君の友達。それで充分よ、イストファ

「そうね。それじゃ帰りましょうか、イストファ」

「おい、仕切るんじゃねえ」

「カイル、喧嘩しないでよ」

「むっ」


 イストファに言われてカイルは思わず黙り込む。

 

「いや、しかしだな」

「私はイストファに賛成よ。仲良くしましょ?」

「ぐぬ……わ、分かった」


 状況不利を悟ったカイルは頷くが、ステラを睨む目は変わらない。

 勿論、カイルにもイストファを助け師匠という立場になったステラに一定の敬意はある。

 自分に出来ない事をしたのだ。それは素直に称賛したい。

 しかし、一部納得できない部分はある。


「……ステラ、だったか?」

「ええ、何かしらカイル」

「お前、イストファを将来的に婿にする気だってのは本当か?」

「あら。そんな事まで話しちゃったの?」

「う、流れで……」


 仕方ないわね、とステラは笑いながらイストファの頬をつつき、カイルへと視線を向ける。


「ええ、本当よ。それが何か?」

「長命種にするつもりだってのもか」

「ええ、勿論」

「……そうか。それは勿論、イストファの意思を優先しての話だろうな?」

「当然ね」

「イストファに他に好きな奴が出た時に身を引くつもりもあるんだな?」


 そこで、初めてステラは即答しない。

 しかし……少しの沈黙の後に微笑み答える。


「負けるつもりもないけどね?」

「そうか」

「えーと……」


 自分の話題なのに蚊帳の外にされていたイストファが困ったように頬を掻く。

 確かにカイルに全て話してしまったのは自分だが、どうしてこんな事になっているのか。


「あの、カイル……」

「イストファ」

「な、なに?」

「長命種になるってのは、明日の晩飯を決めるような気軽な話じゃない。ちゃんと考えろよ」

「えっと……ステラさんとの話だよね。それは、勿論だよ」

「ならいいんだがな」


 自分を本気で心配してくれている。

 それが分かるから、イストファは「うん」と頷く。


「大丈夫だよ、カイル。僕、今はそういう話もよく分からないから……ちゃんと分かるようになってから、しっかり考えるつもりなんだ」

「おう、そうしろ」

「友情ってやつね。随分深めてきたみたいじゃない」

「はい!」


 嬉しそうに笑うイストファに、ステラも笑う。


「そういうのは大事よ。お金で繋がる関係もアリといえばアリだけど、切れやすいから」


 そう言うと、ステラはカイルへと笑いかける。


「感謝するわ、カイル。何処の誰かなんて聞かないけど、イストファと仲良くして頂戴ね」

「言われるまでもねえ」

「あの、ステラさん。カイルは……」

「君の友達。それで充分よ、イストファ」

「はい」


 ホッとした様子のイストファへとステラは微笑み、そして三人で並んで歩く。

 やがて辿り着いた宿屋の前で、カイルは軽く息を吐く。


「まったく、とんだ一日だった」

「あはは……そうだね」

「イストファ。一応明日の予定について言っとくぞ」

「う、うん」


 真面目な表情のカイルにイストファが頷くと、カイルはイストファを指差す。


「まず一つ目。お前の装備を充実させる」

「え、僕?」

「ああ。お前、俺と組んで戦う事に異論はないんだろ?」

「それは、うん。でも、それが?」

「守る戦いを念頭に入れる必要があるってことよ」


 ステラにそう言われて、イストファは「あっ」と声をあげる。

 確かにイストファが前衛、カイルが後衛で戦うのならばそれが必要な場面はある。

 今日のように敵の後衛をカイルが直接殴りに行くような戦いは、無い方がいいのは間違いない。


「二つ目。出来れば三人目の仲間を……可能ならサポーターを入れる」

「サポーター……」

「そうだ。お前の師匠もこれに異論はないはずだ」

「ええ、そうね。何度も言うようだけど、私は今のイストファと一緒に潜るつもりはないから」


 ステラの返答に頷き、カイルはイストファに向き直る。


「この辺りについては明日また詳しく話す。それじゃ、おやすみだイストファ」

「うん、おやすみカイル」


 ズカズカと宿の中へと入っていくカイルを見送ると、イストファは「三人目……」と呟く。


「あら、嫌なの?」

「え、いえ。そういうわけじゃないんですが」

「不安?」

「……はい」


 そう、イストファは不安だった。

 カイルとは上手くやれている。

 しかし、その三人目とも上手くやっていけるだろうか?

 冒険者としては初心者程度のイストファの経験は、まだ自分に自信を持つには足りない。


「なんとかなるわ。保証はないけどね」

「……ないんですか」

「ええ。こればっかりはどうしようもないもの。私だって失敗してばかりよ?」


 ふう、と憂鬱そうな息を吐くステラに、イストファは意外そうな顔になる。


「ステラさんも、ですか?」

「勿論よ。たくさん失敗して、結局今はソロだけど。イストファは上手くいくといいわね?」

「はい。カイルは、いい奴ですから」

「そうね。私もそう思うわ。彼、貴方とは違う意味で世間知らずっぽいし」

「そうなんですか?」

「ええ、そうよ。だから色々気が合うんじゃないかと思うわ。大切になさい?」


 言いながらステラは、一人の少年の噂を思い出す。

 天才と期待されながら、魔力が人並み以下。

 玩具の魔法士、ガラクタの天才。

 フィラード王国第四王子、カイラス・フィラード。

 ごく僅かな親しい人間からの愛称は……カイル。


「ふふっ」

「ど、どうしたんですかステラさん」

「なぁんでもないわ。さ、私達も入りましょイストファ。きっと明日は早いわよ?」


 そう言って、ステラはイストファの背をトンと押した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る