お前、天才の俺が居てほんとによかったな

 しかし、探すといっても当てがあるわけでもない。

 ついでに言ってしまえばグラスウルフと戦ってからイストファ達は1度も特殊なゴブリンとは出会っていない。

 その事をイストファ達が思い出すまでに然程時間はかからず、何度目かのゴブリンの魔石を取り出したイストファは「……カイル、拙くない?」と声に出してしまう。


「な、何がだ?」

「何がっていうかさ……僕、このままだと永遠に帰れないような気がしてきたんだけど」

「そんな事は無いぞ。ゴブリンスカウトさえ見つけちまえばいいんだ」

「低い確率なんだよね?」

「うぐっ!」

 

 そっと視線を逸らすカイルを見てイストファは小さく溜息をつくと、ゴブリンの魔石を袋に入れ悩み始める。

 イストファとしては此処で戦う事でゴブリンを簡単に倒せるようになってきたのは嬉しい。

 今の戦いでもほとんど苦戦しなかった。

 それはイストファの身体に取り込まれた魔力の影響なのであろう事は間違いない。

 しかし、だからといって疲れないわけではないのだ。

 カイルの魔法の威力もほんの少しずつ上がってきてはいるが、その一撃でトドメを刺せるようなものではない。


「たとえばの話なんだけどさ、このまま僕達が疲れ切ったとして……たぶん、ここで野営とかって凄くダメな方法だよね」

「当然だろ。お前が寝てる時にグラスウルフがやって来てみろ。俺なんか一撃で死ぬぞ」


 そしたらお前もガブリだ、と自信満々に言うカイルにイストファは呆れ混じりに「そんな自信満々で言う事じゃないよね……」とツッコミを入れる。


「だが事実だ。今ならゴブリン程度なら燃やして殴り殺せるだろうが、ゴブリンスカウトやゴブリンマジシャン相手には試してないしな」

「いや、まあ……うん。いいんだけどさ」

「だが確かにこのままじゃいかんのは事実だ。事実だが……イストファ、これは正直危険な賭けになるぞ?」


 真面目な調子で言うカイルに、イストファは少し考えた後に「いいよ」と答える。


「どのみち、今のままじゃ消耗するだけだよ。賭けてみるしかない」

「そうか。良し、言ったからには俺を馬鹿にするなよ?」

「え、何言うつもりなの?」


 急に不安になってきたイストファの前で、カイルは周囲をぐるっと杖で指していく。


「いいか、この空間は無限じゃない。それは分かるな?」

「ん……それは、まあ。地下だもんね」

「そうだ。具体的には、滅茶苦茶広い正方形であると予測されている」

「正方形って何?」

「四辺が同じ長さの図形だ。いいから黙って聞け」


 別に聞いたっていいじゃないか。

 そんな事を思いながらもイストファが黙ったのを確認して、カイルは再び説明を再開する。


「そして俺達が入ってきた入り口だが、実はその隅に近い場所であるらしい」

「ん? どういうこと?」

「分かんねえか? つまりだな、四隅の何処かに行けば入り口が見つかるんだ」


 やはり分からずにイストファは首を傾げる。

 四隅っていったって、四カ所もあるのだ。確かにあてもなく探すよりはいいかもしれないが、つまりダンジョンの端っこをグルッと回るということなのではないだろうか?

 そんな事を思ったのだ。


「分かってねえって顔してやがるな……お前、天才の俺が居てほんとによかったな?」

「うっ……だって分かんないんだもの」

「あのな。四隅の何処かさえ見つければ、対角線上にある次の隅が見つかるんだ。簡単だろが」


 まったく、と自信満々に言うカイルに、イストファは頬を掻いて「えーと……」と呟く。


「確かにそうかもしれないけどさ。その最初の隅はどうやって見つけるの?」

「そりゃお前、ダンジョンの端をグルッと回ればすぐだろう」

「……この階層って、そんなに狭いの?」

「いや、さっきも言ったが、滅茶苦茶広いな」

「具体的に、どのくらい?」

「かなりの日数をかけて調べたらしいが、よく分からん」


 そこまで言って、カイルはイストファの言いたい事に気付き「むっ」と唸る。

 

「僕はいいんだけどさ、あてもなく彷徨うよりは良さそうだし。でもカイル……体力、もつ?」

「バ、馬鹿にするなよ。俺だってそのくらいはいけるさ」

「そう? ならいいんだけど……あと、危険な賭けっていうのはカイルの体力の話?」

「違う」


 少しムッとした顔でカイルはイストファを睨む。


「いいか、此処はダンジョンの一階層だ。一階層という事は当然二階層もあるわけだ」

「うん」

「そして、その二階層への入り口……これも地上への出口同様、隅に近い場所にあるという話だ」

「でもそれって、見れば分かるでしょ? いくら何でも下り階段が外の出口だなんて思わないよ」

「そうじゃない。二階層への入り口を『見つけてしまった時』が問題なんだ」


 カイルの言葉にイストファが首を傾げると、カイルは軽く咳払いをする。


「いいか。ダンジョンの次の階層に繋がる階段には、必ず守護者がいる。確率で多少変わるそうだが……大体の場合はゴブリンガードと呼ばれる奴が守っているそうだ。そして、ここからが重要なんだ」

「ゴブリンガード……なんか堅そうだね」

「そうだ。ゴブリンガードはその名の通り護衛兵。鉄の鎧兜と盾で全身固めたゴブリンだ。イストファ、俺とお前にとっちゃ、相性最悪だぞ?」

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