かなり性格悪そうだぞ、こいつ

 そして、それから少しの時間が経過して。

 一通りの事情聴取が終わると、アリシアは持っていた手帳をパタンと閉じる。


「うむ、こんなものだろう。お疲れ様だ、二人とも」

「あ、はい。おつかれさまです」

「こんな時間をかけることか? 襲撃された、撃退した。それで充分だろう」


 不満でいっぱいといった様子のカイルにアリシアは「必要だとも」と頷く。


「あの手の輩は責任転嫁が好きだからな。矛盾を突く為に、君達の証言が重要な証拠となる」

「なるほど……」

「フン、それならもう帰っていいんだな?」

「ああ。だが少し待ってくれ……おい!」


 現場検証をしていた衛兵達にアリシアが声をかけると、一人の衛兵が走って来て敬礼をする。


「ハッ、如何されましたか?」

「この子達を宿まで送ってやれ。被害者であり、我々の捜査協力者だ」

「了解しました」


 そう答え、衛兵の男はイストファ達に笑いかける。


「と、いうわけだ。アリシア隊長に比べれば華のないオッサンで悪いが、我慢してくれ」

「いえ、そんな……」


 イストファは恐縮したようにそう答えるが、カイルは舌打ち一つしか返さない。


「ちょっと、カイル……」

「フン、色々言ってはいるが結局俺達をガキとしてしか見てないんだ」

「そう言われてしまうと反論できんがな」

「隊長……そこは上手く誤魔化す場面ですよ」


 苦々しい口調で衛兵の男が言うが、アリシアは「すまんな……」と困った顔になるばかりだ。

 それがカイルのプライドを刺激したのだろう、イストファの手を引くと「さっさと帰るぞ!」と怒気を強めてしまう。


「え、あ、カイル」

「あんな連中、また来た所で俺達の敵じゃない!」

「そうかもだけど……」

「行くぞ……ぶっ!?」


 怒りのままに歩こうとしたカイルが、何かにぶつかり止まる。

 一体何かと見上げるカイルの視線の先の「それ」を見て、イストファは「あっ」と声をあげる。


「ステラさん……!?」

「お帰り、イストファ。無事に帰ってきたみたいね」


 そう、そこに居たのは……この夜の中でも輝くような美しい白い鎧を纏ったステラだった。

 

「こっちで騒ぎがあったみたいだから来たんだけど……」


 そう言うと、ステラは自分にぶつかったカイルに視線を向ける。


「……お友達?」

「そうだ、カイルという。お前がイストファの師匠のエルフとやらか」

「ええ、そうよ。私はステラ。今はイストファの師匠みたいな事もやってるわ」


 そう言って微笑むステラをジロジロと値踏みするようにカイルは見ると「……ミスリルの鎧か」と呟く。


「ミスリルって……」

「話しただろう。高価な魔法金属だ。エルフに加工技術があるという話は聞いた事があったが」

「随分事情通みたいね。物を見る目もある……かなりイイ所の子かしら」

「どうでもいいだろう。お前こそ、その装備一式……ライトエルフでも、かなり高位なんじゃないか?」

「どうかしらね? それこそ、どうでもいいんじゃない?」

「かもな」


 笑顔で睨み合う二人の間にイストファは入れず、しかし勇気を出して「ちょっと二人とも……」と仲裁する。


「なんで二人でやり合ってるのさ。ステラさんも、やめてください」

「いや、なんとなく今立場をハッキリさせといた方がいい気がしてな」

「同じくよ。こういうのは最初が肝心だもの」

「ワケわかんないよ……」


 呆れたようにイストファは溜息をつくが、思い出したようにステラへと向き直る。


「そうだ、ステラさん。僕の友達のカイルです。一緒にダンジョンに潜ろうっていう話になったんですけど」

「いいんじゃない?」


 いいですか、とイストファが問う前にステラからはそんな返答が返ってくる。


「え……いいんですか?」

「別に私はイストファにソロでダンジョンを踏破する剣豪になって欲しいわけじゃないもの。勿論それを目指すっていうのは歓迎だし数を頼みにゴリ押しするような雑魚にはなって欲しくないけど……3~5人くらいはダンジョン攻略パーティの平均よ?」

「……そうなの?」

「ああ」


 イストファがカイルに確かめると、カイルも頷いてみせる。


「前衛、後衛、サポーター。大体はこの組み合わせだ。詳しい内訳は様々だがな」


 今のイストファ達で言えばイストファが前衛、カイルが後衛となるわけだ。


「前にも言ったけど、私は今はイストファと一緒にダンジョンに潜る気は無いわ。貴方とパーティを組んでるのは万が一を防ぐ為。だから、まともな仲間と組むのを阻害するつもりはないわ」


 そう言うと、ステラはカイルへと向き直る。


「……魔法士か。まだまだ成長過程、魔法士としての能力に極端に寄った成長しそうね?」

「俺を勝手に測るんじゃねえ」

「あら、ごめんなさい?」


 クスクスと笑うステラを指差して、カイルは苦々しい表情をイストファへと向ける。


「おいイストファ、本当にこいつが師匠でいいのか? かなり性格悪そうだぞ、こいつ」

「い、いい人なんだよ?」

「本当かあ?」

 

 かなり疑わしげなカイルだったが、やがて「まあ、いいか」と溜息をつく。


「お前を見出したのもこいつだったな。ならまあ……とりあえずは良しとしてやる」

「あら、上から目線ね」

「フン」

「仲良くしようよ……」


 そんなに相性が悪いのだろうか、と考えながらもイストファはアリシアと衛兵の男に頭を下げる。


「あの、すみません。師匠も来てくれたのでもう大丈夫です」

「そ、そうか。気を付けてな」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って頭を下げると、イストファはカイルとステラに「早く帰ろう。夜が明けちゃうよ」と声をかける。

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