第9話 勇者堕ち
地震の影響で地形の変わった山道は険しく体力を消耗し、それだけではなく、ドラゴンやベヒーモスといった強力なモンスターとの戦闘を何度も強いられた。
そうした事を経て解った事が一つ、ジューダスは強い。
その実力は間違いなくエリスよりも上。
彼ほどの実力があればどこの国でも高い給料を出して雇ってくれるだろう。
三度目のドラゴン戦を終え、また山道を歩きながらエリスは尋ねた。
「ジューダスさんは今回の作戦に参加されている勇者ではないんですよね?」
「ああ、俺はただの流れ者だ」
「流れ者、何故ですか? あれほどの実力があれば王族の顧問勇者にだってなれるはず。それなのにどうして……」
その問いに、エリスの前を歩くジューダスはしばし無言になってから逆に問うた。
「エリス、お前はなんで勇者になったんだ?」
「あの伝説の勇者、レイドに憧れたからです」
「多いなそういう奴」
やや呆れたような口調にややエリスはムッとするが、すぐに表情を改めて続ける。
「私は彼の後を継ぎたいんです。
そして世界中の人々を救う為に戦いたい。
彼は素晴らしい、彼のおかげで魔王は倒れ、人々を苦しめてきた魔族達は罪を償うべく今は収容所で労働に就いていると聞きます。
人の身でありながらたった一人で大魔王オルガディオスを倒し世界中の人々を救った彼の後を、今や邪神がかつての魔王のように世界を滅ぼさんとする時代、だが彼はもういません、ならば私が、その一念で今まで剣を磨いてきました」
「…………」
「そういう貴方は何故ですか? 貴方は自分は勇者では無いと言ってしましたが、剣と魔法の両方が使えるのは勇者を目指していた証、そしてあれほどの強さを手に入れるには並大抵の努力では済まないはず、貴方をそこまで駆り立てた理由を教えていただけませんか?」
遠慮のないエリスの言葉にジューダスはまた黙り、そしてトーンの落ちた声を返してきた。
「俺はさ……勇者堕ちなんだよ」
「勇者堕ち?」
聞き慣れない単語に戸惑うエリス、そんな彼女にジューダスは重い口を開いた。
「俺もガキの頃は勇者に、正義の味方って奴に憧れてたよ。
木剣振り回して勇者ゴッコして遊んで、いつも将来は勇者になって俺が魔王を倒してやるって、叫んでた」
ジューダスはエリスよりも年上で、二十歳は過ぎているだろう。
それに魔王を倒してやる、ということは彼は魔王が健在の頃にもう勇者を目指していたということになる。
ではそんな彼が何故勇者堕ちなどと言うのか、エリスは疑問をつのらせながら答えを得るべくジューダスの言葉に耳を傾ける。
「それで俺とそう年の変わらないレイドって少年勇者が魔王倒したって聞いた時は本当にスゲーって思ったよ。
これで勇者はお役御免かよって、ちょっと残念な気持ちにもなったよ、なんて不謹慎だよな。
でも邪神が現れて、レイドがいないなら今度は俺がって意気込んで、バカみたいに修業して……」
自分と同じだった。
勇者レイドの後を継ごうと、自分が邪神を倒し世界を平和にしようと修業に明け暮れる日々、ジューダスはまるで自分のそのものだと、エリスは思わず頬を緩めて、そして次のジューダスの言葉で肩を落とした。
「でも自分の限界を知った」
「え?」
「俺がどれだけ剣を振るっても、俺がどれだけ攻撃呪文撃っても、俺は俺の目の前の敵を殺すだけで、誰も守れなかった。
俺に着いて来てくれたパーティーメンバーは全滅、俺だけが生き残って、それでも俺一人でもって思って戦って、でも町一つ、村一つ救えなくて、いつも俺一人だけが助かり続けた」
力無い声からはジューダスの悲しみが伝わり、エリスはかける言葉が見つからない。
「気付いた時には、邪神討伐の旅は終わっていた。
邪神を追って、モンスターや盗賊を倒して、ゆく先々の村や町の為に戦っていたはずが、あても無くただ大陸をさまよっていた。
邪神が現れたって話を聞いてもそこに向かう事もせずな……勇者をやめたただのながれ者、だから勇者堕ちだ」
最後は、もう自嘲気味な口調になってジューダスは語り終えた。
ジューダスの強さを考えれば、それこそ彼は並の人間には耐えられないような、骨身を削るような努力を払ったに違い無い。
それだけに堪えたのだろう。
かつて憧れた英雄と自分の差に、自分の無力さに、人も努力すれば魔王だって倒せる。その考えが崩れ、夢を失い、きっと彼は深く絶望したことだろう。
だが、
「ジューダスさん、私と一緒に作戦に加わりませんか?」
「なに?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます