのに! あーあ! そうやってセーレムばっかり可愛がるんですね! あたしだって……本当はもっと……ミランダ様に頭撫でてほしいのに! ぐすん! ぐすん!

「なんだい。これはどういうことだい」


 狸によって壊された街をミランダ様が空から眺める。


「ジュリア!」


 ジュリアが杖を下ろし、ミランダ様を見上げた。


「お前の魔法は調査の時だけじゃなかったのかい!」

「TPOってご存知ですか? ミランダ」

「何がTPOさ。私の弟子まで気が触れたらどうするつもりだい!」

「その子の気は触れません」


 ジュリアが怪しくて優しい笑みを浮かべる。


「私が魔法を使っても、その子は絶対に何も変わらない」


 何も変わらない間抜けた顔の間抜けちゃん。


「ミランダ、よろしければ『下りてきて』街の修復を手伝ってもらえませんか?」

「もう帰るよ。弟子も副作用で苦しんでるしね」

 あたしもう駄目なんです。書籍化なんて出来ないんです。だからいつまで経っても魔法使いになれないんです。うっ、うっ!

「もう近づくなって言ったはずだよ」


 ミランダ様がジュリアを睨む。しかし、ジュリアは非常に穏やかに微笑み続ける。


「この子に関わるな。ジュリア」

「仲直りしたんです」

「この子の保護者は私だよ。いいかい。近寄るな。関わるな。街の修復は隊員達に任せな」

「お任せしたい! そんな時は!」


 突然ライトが別方向に当てられ、ジュリアとミランダ様と人々が振り返った。


「パルフェクトにお任せ!」


 ライトが眩しくて人々が顔の前に手を当て、目を細ませた。輝くパーフェクトなパルフェクトは相変わらず隙のない笑顔を浮かべ、杖を振る。


「雪だるまはあなたの友達。怖がることはありません。暖かな雪はあなたの味方」


 温かい雪が降ってきた。触れると怪我や建物のヒビが治っていく。突然の大スターであるパルフェクトの登場に、街の人達が歓声を上げた。


「きゃーーーー!!」

「パルちゃんだーーー!!!」

「パルフェクト愛してるーー!!」

「あ! ルーチェ♡の気配がする! どこ!? わたくしのルーチェ♡!」


 パルフェクトが下を見て、左右を見て、上を見た。


「いた!!!」


 箒に乗ってすいすい飛んでくる。


「ルーチェ♡! こんなところで会えるなんて! 運命ね!」


 パルフェクトを見て……お姉ちゃんがこの視界に入った瞬間……あたしはミランダ様にしがみつきながら、殺意を込めて叫んだ。


 お前のせいだぁあああああ!!

「え!? どうしたの!? ルーチェ♡!?」

 全部お前のせいなんだよぉおおおお!! お前があたしを振り回すからぁああああ!!

「る、ルーチェ♡が、わたくしに振り回されてる……!? そ、そんなこと言ったら……! わたくしの方こそ……ルーチェ♡に振り回されてるんだから……! ぽっ……!」

 こいつ殺してやるぅううう!!

「パルフェクト、ルーチェは今副作用で苦しんでいるんでね、あまり刺激するんじゃないよ」

「は? お前何わたくしのルーチェ♡を副作用にさせてるの? オバサン」

「黙りな。クソガキ」

 うううううううう!! ミランダ様ぁああああ!!

「ああ、やかましいねぇ。もう」


 ミランダ様が胸の谷間から小瓶を出し、あたしに手渡した。


「これでも飲みな」

 うっぐ。これで死ねるんですね……。さようなら。ミランダ様……。さようならお姉ちゃん。さようならこの世の全て。あたし、死ぬならミランダ様に抱きつきながら死にたいんです。いきます。さようなら。


 あたしは小瓶を飲んだ。――中の液体が胃の中まで流れてくると――マイナスなことしか考えられなかった脳が落ち着いてきて――突然静かになって、ぱっと瞼を開けて、ぱちぱち瞬きして、深呼吸をして、……自分に何が起きたのか理解し、あたしはため息をついて、ミランダ様を抱く腕の力を強めた。


「もーしわけございません……。ミランダ様……」

「治まったかい」

「大丈夫です……」

「あん! ルーチェ♡! 久しぶり! 元気だった!? 風邪引いてない!?」

「ちょ、まじ……今、本当に話しかけないで……」

「やだ。反抗期? ルーチェ♡、悩みがあるならお姉ちゃんが聞いてあげる! 悩みのタネは一体何なの!?」

(お前だ! 馬鹿!)


 あたしはミランダ様のマントを撫でた。あとでちゃんと綺麗にしてあげよう。


「すみません。ミランダ様、お買い物したリュックがレストランの中にあるんです。取ってきてもいいですか?」

「どれだい」

「えっと、黒いリュック……」


 突然背中が重たくなった。

 振り返ると、あたしの背中にネギが飛び出たリュックが背負われていた。


「え、まじ!? これ魔法ですか!? すげー!」

「今回だけだよ。『下りたら』何されるかわからないからね。お前が」

「はい?」

「帰るよ。ルーチェ」

「はい!」

「ルーチェ♡! 今度はいつ会える!? ね! ちゃんとチャットの返事してくれないとお姉ちゃん予定開けられないの!」

「行くよ」

「はい!」

「あん! もう! いけず! でもそんなルーチェ♡も大好き! 愛してるからね!」


 ミランダ様が猛スピードで空を飛ぶ。温かい雪が降り続く。ジュリアがそれを見届け、ため息を吐く。


「……訓練を増やします。そのつもりで」

「「はっ!!」」

「狸達の回収と」


 見下ろせば、やはり落ちている。


「魔法石の回収を」

「「イエッサー!」」

「はー……」


 ジュリアが自分の手を見つめた。


 ――あたしと一つになりませんか!!!!!


「ふふっ」


 手を握りしめる。


「またね。間抜けちゃん」


 帰路を箒が飛んでいく。あたしはミランダ様に掴まり、ミランダ様の背中を堪能する。


(……メモ見て、助けに来てくださったのかな)


 それとも誰かに依頼されたのかな。で、偶然あたしがいたとか。


(何でもいい)


 ミランダ様の体温と呼吸を感じる。


(こうやって後ろに乗せてくださることだけでも嬉しい)


 ――私は自分から弟子辞めたの。


(アンジェちゃんも、こうやって乗ってたのかな)


 ミランダ様に体を押し付ける。


(あたしよりきっと出来は良かったんだろうな)

(アンジェちゃん、しっかりしてそうだもん)

(四年か。……長いな。あたしはまだ弟子になってからほんの少ししか経ってない)

(ミランダ様と過ごして、まだ日は浅い。なのに……)

(……また……ご迷惑かけちゃった……)


 不思議な気持ち。このもやもやの存在は知ってる。嫉妬だ。あたしが知らないミランダ様とアンジェちゃんの過去に何があっても参加できないことに対して、あたしはものすごく嫉妬している。あたしがミランダ様の弟子なのにと、嫉妬心がメラメラと燃えて体も心も侵食して、嫌悪して、嫌になって、脳が破裂して、消えて失くなってしまいたくなる。

 けれどそれと同時に、こうしてミランダ様が迎えに来てくださったことに対して、ものすごい優越感に浸っている意識がある。アンジェちゃんは過去。今はあたし。あたしがミランダ様の弟子なのだ。だからミランダ様はあたしを大切にしてくれる。お側に居られる。嫉妬と同じくらいの優越感。優越感と同じくらいの嫉妬。翻弄されて頭がおかしくなりそう。

 正常な脳はわからないけれど、あたしの持ってるADHDの脳はそもそもコントロールが苦手だから、変な妄想に囚われて態度に出てしまいそう。妄想なんて、ありもしないことなのに。ただの自分が頭で描いてる物語というだけの話なのに。『きっとこうなんだ』が『いや、多分こうだよな』になって『もしかしたらこうなんじゃないか』が『いや絶対そうなんだ』になって『ああ、もう絶対そうじゃん。もう駄目だ』に変わる。根拠はないのに妄想に囚われる。事実確認しないと真実なんて絶対にわからないのに自分の絶対に信用できない脳をこういう時に限って信用してしまう。自分を助けるのは自分だ。でもその考えや妄想が全て正しいとは限らない。事実確認が必要だ。


