第12話 魔族
この世界には魔族という種族が存在する。
数百年前、魔界から突如として現れたソレは人間よりも高い身体能力と魔力を持ち、人間界に一方的な虐殺行為と侵略行為を始めた。
魔族曰く、人間という下等生物が一つの世界に君臨しているのが我慢できないと、そして魔王オルガディオスは魔界と人間界の二界に君臨する絶対王になるのだと言って人々を殺し続けた。
普通の魔族兵なら人間の兵でも連携することで倒す事はできたし、元より数で勝る人間が負ける道理は無かった。
だが一人で一国の軍事力にも匹敵すると言われる四天王、その四天王が束になっても敵わず天地を揺るがし山を砕き地を割る魔王に勝てる人間が存在するはずもなく、人類は数百年の時を重ねて遊ばれるように、じわり、じわり、とその数を減らし、国が滅び、人類はもはや滅びを待つだけだった。
しかし神の思(おぼ)し召(め)しか、ある日とある小さな村に生まれた天才的な戦闘センスを持つ子供は瞬く間に魔王軍を滅ぼし、四天王を、そして魔王すらたった一人で倒してしまったのだ。
こうして世界は平和になり、人々に虐殺の限りを尽くしていた悪しき魔族は捕えられて罪を償うべく罪人として収容所で生活している。
強力な魔王や四天王、その他の幹部達を失った魔族は全員人間達に降伏した。
それが世界の常識であるはずだった。
◆
「急ぐぞアルア!」
「うん! でもなんで今更魔族が」
「…………」
息を引き取る前に兵士が教えてくれた。
地震で本体からはぐれてしまった彼らはエリス達同様にグレモア盆地を目指し、山の中をさまよっていたの。
すると突然、魔族の一団が現れ自分達を殺し去っていったと。
魔族の目的は大天使召喚作戦の阻止。
邪神は魔族を庇護する訳ではないが、人間達を殺す邪神の存在は魔族にとって実に気持ちの良いものであり、このまま邪神に滅ぼされてしまえというのが魔族達の共通意識らしい。
「くそ! 魔族の奴らめ少しも改心していないのか!」
「そりゃ改心するような殊勝な奴なら一方的な侵略なんてしないでしょ」
「…………」
魔力で足を強化して三人は駿馬(しゅんば)より速くグレモア盆地へ急ぐ。
しかしその間にジューダスが口を利く事は無く、無言を貫いている。
「どうしましたジューダス殿、何か気になる事でも?」
「……まあな」
「なになにー、まさか今回の事に心当たりでもあるの?」
「そういう訳じゃないけど、今回の作戦は国中の人間が知っているし、俺も見ていたけど一万の兵はパレードまでして送りだされただろ?」
「ええ、それは当然、邪神を打ち倒せるという、世界中の人々の希望がこもった作戦ですから」
それがどうしたのいうのだという顔でエリスが首を傾げる。
「でもだからこそ魔族は今回の作戦を知って邪魔しようと収容所から脱獄したか、それともまだ捕まらずに逃亡していた魔族が邪魔しようとしてるんだ。
それなら今回の事は王のミスだ。
変にパレードや宣伝なんてしないでこっそりと、でなければ邪神討伐の遠征軍という名目で兵を動かせばよかったんだ」
「それは、どうですが……」
正論ゆえにエリスもアルアも反論できずに言葉を探すと、やがて前方に見慣れない一団が見えてきた。
「アルア! ジューダス殿!」
「うん」
「ああ」
◆
「待て!」
剣を抜き構えるエリスの声に男達は振り返った。
病的に白い肌に白い髪、血のように赤い瞳と長く尖った耳は魔族の証である。
そんな男達が二〇人。
「なんだてめえらは?」
その中で一人、軽装ながらも鎧を着た魔族が進み出て来る。
おそらくは敵のリーダーだろう。
「私の名は勇者エリス、この下で兵士達を殺したのは貴様らの仕業か?」
勇者と聞いて魔族達の顔が愉悦に歪む。
「そうだぜ、何だお前ら、あいつらの仲間か」
「いかにも、罪無き人を殺める貴様らを許すわけにはいかない、大人しく投降しろ、さもなくば斬る!」
勇者としての口上を、魔族達は退屈とばかりに聞き流して腰の剣を抜いた。
「ゴタクはいいからさっさとしようぜ、殺し合いをな!」
敵は体力と魔力で人間に勝る魔族が二〇人、だが、それはあくまで普通の人間と比べたらの話である。
「バーニング・ストーム!」
アルアの右手から火炎の嵐が吹き荒れ、魔族達に襲い掛かる。
咄嗟に魔族達は氷呪文で対抗するが、火炎の嵐はそれでも呪文もろとも六人の魔族を焼き殺した。
残りの魔族も火傷でひるみ、その隙をついてエリスとジューダスが斬り殺す。
二人の剣はまさに神速、巧みさと速さを兼ね備えた必殺の剣は一撃一撃で確実に魔族の息の根を止める。
しかしその勢いもすぐに止まった。
「止まりな!」
見れば魔族の一人が負傷した兵士を人質に取っている。
首元に剣を突きつけられた兵士は口に猿ぐつわを付けられて声も出せずにいる。
「へへへ、こんな時の為に一人殺さずに残して良かったぜ」
数が多くて気付かなかったか、奥に控えていた魔族は兵士の一人を最初から人質として隠していたらしい。
「ははは、形成逆転だな」
リーダーと思われる魔族も上機嫌に自らの剣を人質の首に当てる。
残りの魔族は五人、人質のせいもあってうかつに手は出せない。
そんな局面で、アルアがいつにない真剣な顔で告げる。
「何言ってるの? あんたさあ、あたしがその人質もろとも大魔法であんたらを倒すとか考えないの?」
「強がり言うんじゃねえよ」
「お優しい勇者様ご一行がそんな事できるわけねえだろ」
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紹介文通り、ここまでです。
人気があったら、本格連載したいです。
堕ちた勇者 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
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