「ミランダ様」


 ミランダ様は返事をしない。


「迷惑かけてごめんなさい」


 ミランダ様は飛び続ける。


「ぽんこつで、本当にすみません」


 風で髪の毛が揺れる。


「あたし、出ていった方が良いですか?」

「……まだ副作用が治まってないのかい?」

「いいえ、副作用はもう、大丈夫です。たた、た、ただ……」

「……」

「最近貴女の足を、引っ張ってばかりで……」

「そうだよ。反省しな」

「……はい。すみません……」


 森が見えてくる。


「ルーチェ、反省って具体的に何をするんだい?」

「……えーと」

「お前はただ記憶に残すだけじゃないのかい」

「……もう二度と、そのよーなことがお、起きないように……えーと……考えます」

「何度も言ってるよ。お前の悪い癖は考えすぎるところ」

「……でも、考えないと策は練られません」

「お前の場合は策を寝かせてるよ。反省ってわかるかい? 省は自己の内心をよく注意して、振り向いて見ること。反は元に戻る。繰り返す。反省。元の自分を振り返り自分の行いの良し悪しの選択を選び、今後良しの方を繰り返すこと」

「……何事も繰り返しなんですね」

「人はそれを経験と呼ぶ。ゲームで経験値って使うだろう? 経験を積んでレベルを上げていく」

「人生はゲームみたいに上手くいきません。主人公はいつだってチートすぎます。最初は弱いくせに、レベルが上がれば一番強くなる。でもあたしはいつまで経っても……間抜けなままです」

「人生は短いようで長い。お前はまだ19歳だろう?」

「もう19歳です」

「ああ。私が19歳の時は学校とアルバイトじゃなくて、仕事の日々だったよ」

「その間も練習を繰り返したんですか?」

「繰り返したよ。魔法が輝くのは楽しかったからね」

「繰り返すことって苦手です」

「お前は飽き性だからね」

「やっぱり向いてないですかね」

「そう思うなら向いてないんじゃないかい?」

「……」

「嫌なら辞めなさい。辞めれば全部から解放される」

「ミランダさまは、どうして、繰り返しできたんですか?」

「魔法が好きだから」


 あたしの脳に、ミランダ様の声が届く。


「繰り返し探り探りでまた繰り返して呪文を100回200回繰り返す。それで1回目の時と比べて光が輝けば嬉しいじゃないのさ。しかもそれを依頼人に見せてその心を魅せる事ができるのであれば、最高じゃないのさ」

「……」

「ルーチェ、お前はどうだい。100回200回繰り返したお前の光で、私が涙を流すほど感動したらどう思う?」

「……嬉しいです」

「どうして?」

「時間と体力を費やして出来たものを、すごいと共感してもらえたから」

「すごいと共感してもらえたらそれでいいのかい?」

「……もっと、すごいものを見たくなると……思います。あたしの実力はこ、ここだけでは終わりたくないと思って」

「そう。だから繰り返すんだよ。何度も何度も」

「でも、それが難しいです」

「どうして難しいんだい? 魔法を使うのが好きなのに、どうして好きなことをしてるのが苦になってくるんだい? 私はそれが理解できないよ」

「疲れたら……何もできなくなります」

「そうかい。じゃあそれで良いんじゃないかい? お前の光はその程度ってことさ。お前の『光が好き』という気持ちもその程度。……大して好きじゃないんじゃないかい? 小説書いてる方が好きなら小説家になれば良い。そしたら時間もそっちに費やすことが出来て、真面目に書籍化について考えられるんじゃないかい?」

「……」

「ルーチェ、今夜はミートボールパスタだろう? 楽しみにしてるよ」

「……ハンバーグパースタでい、いいですか?」

「ん? どうしてだい?」

「ハンバーグならつくったことあるので、イメージして魔法で作れます」

「なんだい。お前副作用になるくらい魔力を使ったのだから、もう疲れてるんだろう? 小説を書きたいんじゃないかい? 休んでいいよ」

「そんな暇があったら、……滑舌が良くなるよう、発声練習します。課題もあるし、オーディションの準備だってあるんです」

「ああ、そうかい。なら仕方ないねえ」


 ミランダ様がにやにやし出した。


「いいよ。今夜はハンバーグパスタで」

「ミランダ様、夜にお仕事入ってる日はないんですか?」

「今夜入ってるよ」

「……本当ですか?」

「キャンセルがなければね」

「行きたいです。はな、花火、見たいです!」

「ああ、そうかい。ならついてくるかい?」

「はい!」

「良い返事だけはお手の物だね。ルーチェ」


 屋敷の屋根が見えた。あたしを乗せたミランダ様は屋敷に向かって箒を飛ばした。


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